「週に数千円あれば」DV被害で夫から逃げると… 公助からこぼれ落ちた母親たちの実態

    「ノーセーフティーネットひとり親家庭」は造語。別居や離婚前であることから、公的な制度の利用ができていなかったり、孤立してしまったりして、実質的にひとり親家庭になっている状態を指すという。

    生活に困窮する家庭の多いひとり親家庭のなかでも、DVなどを受け、配偶者と別居していたり、離婚前であったりすることから、支援の枠組みから外れてしまっている家庭がいる。

    そうした「ノーセーフティーネットひとり親家庭」の実態調査の結果が11月11日、公表された。7割以上が年収200万円未満で、コロナ禍で無収入だった家庭もあるという厳しい実態や、「頼みの綱」である児童手当が受け取れていない人がいることも明らかになった。

    調査は、フローレンスや「しんぐるまざぁず・ふぉーらむ」などが集まったプロジェクトチームが2020年9月に実施した。有効回答数は262件だった。

    「ノーセーフティーネットひとり親家庭」は造語。別居や離婚前であることから、公的な制度の利用ができていなかったり、孤立してしまったりして、実質的にひとり親家庭になっている状態を指すという。

    背景には、DVの被害が存在する。98.1%と、そのほとんどが母子世帯で、相手からDVを経験したことがあると答えた人は72.1%。うち「精神的なもの」は92.6%、経済的なものは71.4%、身体的なものは49.2%、性的なものは36.5%にのぼった。

    また、実質的な「ひとり親」の状態が1〜4年にのぼると答えた人は63%と、その困窮が長引いていることも明らかになった。

    その困窮している生活実態も判明した。就労年収200万円未満の割合は、厚生労働省調査の「母子世帯」で58.1%。

    しかし、「ノーセーフティーネットひとり親家庭」では71.8%が200万円未満であることがわかった。そのうち、100〜200万円未満が28.6%、100万円未満が27.5%、さらに収入なしが15.6%だった。

    また、新型コロナウイルスの影響は甚大だった。生活が苦しくなったと答えた人は72.1%で、直近3ヶ月(2020年6〜8月)の月収平均が15万円未満と答えた人は67.6%にのぼった。うち収入なしと答えた人は20.2%、5万円未満と答えた人も10.7%いた。

    子どもたちの「連れ去り」リスクも

    こうした世帯に対し、「命綱」となっているのが児童手当だ。世帯の状況や年収によるが、最大月1万5000円が、中学生まで支給される。

    この児童手当について、別居相手が受け取っている、もしくはわからないと答えた人は22.6%いた。

    さらに「受け取れていない時期があった」と答えた人も2割ほどおり、推計では「ノーセーフティーネットひとり親家庭」の半数弱が児童手当を受け取れていない、もしくはそういう時期があったことになるとみられている。

    児童手当はそもそも、制度上は児童と同居している側に支払われることになっている。しかし、別居中の相手と同一生計でないことを証明したり、住民票を別世帯にしたりする必要がある。

    しかし、扶養に入ったままのため証明が難しかったり、DV被害者が相手に住所を知られたくないため手続きできていなかったりするというケースは少なくない。

    別居相手が受け取っていると答えた人のうち、受給者変更の手続きをとっても受理されなかったという人は約6割にのぼっており、こうした制度上の課題が明らかになった。

    実際に、子ども3人分の児童手当てを受け取ることができていなかったという女性は会見で、「なぜ夫が受け取り続けるのかと感じた」と語った。

    女性は「お前はバカでクズ。子どもたちがお前みたいになったから終わりだから」などという暴言を浴びるなど、夫からの精神的DVを受けたため、避難して暮らしている。

    子育てをしながら働いており、収入は夫の3分の1程度。そのため、年間数十万円になる児童手当は頼みの綱だったという。女性は「子どもたちの連れ去りのリスクなどもありましたが、仕方なく住民票を移せざるを得ませんでした。精神的に、とても負担でした」と訴えた。

    低収入であればあるほど…

    児童手当制度に詳しい福井県立大学の北明美名誉教授は「児童手当がそんなに重要なのかと驚く人も多いが、1週間のうちに数千円でもあれば命綱になる家庭もいる。低収入であればあるほど大きい金額になる」と語る。

    北教授は、児童手当以外にも、医療費の補助や保育料の算定などにおいて、こうした「ノーセーフティーネットひとり親家庭」が制度からこぼれ落ちてしまっている可能性があり、行政側も把握ができていないとして、運用の改善を求めた。

    また、フローレンス代表理事の駒崎弘樹さんも「社会制度のはざまに落ちて、統計に現れない厳しい状況にいるひとり親がいるという実態が明らかになった」と指摘。

    「離婚していないので助けられないと行政窓口で1度でも言われてしまうことが、相談することを諦めさせてしまっていることにつながっている」など、「ノーセーフティーネットひとり親家庭」が孤立していることも問題点であるとした。

    特に児童手当について、「当たり前に受け取ることができるように国、行政に制度改善を訴えていきたい」と語った。プロジェクトチームでは提言を出し、自治体がそうした世帯を把握すための「DV事務通知」の制度運用の変更などを今後も働きかけていくという。