時短拒否の飲食店名公表は「グレーゾーン」緊急事態宣言、弁護士が懸念する理由
現状の法令のままでは、緊急事態宣言下であっても、飲食店の使用制限や店名の公表はできない。政府は今回の態宣言に対応するため、政令改正によって飲食店を含める方針だ。
新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、1月7日にも東京などの1都3県に発令される緊急事態宣言。その内容に憂慮を示す弁護士ら有志が「再発出に慎重な対応を求める緊急声明」を6日、発表した。
会見では、政府が検討している営業時間の短縮要請や休業要請に応じなかった飲食店の店名公表について「超法規的措置で強い制約を科す一方で補償の議論はされていないまま」と批判する声もあがった。

1月5日の東京・新宿
声明を発表したのは、弁護士やジャーナリスト、大学教員らの有志10人。
前回の緊急事態宣言の具体的な検証や問題点に関する議論がされぬまま再発令されることにより、憂慮される事態があるとして、補償の徹底や行動制限を必要最低限にすることなどの9点を政府や国会、司法機関や各自治体に求めている。
なかでもメンバーが問題視したのが、「要請に応じなかった飲食店の店名公表」に関してだ。
前提として、現状の法令のままでは、緊急事態宣言下であっても、飲食店の使用制限の指示や、店名の公表はできない。
宣言の根拠となる新型インフルエンザ等対策特別措置法45条では、宣言の対象となった都道府県知事が「学校や社会福祉施設、興行場」などの多数の人が使う施設に対して「当該施設の使用の制限若しくは停止又は催物の開催の制限若しくは停止」を要請できると定めているが、ここに飲食店は含まれていないからだ。
この45条では、要請に従わない場合は指示することができるとされているほか、要請・指示については公表できると定められている。前回の発令時には休業要請を受けながら営業していたパチンコ店が、店名公表の対象となったことがある。
条文では対象施設について「その他の政令で定める多数の者が利用する施設」とされていることから、政府は今回の緊急事態宣言に対応するため、政令改正によって飲食店を含める方針だ。
発起人のひとりの水上貴央弁護士は会見で「日本社会において、要請に従わない段階での店名公表は強い制限になる。しかし、そもそも特措法に記されている公表は制裁目的ではなく、営業時間の短縮の要請ができるのかもグレーゾーン。政令改正による飲食店への対応は超法規的な措置ではないか」と指摘する。
「法の委任の範囲を逸脱」

水上弁護士
なぜ、「超法規的な措置」になるのか。実際、2020年4月23日に内閣官房から出された特措法の「第45条の規定に基づく要請、指示及び公表について」という事務連絡には以下のように記されている。
「特措法45条第2項及び第3項の規定に基づく要請及び指示は、施設を管理する者等に対して行われるものであり、使用制限等の対象も個別の施設となる」
「特定可能な個別の施設名等を広く周知することにより、当該施設に行かないようにするという合理的行動を確保することを考え方の基本としている」
水上弁護士はBuzzFeed Newsの取材に対し、この事務連絡を示しながら以下のように説明する。
「要請や指示は『施設』に着目しており、『営業』に着目しているわけではありません。なぜならもともとこの法律は、感染源となるような場所を使用させないということに規定の主眼があって、公表の目的も、その施設が使用できないということを、広く国民に周知する点にあるからです」
「飲食店に限りませんが、ある特定の営業に着目して制限をすると、この規定の趣旨を外れてしまうことになります。そのような適用を認めてしまう政令をつくる権利は行政にはないため、法の委任の範囲を逸脱しているということになります」
そのうえで水上弁護士は、宣言が国会承認を必要としないとされている点について「手続きが緩くなっている」とも批判した。
前回宣言前の衆議院の付帯決議(2020年4月2日)では、宣言について「国会へその旨及び必要な事項について事前に報告すること」とされている。これは同じ付帯決議で「国民の自由と権利の制限は必要最小限のものとする」とされているための簡略化であるとみることができる。
水上弁護士は、制裁目的の公表という点において前回のパチンコ店についても問題があったとしつつ、今回の飲食店の対応について「発動要件は弱いまま制限が強くなるということはさらに深刻な問題。立法段階における主権者への裏切りにもなる」と批判。
「店舗側に強い制限を科す一方で、補償について行政側の義務は明示されないままになっており、この部分は発令前にちゃんと議論する必要がある」と、国会が開かれる前に宣言が発令されることに苦言を呈した。
「緊急事態宣言の弱者」にも目を

山口特任准教授
この日発表された声明ではそのほか、以下のような点を求めている。
(1)社会経済活動への影響を最小限にするための補償を徹底する
(2)超法規的措置を取らず、行動制約を必要最小限にする
(3)出口戦略を明示する
(4)いたずらに延長しない
(5)立法府と司法府を継続する
(6)医療提供体制の拡充・支援の強化する
(7)軽症者・無症状者などによる医療逼迫を解消する
(8)過度な自粛警察や差別への対応をする
(9)感染収束後、独立した検証機関を設置する
信州大学の山口真由・特任准教授は特に1点目が重要であると指摘。「医療弱者がいるように、緊急事態宣言においての弱者もいる。特に非正規などの若者たちが大きな影響を受けている。全ての人に平等な負担ではない」として、補償の充実が必要であると訴えた。
倉持麟太郎弁護士も「社会的弱者がさらに追い詰められてしまう問題や、行政法上は情報提供とされているはず施設の公表が制裁、戒め、晒し者となってしまっている点など、昨春の立て付けのまま宣言をやるべきではない」として、国会における議論を求めた。