歴史修正主義は「表現の自由」ではない。裁判所が”ホロコースト否定”に判決

    EU加盟国の多くでは、ホロコーストの否定は法律で禁止されている。ヘイトスピーチにあたるからだ。一方、日本の「表現の自由」をめぐっては「公共の福祉」(憲法13条)に反しない範囲では認める、という指摘もあるが、ヘイトスピーチ などに関してはいまも議論が続いている。

    欧州人権裁判所は10月3日、「ホロコーストの否定は表現の自由の保護に当たらない」という判決を下した。広がる「歴史修正主義」に対し、厳しい判断が下されたことになる。

    欧州人権裁判所の発表などによると、ドイツ国家民主党(NPD)のウド・パステルス被告(写真)は州議員だった2010年、地方議会での演説中、ホロコーストを否定する文脈で、「ホロコーストは、政治的、商業的目的のために使用されている」と発言したという。

    日本の公安調査庁によると、ドイツ国家民主党は、1964年に結成された極右政党。人種主義的な国家主義を唱え、「ドイツの国境線を1937年時点に戻すこと」などを要求しているという。

    被告は2012年8月、ドイツの地方裁判所で「死者の記憶と、ユダヤの人々の名誉を意図的に毀損した」として有罪判決を受け、その後確定。被告は欧州人権裁判所に不服申し立てをしていた。

    グラスの水の中に毒を…

    EU加盟国の多くでは、ホロコーストの否定は法律で禁止されている。ヘイトスピーチにあたるからだ。

    一方被告は、ドイツの裁判所が判断の際に「スピーチの些細な部分を不公正につまみ出している」と主張していた。しかし、欧州人権裁判所の判決では、ドイツの裁判所がスピーチを精査していることを評価。

    被告は事前に、意図的に言葉を選び、スピーチを難読化していたものの、「ホロコーストを否定」する意図は隠しきれていない、としたドイツの裁判所の指摘を認めた。

    なお、ドイツの裁判所は被告の手法を「すぐに検出されないために、グラスの水の中に毒を垂らしたようなもの」と表現しており、欧州人権裁判所の判決でも引用されている。

    日本の憲法との違いは…?

    そのうえで判決は、「欧州人権条約の民主的価値観に反する文脈である発言は、保護に値しないもの」と指摘した。

    被告の発言は「明確なホロコースト否定」であり、「確立された歴史的事実と相入れないものであり、被害者を侮蔑したもの」であると厳しく批判。

    「ユダヤ人を中傷するために意図的に虚偽を述べた」と認定し、ドイツの裁判所の判断について、「民主社会に必要」だったものだとした。

    欧州人権条約の第10条では、表現の自由を認めるとともに、その行使には「義務及び責任をともなう」としている。

    また、「他人の名誉や権利の保護」や「民主的社会において必要」な場合などは、その制限や刑罰を課すことができると明文化されている。

    「一切の表現の自由は、これを保障する」としている日本の憲法21条とは大きく異なる点だ。「公共の福祉」(憲法13条)に反しない範囲では認める、という指摘もあるが、ヘイトスピーチなどに関してはいまも議論が続いている。