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怒りの視線を安倍首相に向けた理由 翁長知事が語る基地、差別、安保と歴史

沖縄と日本政府の間に広がる溝とは、何なのか。

この写真には、沖縄の怒りが凝縮されている。その厳しい視線は、安倍晋三首相に向かっていた。

2017年6月23日、本島南部の「平和祈念公園」で開かれた沖縄戦没者追悼式。献花に向かう安倍晋三首相と、その様子を見つめる翁長雄志知事ら参列者を写した写真だ。東京新聞が掲載した。

写真は東京写真記者協会の2017年度優秀賞に選ばれ、ネットでも拡散した。BuzzFeed Newsは翁長知事に、この時、何を考えていたのかを聞いた。

「じっと安倍さんのことを見ながら、沖縄戦で亡くなった人たちのこと、将来の沖縄の子や孫のことを考えていたんですよ。このままではいかんな、と」

1945年、本土を守る盾として20万人が亡くなる激戦の地となった沖縄。その後も、日米安保の要として在日米軍基地の大半を押しつけられてきた沖縄。

本紙の「沖縄の視線」(再掲)が #東京写真記者協会 の本年度のグランプリ(最優秀賞)に選ばれました。献花に向かう安倍首相を見る沖縄県の #翁長知事 の厳しい目が印象的です。 12月19日~25日・日本橋三越本店、12月27日~1月… https://t.co/wPDaSU5qUQ


「私からすると、安倍さんを見る目は厳しいものにならざるを得ないのです」

12月中旬、東京都内でBuzzFeed Newsの単独取材に応じた翁長知事は、そう当時の心情を振り返った。

「このままではいけない」と感じた理由

基地があるゆえに、米軍関係の事件や事故は後を絶たない。沖縄はその被害者だ。なのに、反対運動をすれば「中国のスパイ」などとバッシングされ、事故が起きれば「自作自演」と罵る人たちすら現れるようになった。

負担軽減のためと、沖縄本島中部にある米海兵隊普天間基地の移設が日米間で合意されているが、その移設先もまた、同じ島の中だ。

こうした沖縄の現状を将来の世代には引き継ぎたくない–—。

翁長知事は、2014年の知事選で「普天間基地の辺野古移設」に反対を訴え、対抗馬に10万票以上の差をつけて圧勝。いまも過半数の支持を維持している。

「僕らの思いが、県民の主流であるという風に思っていますよ」

就任以来4年ちかく、政府との話し合いや国を相手取った裁判など、あらゆる手段で県内移設をやめるよう働きかけてきた。

だが、政府側の態度は硬く、進展はみられない。一方で、「沖縄振興予算」は2年連続減少しており、基地に反対する沖縄への政府の対応は冷たい。

「政府と話し合いを続けても、どうにも相容れない。沖縄の現状に同情の言葉もなく、ただただ基地問題について『粛々と解決していく』と言うばかり。その人が、平和祈念公園にきて、また同じようなことを言っていたのですから。厳しい目で見ざるを得なかった」

あの眼差しには、翁長知事の、そして沖縄の人々の怒りが込められていた。

何も変わらない「虚しさ」とは

その怒りに火を注ぐのが、相次ぐ米軍機関係の事故だ。

2016年12月13日には、名護市沖に輸送機オスプレイが墜落。2017年10月には、県北部の民間地で米軍ヘリCH53Eが炎上した。

また、12月7日には宜野湾市の保育園の屋根に同型ヘリの部品が落下する(米軍は飛行中の落下を否定)トラブルが発生。その6日後には、保育園から1km先の小学校に同型ヘリの窓が落下する事故が起き、児童1人が軽い怪我をした。

トラブルのたび、翁長知事は東京へ行き、日本政府や米国大使館に抗議する。

「もう何百回も抗議している。繰り返しても、世の中が何も変わっていない」

抗議のあとには、政府側から必ずのように次の3点が伝えられる。


  • 基地負担の軽減
  • 県民に誠心誠意に寄り添う
  • 米軍に原因究明と再発防止を訴える

そしてまた、事故が起こる。「負担軽減」「誠心誠意」「再発防止」。儀礼的な虚しい言葉が繰り返される。翁長知事は、嘆息交じりにこうつぶやく。

「ただただ、虚しさを覚えている。この本土と沖縄の溝はいつまで深く、広いまま縮まらないのか、ということを考えているんです」

「戦後レジームの完成」のために集まる負担

なぜ、溝は深く広いままなのか。事件や事故は繰り返され続けているのか。

「米軍に関する事件事故が相次いでいても、日本政府も米軍も無関心なままでいる。日本政府はアメリカに必要以上に寄り添う中で、ひとつひとつの事柄に異を唱えるということができていない」

翁長知事は、日本側に逮捕権や捜査権がないといった「日米地位協定」など、米軍が優位に立つ現状に日本政府が反論できていないと指摘する。その結果、「日本政府には(問題を解決する)当事者能力がない」と言い切る。

そして、その現状を変えようとする姿勢も見えない、と。

政府が、国民である沖縄の声を尊重し、米軍のあり方についてアメリカ政府と正面から対峙するような姿勢を取らないのはなぜか。

北朝鮮情勢や中国の台頭に対応するため日米安保体制を強化したいという狙いがある、と翁長知事はみる。その負担を沖縄に強いている、とも。

「安倍政権は『戦後レジームからの脱却』『日本を取り戻す』というが、現実的にはアメリカの傘の中で生きていく道を選んでいる。むしろ『戦後レジームの完成』を目指しているのではないでしょうか」

「そういった状況下で、沖縄は日本の安全保障において大きな役割を果たしている。私は日米安保体制を認める立場にいるが、『沖縄だけ我慢してくれ』ではなく、日本全体でこの負担について考えてもらいたい」

「もう良き隣人とは呼べない」

沖縄は、琉球処分を経て日本に併合され、太平洋戦争ではとてつもない被害を受け、そして戦後72年間、この国の平和を守るために基地負担を受け入れてきた。

このままでは、その負担はこれからも続く。辺野古に建設する米軍基地の耐用年数は200年とも言われるほどだ。

「もう米軍を良き隣人とは呼べない。いまの状況は知事として、受け入れられるものではありません」

12月末に起きた小学校への米軍ヘリの窓落下事故でも、翁長知事が指摘したような構図が、また繰り返された。

沖縄側が安全調査完了までの飛行停止を求めていたが、米軍側が事故からわずか6日後の12月19日に同型ヘリの飛行を再開。日本政府はこの米軍の方針を容認した。沖縄の強い反発かかわらず、だ。

翁長知事は言う。

「沖縄は日本政府と米軍という2つの大きな権力に挟まれ、歴史的にも自己決定権や平等権がない立場にある」

「沖縄は日本国の一員として、アジアと日本の架け橋になろうと、将来の可能性を信じて動いている。それなのに、政府は力で押し付けてくる。今のようないじめ方をするこの国の未来は、ないのではないかと思ってしまうんですよ」


BuzzFeed Newsでは、翁長知事への単独インタビューを4回にわたって掲載します。

1月4日午前11時には【歴史的な差別と基地問題がいじめを生む 翁長知事が語る沖縄デマとニュース女子】を配信します。