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沖縄知事選、ネット上で飛び交う誹謗中傷 自民系陣営も「緊急告知」

いったい、何が起きているのか。

翁長雄志知事の死去に伴う沖縄知事選が9月30日に投開票される。翁長氏の後継路線を打ち出している前衆院議員の玉城デニー氏と、自民党や公明党などが推薦する前宜野湾市長の佐喜真淳氏の、事実上の一騎打ちとなっている。

SNS上ではそれぞれの候補を批判する様々な情報が流れている。情報元が曖昧で事実関係が確認できないものや、候補者本人が否定している「噂」なども多く、二人の打ち出す政策を巡る議論よりも、ネガティブな情報の方が目に付く。

こうした事態を受け、佐喜真淳氏の陣営で選対本部長を務める松本哲治・浦添市長は9月27日、Facebookに「緊急告知」を掲載した。

「双方の候補者を一生懸命に応援するあまり、インターネット上の一部で行き過ぎた誹謗中傷合戦が見受けられます」として、以下のように呼びかけた。

私たちが今やるべきことは相手を貶めることではなく、相手候補者にもリスペクトを払いながら、政策論争を正々堂々と展開することです。建設的ではない批判や個人攻撃したりする必要はありません。

何が起きているのか。

広がる真偽不明な情報

真偽不明の情報は、選挙の告示前から出回っていた。

その例の一つが、8月下旬にアップされた、玉城氏を批判する内容を掲載したサイトだ。BuzzFeed Newsが報じると、サイトはすぐに閉鎖されたが、真偽不明の動画は今もYoutubeに残っている。

玉城氏は9月24日朝、このようなツイートをした。

大麻、隠し子、別荘作らせた→事実無根。

一括交付金実績→別tweetで逢坂衆議院議員が証明。

別荘利権→事実無根。
以上。

自身に関して流されている、ネット上の様々な情報を否定する内容だ。

たとえば「大麻疑惑」は「政治知新.com」というサイトが9月17日に掲載した「玉城デニー候補が過去に大麻疑惑?」を発端に広がった情報だった。

この記事は9月24日までにTwitterやFacebookで7千以上シェアされているが、これは直近1週間に限ってみれば、玉城氏関係のネット記事では2番目の拡散だ。

情報源はブログだった

このサイトが情報源として引用しているのは「2018年沖縄県知事選について考えるブログ。」というタイトルのブログだ。

このブログは「玉城デニー氏についてキナ臭い記事を発見しました」とし、玉城氏が音楽関係の仕事をしていた「今から35年前くらい」の話として、その事務所の複数社員が大麻を吸引していた事件があった、と記している。

そのうえで、事務所の社長らが「全員に今後大麻をすいませんと書いた誓約書にサインをさせてたとのこと。誓約書には玉城デニーの名前もあったという話」と、伝聞のかたちで、玉城氏の「大麻疑惑」に言及した。ただし「玉城氏も大麻を吸った」とは書いていない。

ブログはその後の記事(9月19日)で「フェイクというならば、(当時の関係者に)確認していただきたい」とする一方、あくまで伝聞を書いたに過ぎないという認識を示している。

BuzzFeed Newsは、このブログに当時の社長として取り上げられた男性に取材した。

男性は「そんな事件は、そもそもなかった。いろんな情報をうまく組み合わせてでっち上げているんだと思います」と語った。

ブログは情報が「伝聞」であることを隠さず、その伝聞の出元とされる人は「そもそも、そんな話はない」と言う。現時点では、しっかりした根拠がある情報とは言えない。

一括交付金が実績は真っ赤な嘘?

一方、「一括交付金実績」は、まとめサイト「アノニマスポスト」が9月17日に掲載した記事(画像)などによって拡散。すでに3500シェアされている。

発端は、玉城氏が9月14日、自らのFacebookに書き込んだ投稿だ。自らが衆議院議員時代に「一番成果を上げたこと、実績」として、以下のように評していた。

県や市町村の自由裁量度が高い予算=一括交付金(通称)の創設」を、政府与党(当時民主党)に玉城が直談判して実現にこぎつけたこと、だと自負している。

2010年から2011年にかけて、反対意見多勢の内閣府沖縄振興担当とケンケン轟々の議論の末に勝ち取った

これに対し、公明党の遠山清彦衆議院議員(比例・九州沖縄)が翌日からTwitterで批判を展開。「県民を欺」いている、などと指摘し、沖縄の言葉で玉城氏を「嘘つき(ゆくさー)」と批判した。

