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「当選確実」を報じるため、過労死した娘。記者の「夜討ち朝駆け」は必要なのか?

NHKで過労死した記者の母親が訴えたこと。

2013年に過労死していたことが明らかになったNHK首都圏放送センター記者・佐戸未和さん(当時31)の母親・恵美子さんが11月8日、東京都内で開かれた「過労死等防止対策推進シンポジウム」に登壇し、その心中を語った。

「2013年7月25日、午後2時半。当時駐在していたブラジルのサンパウロで、私たち遺族は長女未和の悲報を受けました」

そう、時折声を震わせながら、目を潤ませながら自らの思いを吐露した恵美子さん。公の場に立ったのは、今回が初めてだ。

関連:【全文】「娘の勤務状況は異常だった」 NHK記者過労死、母親が初めて語った思い

当時入局9年目だった佐戸さんは、2013年の夏、東京都議会議員選挙と参議院議員選挙を担当していた。

選挙担当者の取材は、候補者たちの「当選確実」を他社よりもいち早く報道するために日々駆け回ることになる。

佐戸さんも、街頭演説のみならず、候補者や陣営取材に奔走。さらに出口調査や幾度もの会議を重ねていた。勤務は深夜にまで及んだという。

「娘には土曜も日曜もなく、連日深夜まで働いており、異常な勤務状況でした。まともに、睡眠をとっていませんでした。どうして、こんなに長時間労働が職場で放置されていたんでしょうか」

死後に届いた「報道局長特賞」

遺族が勤務記録やタクシーの乗降記録などから独自に調査した結果によると、亡くなる直前1ヶ月の時間外労働時間は209時間、その前の月は188時間だったという。

未和さんが亡くなったのは、7月24日。参院選投開票日の3日後だった。

「いちばん若くて、独身で身軽な未和が、土曜も日曜もなく、連日深夜まで働いていることを、チームのベテラン記者のだれかが気遣ったり、配慮することもなく、職場で一番弱い未和が犠牲になりました。失わずに済んだ命でした」

その夏は35度前後の気温が続いていた。代理人の川人博弁護士は、「都議選と参院選が重なり多忙を極めたうえ、酷暑の中で街頭での現場取材などさまざまな業務に従事し、体力を消耗させていった」とみる。

NHKからは未和さんの死後、「都議選、参院選での正確、迅速な当確を打ち出したことにより、選挙報道の成果を高めた」として、「報道局長特賞」が届いたという。恵美子さんは言う。

「選挙の当確を一刻一秒はやく打ち出すために、200時間を超える時間外労働までして娘が命を落としたかと思うと、私はこみ上げる怒りを抑えることができません」

遺族は2013年10月に労災申請。14年4月に認められたが、公にはされてこなかった。NHK側は「当初、遺族は公表を望まなかった」としているが、遺族側は否定しており、見解が異なっている。

マスコミの「夜討ち朝駆け」は必要なのか

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「長時間労働を報じる側」であるマスコミの労働実態は、これまで大きくクローズアップされることはなかった。

2016年に始めて発表された「過労死防止白書」には、厚生労働省が企業約1万社(回答1743 件)、労働者約2万人(回答1万9583人)を対象に昨年、実施したアンケート結果が載っている。

これによると、1年で残業が一番多い月の残業時間が「過労死ライン」とされている80時間以上だった企業の割合は、テレビ局、新聞、出版業を含む「情報通信業」が44.4% (平均22.7%)と一番高い。

先出の川人弁護士は、シンポジウムで、その働き方について警鐘を鳴らした。

「メディアでは夜討ち朝駆けなど、早朝から深夜まで働くことが慣行とされており、休日労働も頻繁にある。これらが本当に必要不可欠な労働なのかなども踏まえ、見直しが迫られているのではないでしょうか」

「夜討ち朝駆け」とは、深夜と早朝に取材先の自宅などを訪れ、情報を集める取材のこと。日本のマスコミでは、一般的な手法だ。川人弁護士はこう続けた。

「公益性を理由にし、過重労働を放置し、過労死を発生されることはあってはなりません。健康に生き生きと働くことで、真の公益性が保たれるのです」

娘は、働き方改革の「人柱」になった

未和さんの過労死公表を受け、NHKは働き方改革に取り組んでいく姿勢を表明している。

恵美子さんは、シンポジウムの後段でこう語った。

「私たちは、未和は今後会社が進める一連の働き方改革の人柱になったと思い、過労死の再発防止と改革の推進を見つめていきます」

「娘はかけがえのない宝。生きる希望。夢、そして支えでした。未和の匂い、未和の体の温かさを私はこれからも忘れることはありません」


BuzzFeed Newsでは、恵美子さんの語った内容全文を【「娘の勤務状況は異常だった」 NHK記者過労死、母親が初めて語った思い】に掲載しています。


Kota Hatachiに連絡する メールアドレス:Kota.Hatachi@buzzfeed.com.

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