強調される「妻の支え」？
ノーベル賞の自然科学3分野の発表が終わった。日本からは、東京工業大学栄誉教授の大隅良典さんが医学・生理学賞を受賞。これで、日本人のノーベル賞受賞者は25人（外国籍の取得者も含む）になった。
受賞者が決まるたび、本人の研究成果はもとより、その「人となり」にもメディアの注目が集まる。特に「妻の支え」がフィーチャーされることも。
受賞翌日、夫婦の共同会見が開かれた大隅さんの場合はどうか。そもそもこの共同会見は、各社から妻に対する取材があったため、開かれたという経緯がある。
東工大の広報担当者は、BuzzFeed Newsの取材に言う。
「奥様への取材が殺到したことで、個別に受けきれないことをカバーするために、あのような会見の場を設けました」
ネット上には賛否の声が
では、各社はどう報じたのか。
NHKの「ノーベル賞 妻の言葉からみる受賞者」というコンテンツでは、会見で妻・萬里子さんが語った大隅さんのプライベートを描き、さらにネット上のコメントを、こんな風にまとめている。
奥さんに恵まれている
この２人の様子が報道されると、ネット上には萬里子さんについて多くのコメントが投稿されました。
「やはり妻の支えって、旦那さまに良い仕事をさせるのだ」
「ノーベル賞とってるひとは奥さんに恵まれてますねー」
「私もこうやって支えられる奥さんになりたいな」
東京新聞は「ノーベル賞大隅さん、夫婦で会見 偉業達成『妻が支え』」と報じた。毎日新聞は「息子2人を育てながら、夫の研究を長年見守り、陰で支えてきた」と紹介している。
ツイッターには、「ちょっと抜けた研究職の旦那さんと奥さんの内助の功的な図がすてき」との書き込みがあった一方、違和感を覚えたという人のコメントもあった。
ノーベル賞を受賞した大隈さんが夫婦で会見することに違和感を感じるのは私だけなのかな？ 相変わらずマスコミは内助の功みたいな報道をしたがってる気がして、違和感を感じるんだよなぁ
「人となり」と「内助の功」
どうして、メディアはこうした報道を続けるのだろうか。
NHKは先出の記事で、「受賞は本人だけでなく、家族や周りの人にとっても喜ばしいことで、家族がそれを喜ぶ姿は微笑ましいこと」という識者のコメントを引用。報じることの意義について、こう触れている。
成果を残した研究者が一体どんな人なのか。私たちは家族の言葉を通じて、その内面に触れ、研究が実を結ぶまでの過程や苦労をうかがい知ることができます。
それは、ひいては科学への関心を高めることにもつながるのではないでしょうか。
「ノーベル賞受賞者が親しみを持たれるように、研究者が家でどんな姿なのか、どんな息抜きをしているか、ということは報じられても良いと思います。それは、科学技術に興味を持つきっかけにもなりますから」
BuzzFeed Newsの取材にそう語るのは、メディアジャーナリストで慶応大学SFC研究所・上席所員の渡辺真由子さんだ。自らも民放テレビ局で記者、ディレクターを務め、メディアリテラシーやジェンダーを専門とする。
渡辺さんは「しかし、『人となり』を伝えることと『内助の功』を強調することとは、別問題です」と言う。
「妻が夫を支えることが美しいことなのだ、と肯定的なイメージをメディアが世間に広めることは、別問題です。女性が本来持っているはずの能力や、やりたいことなどが開花する道のりを、結婚によって閉ざされても構わない、という価値観を広げていくことにもつながってしまう」
メディアは「家を守る妻」に固執している？
こうした報道が続く背景には、メディアが固執する「あるべき夫婦像」があるというのが、渡辺さんの見方だ。つまりそれは、これまで日本で良しとされてきた「夫が外で働き、妻は家を守るという価値観や考え方」である。
「この種の報道をメディアはずっと繰り返してきている。その価値観に無理矢理にでもあてはめよう、という先入観を持って取材を始めているのでは」
内閣府の「男女共同参画白書」（平成27年度版）を見ると、2014年の新聞社や通信社の女性の割合は15.8％、民間放送局では20.9％、NHKは15.2％と、決して多くはない。
「日本の価値観、文化を牽引しているのはメディアです。現在は共働きの夫婦も増えていますし、社会で活躍している女性も増えていく。マスコミも変わっていくべきではないでしょうか」
ちなみに、BuzzFeed Japanの男女比率は50:50だ。