その根拠になっていたのが、玉城氏が「制度を実質的に協議したPT交渉委員会議のメンバーに玉城氏はいなかった」という点だ。

改めて経緯を振り返る

この「沖縄一括交付金」が創設されたのは2012年。民主党政権のころだ。

もともと沖縄への補助金について定めていた「沖縄振興特別措置法」が同年3月で期限切れとなることから、それに代わる新たな振興法について、2011年から本格的な議論が進んでいた。

目玉になっていたのが、県側が要望していた、補助金の一括交付制度の創設だ。国が配分を決め、用途も細かく定める補助金ではなく、受け取った県が自由に使える制度への変更だった。

与野党で議論が進み、こうした制度が盛り込まれた法案は2012年2月に閣議決定され、3月に成立した。

衆議院の沖縄・北方問題に関する特別委での議論が始まると、自民や公明、社民などの野党(当時)から修正案が提出された。その協議のため立ち上がったのが、与野党PTだった(立法と調査第331号、2012年8月、参議院調査室)。

PTは民主、自民、公明、みんな、社民、新党改革の6党21人で構成。「実質の交渉」を担う9名の交渉委員を選出し、その委員を中心に協議が重ねられた。

遠山氏は与野党PTの交渉委員となった。玉城氏は確かに交渉委員ではなかった。ただ、それをもって玉城氏が「嘘」をついているというのは、ミスリードといえるだろう。

玉城氏は交渉委員ではなかったものの、与野党PTのメンバーには入っていた(琉球新報、2012年3月11日)。12年3月21日の委員会で議決された修正案の付帯決議を付すべしという動議も、「玉城デニー君外六名」から出されている。

また、玉城氏は、国会で法案が議論の俎上に上がる前から、一括交付金を求める活動をしていた。

民主党の「沖縄政策プロジェクトチーム」(PT)などに関わり、写真にあるように政府に提言も提出している(民主党広報資料、同年7月8日 / 琉球新報、同年8月24日)。

その後「行き過ぎた表現」と釈明

一括交付金の実現に向けて玉城氏が活動してきたことは間違いない。だが、交付金が玉城氏の「直談判」で「実現にこぎ着けた」かどうかというのは、評価が分かれる問題だ。

遠山氏はその後、琉球新報の取材に対し、「ゆくさー」という表現については「少し感情が入って強い表現だったかもしれない」と釈明。そのうえで以下のようにツイートした。

琉球新報に、私が昨日受けたインタビュー記事が掲載。記事で私が釈明したことに尽きる。私が主張してきた、玉城デニー氏が一括交付金を自ら直談判して実現したという「実績」は「誇大宣伝」である、は維持している。琉球新報記者にも、新たな資料を提示して説明し、私の立場は理解されたと思う。

佐喜真氏が給食費を値上げした?

真偽が不確かな情報は、デニー氏を対象にしたものだけではない。

佐喜真氏に対し「宜野湾市長選で給食費無料を掲げて当選したが、結果として値上がりした」という言説が拡散されているが、これも、BuzzFeed Newsがすでに報じたとおり、ミスリードだ。

2012年から今回の知事選に立候補するまで、宜野湾市長を務めていた佐喜真氏は、市長選で「小学校給食費の段階的無料化」を公約に掲げていた。

これを「当選したら給食費を値上げした」「嘘の公約」と、山本太郎・参議院議員や伊波洋一・参議院議員、デニー氏の「応援チーム」などのアカウントがツイートした。

実質負担は下がっていた

宜野湾市では実際、2017年度に小学生の給食費が3900円から4300円に値上げされた。

一方で同市では2013年度から市立小に通う児童を対象にした給食費の助成制度が始まった。助成額は現在2150円で、保護者の実質負担額は減っている。

この情報の拡散はネットだけに限らないようだ。実際、BuzzFeed Newsが街頭で声を聞いた那覇市の女子大学生(19)は以下のように語っている。

「(佐喜真氏は宜野湾市長選で)ディズニーリゾートの誘致を実現します、とも言っていたし、今回も本当に(公約を)実現するのかなって疑問です。あと、給食費を無料にすると言っていたのに、値上がりしたという話を聞きました」


BuzzFeed Newsは沖縄県知事選に当たり、政治家の発言やメディアの報道、ネット情報などを検証する「ファクトチェック」を実施しています。

NPO団体「ファクトチェック・イニシアティブ(FIJ)」が開催する「FactCheck沖縄県知事選2018プロジェクト」にも参加しています。

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