投票用紙の計表機などを担う選挙システム最大手「ムサシ」の筆頭株主が安倍晋三首相である、という情報がネット上に拡散している。
結論からすると、これは「誤り」だ。BuzzFeed Newsは、ファクトチェックを実施した。

拡散しているのは、森友学園問題で渦中の人となった前理事長・籠池泰典被告の発言だ。
籠池被告は妻とともに、小学校の建設工事や幼稚園の運営をめぐって国などの補助金計約1億7000万円をだまし取ったとして、詐欺などの罪に問われ、大阪地裁で開かれている裁判で懲役7年を求刑されている。
10月31日には、こうした現状に抗議する会見を外国特派員協会で開いていた。そのさなかに飛び出したのが、以下のような発言だ。
「我が国の選挙制度について、本来手で開票していましたが、いまではムサシという機械が使われいますね。そのムサシという機械(を製造する企業の)の筆頭株主も、安倍晋三首相とも聞いております。竹中平蔵さんがそのプロデュースしたということも聞いております」
ムサシの「自動集票」により、選挙で不正が行われやすい状況になっている、という発言だ。この発言を切り出した動画は、Twitter上で拡散。約38万回再生されている。
また、発言を引用する形で「籠池さんが外国人記者クラブでスクープ発言」などとうたったツイートも5000件近くシェアされ、情報は広がりを見せている。
筆頭株主は「上毛実業」

この言説は、誤りだ。
ムサシの有価証券報告書を見ると、少なくとも2002年以降、筆頭株主は「上毛実業」(東京都)という会社であることがわかる。大株主も含め、安倍首相の名前は一切出ていない。
BuzzFeed Newsはこの「上毛実業」の法人登記簿と閉鎖事項全部証明書を確認したが、安倍首相の名前はどこにもなかった。なお、「上毛実業」の取締役に2015年まで名を連ねていた羽鳥雅孝氏は、ムサシの現社長と同姓同名だ。
また、2番目の大株主である「ショウリン商事」の法人登記簿も確認をした。取締役に名前があるのは小林厚一氏は、ムサシの前社長、現会長と同姓同名だ。
いずれも、安倍首相との関係は見当たらない。BuzzFeed Newsの取材に応じたムサシの広報担当者も、こう語る。
「両社ともに、創業家の資産管理会社です。筆頭株主が安倍首相という話は事実無根です。安倍首相個人とは無縁の会社であり、人的、資本関係もまったくありません。また、竹中平蔵さんとうちも関係はありません」
ムサシをめぐる都市伝説も「誤り」

ネット上では、ムサシをめぐってこの「上毛実業」に関する都市伝説が多く囁かれている。例えば、こういった内容だ。
「ムサシは外資に乗っ取られている」「ムサシにはユダヤ系資金が流入している」
これは、筆頭株主である「上毛実業」と同名の企業が群馬県前橋市に存在したことに起因しているとみられる。
かつて前橋市に存在した「上毛実業」は、「上毛」(現・価値工業)の商業部門の子会社として1940年に設立。その後は損害保険などを取り扱っていたが、2001年に解散している(読売新聞、2001年9月14日)。
一方の「上毛」は、もともと繊維業を営んでいたが、その後は不動産業に転換。ホテルやリゾート開発などに力を入れ、2008年には社名を「価値開発」に変更した。
同社の有価証券報告書によると、投資会社「アルガーブ」が「価値開発」の筆頭株主だった時期があった。
一部の人たちはこの点を切り取り、「上毛実業の筆頭株主はアルガーブ。その親会社はダヴィンチで、その筆頭株主はゴールドマンサックスの資金提供を受けているフォートレス・インベストメント、大株主はロックフェラー財団だ」とし、外資やユダヤ系企業からムサシへの資金流入がある、と指摘しているようだ。
「アルガーブ」が「ダヴィンチ」の投資子会社であることや、「ダヴィンチ」に「ロックフェラー財団」や「フォートレス・インベストメント」の資金が提供されていたことは、過去にも複数報道されている。
とはいえ、先出の通りムサシの筆頭株主である「上毛実業」とかつて前橋市に存在した「上毛実業」はまったくの別会社であり、無関係だ。
陰謀論に注意

先の広報担当者は「そうした噂も事実無根です」と否定したうえで、こう語った。
「我々は1970年に選挙事業をはじめて、50年の歴史を持っている会社です。一貫していることは、投票・開票事務の効率化を進めて、向上によるコストダウン、人件費を中心とする提案しているということ。実際には選挙業務をしているのは自治体の方たちであり、その手助けをさせていただいているにすぎません」
ムサシは1965年から、投票用紙計数機の開発を実施しており、いまでは国内最大手だ。
それもあってか、ムサシをめぐっては、「不正選挙」に関するいわゆる「陰謀論」が後を絶たない。注意が必要だと言えるだろう。
BuzzFeed JapanはNPO法人「ファクトチェック・イニシアティブ」(FIJ)のメディアパートナーとして、2019年7月からそのガイドラインに基づき、対象言説のレーティング(以下の通り)を実施しています。
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- 正確 事実の誤りはなく、重要な要素が欠けていない。
- ほぼ正確 一部は不正確だが、主要な部分・根幹に誤りはない。
- 不正確 正確な部分と不正確な部分が混じっていて、全体として正確性が欠如している。
- ミスリード 一見事実と異なることは言っていないが、釣り見出しや重要な事実の欠落などにより、誤解の余地が大きい。
- 根拠不明 誤りと証明できないが、証拠・根拠がないか非常に乏しい。
- 誤り 全て、もしくは根幹部分に事実の誤りがある。
- 虚偽 全て、もしくは根幹部分に事実の誤りがあり、事実でないと知りながら伝えた疑いが濃厚である。
- 判定留保 真偽を証明することが困難。誤りの可能性が強くはないが、否定もできない。
- 検証対象外 意見や主観的な認識・評価に関することであり、真偽を証明・解明できる事柄ではない。