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Updated on 2020年8月14日. Posted on 2020年8月6日

「おとうちゃん どうして…」子どもたちの残した原爆の詩が、いま問いかけるもの

戦争を知る世代を中心にした女優たち18人が結成した「夏の会」が朗読劇「夏の雲は忘れない」で読み継いできた、原爆体験者たちの言葉。そこから見えるものとは。

原爆投下を経験した小学生が書いた、こんな詩がある。

Prisma By Dukas / Universal Images Group via Getty

「げんしばくだんがおちると ひるがよるになって ひとはおばけになる」(小学3年、坂本はつみ)

75年前のあの日、広島や長崎に生きていた子どもたちは、何を見て、何を感じていたのか。

生々しい言葉が、いまを生きる私たちの心にも、深く刺さる。

「あさだった ばくだんがおち みんなたすけてー といっている

いぬもしんでいた いきているいぬは みんなほえている

まつの木の下には となりのおじさんが しんでいた」(小学4年、松島愛子)

Universal History Archive / Universal Images Group via Getty

こうした子どもたちの詩を読み継いできたのが、朗読劇「夏の雲は忘れない」だ。

戦争を知る世代を中心にした女優たち18人が結成した「夏の会」が、2008年の初演から同会を解散する2019年まで、全国各地で演じてきた。

「夏の会」によって読み継がれてきた言葉は、子どもたちの詩に限らない。

家族を失った母親、生徒全員を失った学校長、さらには被爆地に足を踏み入れた米兵の手記、そして被曝し亡くなった子どもたちの最期の声も、ある。

手記や詩は、女優たちが自らの手で、膨大な史料から探し出した。

そして女優たちはそれを、淡々と読み繋いだ。主役は言葉たちであって、自分たちはあくまでそれを「代読」している、として。

「いたといたの中に はさまっている弟、 うなっている。

弟は、僕に 水 水といった。

僕は、くずれている家の中に、 はいるのは、いやといった。

弟は、 だまって そのまま死んでいった。

あの時 僕は 水をくんでやればよかった。」(小学5年、栗栖英雄)

「どんな気持ちだったんだろう」

Bettmann / Bettmann Archive

戦後撮影された広島の子ども

この夏、「夏の雲は忘れない」の台本が書籍化された。

劇の演出に携わっていた演出家の城田美樹さん(51)は、BuzzFeed Newsの取材に、本に連なる言葉たちを「声に出して読んでもらいたい」と語った。

「あまりにも悲惨で、想像もできないような状況に身に置かれた時に発せられた言葉たちは、からだを通して、できれば声に出して読んでもらいたいと思っています。そうすることで、想像力がかきたてられるんです。どうしてこんなことがと、どんな気持ちだったんだろうと、考える。心が、動くんです」

「そもそも、体験していないことは他人事なんですよね。私もそうでしたけれど、非常に遠いこととしか受け止められない。教科書的に教わったとしても、昔あったことだと終わってしまうことが多い。でも、自分のからだ通すことで、他人事ではなくなる力があると感じているんです」

「げんしばくだんでしんだ おとうちゃん どんなになってしんだのよ。

どうして早く うちにかえらなかったのよ。

こころのやさしい おとうちゃん どうしてわたしをおいて しんだのよ。

おかあちゃんはおとうちゃんの かわりに くみあいにいっている。

おにいちゃんはしんぶん くばりにいっている

どうしてひろしまにげんしばくだんが おちたのかわたしにしては わかりません」(小学3年 向井富子)

「残されていない」言葉もある

Kota Hatachi / BuzzFeed

夏の雲は忘れない ヒロシマ・ナガサキ一九四五年(大月書店)

「残されていない声の方が実は多いんです。朗読劇に携わるなかで、その重みを知りました」

城田さんは、そうも語る。広島と長崎に落とされた原爆で命を失った人は20万人以上。まったく、もしくはほとんど言葉を発せずに亡くなってきた人たちも、少なくないからだ。

「彼らがどんなふうに死んでいったのか。残された人はどんな思いだったのか……。そして、当たり前のことが、いかに尊いか。言葉のなかには、忘れてはならない、消してはならない事実や意思が宿っているんですよね」

「お母ちゃん、すまんね」

「兵隊さん、ぼくたちがどんな悪いことしたの」

「天皇陛下ばんざい、お母ちゃんばんざい」

「水がほしい、水が飲みたい」

「このあいだの一学期の成績は良かったでしょう?」

「ほんとうにお浄土はあるの? そこにはヨーカンもあるの?」

「ねえちゃん、目が暗くなった」

「母さん、戦争だものね」(子どもたちの最期の言葉より)

言葉たちを引き継ぐために

夏の会提供

これまでの「当たり前」が、突如として「当たり前でなくなる」ということ。

新型コロナウイルスの感染拡大をめぐり、リアルタイムでそうした経験している私たちには、原爆投下後に残された言葉がより届きやすいと、城田さんは感じている。

「当時といまの状況はまったく違いますけれども、突然なにか、いままで当たり前のように過ごせていた状況がなくなったという意味では、感覚としてこうした言葉を受け取りやすくなっていると思います」

夏の会は解散をしたが、城田さんは今後も、この「言葉たち」を引き継いでいくつもりだ。

「本として書架におさまっているときは人の目には触れないけれども、他者の手に渡ることで蘇る。だからこそ、愚直に伝えつづけていくということが大事だと思っています。事実をゆがめずに、そのまま」

「地続きの命にいま生かされているものとして、これは続けていかないといけない。自分が続けることで、未来まで足元は伸びて行きますから。私は、女優たちからそのバトンを渡されているんです」

台本が書籍化されたことを機に、全国からは「朗読したい」という声が集まっている。その中には、高校生もいたという。本の最後、城田さんはこう記している。

「耳を傾けなければならない。何度でも。この言葉たちは、眠っていないから」

城田さんの文章は大月書店のnoteでも公開されている。


Contact Kota Hatachi at kota.hatachi@buzzfeed.com.

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