安倍首相は、辞任表明の会見でなぜ「プロンプター」 を"使わなかった"のか?

    「プロンプター」は、1993年12月に細川護煕元首相が使ったのが初めて。その後、森喜朗元首相や麻生太郎現副首相が使ってきた。安倍首相が導入を始めたのは、就任から1年後の2013年12月の会見からだ。

    安倍晋三首相が8月28日、自らの持病の再発を理由に総理大臣を辞任すると明らかにした。

    会見では、安倍首相がこれまで活用してきた透明な板に原稿を投影する「プロンプター」を使っていなかったことについて、を記者に問われる場面もあった。

    「プロンプター」は、1993年12月に細川護煕元首相が使ったのが初めて。「真正面を向いたまま国民に語り掛けたい」というのがその理由だったが、直前に大幅下落した支持率の挽回を狙う意図もあったという(共同通信、2013年12月)。

    その後、森喜朗元首相や麻生太郎現副首相が使ってきた。安倍首相が導入を始めたのは、就任から1年後の2013年12月の会見からだ。

    当時のアメリカ・オバマ大統領も使用していたこともあり、それに倣って「国民に語りかけるような自然な目線」を演出する狙いがあったという(毎日新聞、2013年12月15日)。

    なお、細川、森、麻生元首相らがいずれもプロンプターの初使用から半年以内に退陣していたことから、安倍首相も使用開始直後には「不吉」「ジンクス」などとも報じられていた。

    この日の会見では使われず…?

    しかしそうした「ジンクス」を跳ね除け、結果として安倍首相の在任期間は「歴代最長」となった。

    安倍首相は、コロナ禍の会見でもプロンプターを使用していたが、未曾有の危機に側近が書いた原稿を読み上げる形に「棒読み」(毎日新聞、2020年5月6日)「リーダーが自らの言葉で語らなければ」(朝日新聞、2020年8月5日)などと批判する声も上がっていた。

    そんな安倍首相は、自らの辞任を表明する8月28日の会見で、プロンプターを使用しなかった。

    記者からはその理由について問われたが、安倍首相は笑みをこぼしながら、「プロンプターは世界の指導者が使っている。今日はギリギリまで原稿が決まらず、私も推敲していなかったので、このような形になりました」と語った。

    また、これまでの会見対応をめぐって、「質問の答えが用意されている」などと批判を受けていたことに関する質問も別の記者からあがった。

    安倍首相は「総理大臣なので、正確性のある答弁をしなくてはいけない。どういう質問がでるか想定して作っている。前もっていただいた質問ではない」と述べた。

    次の総理大臣はどうなる?

    安倍首相は、臨時代理は置かず、次の首相(自民党総裁)が決まるまで執務にあたるという。会見ではこう語っている。

    「次の総裁が決まるまでどれくらいかかるのかは、案を具体的に執行部が考えている。私の体調は、基本的にはその間は大丈夫だと思っている。長期ではないけれど、しっかりと選んでいただける。政策論争ができる時間はとれるだろう」

    安倍首相は会見では選出への「影響力を行使すべきではない」とも述べているが、新しい総裁については、党員を含んだ通常の自民党総裁選ではなく、両院議員総会による選出になると報じられている。

    自民党の党則で任期中の「特に緊急を要する時」に実施できると定められているルールだ。国会議員票に加え、都道府県連に票が割り当てられるが、党員を含む通常の総裁選よりも議員側の意向が反映しやすい。なお、次期総裁の任期は、安倍氏の本来の任期である2021年9月までとなる。

    安倍首相は会見で、自ら次の首相候補者の具体的な名前をあげることはなかったが、「後継として名前の上がっている方々は、それぞれ有望な方々。内閣や与党で一緒に働いた。政策を競い合うなかで、素晴らしい方に決まっていくのだろう」と期待も示している。

    そのうえで、「with コロナで新しい日常を作り出すなかで、それぞれの方々が未来を見据えて進んで行ける日本社会をつくっていってほしい」と語った。