森友文書改ざん、専門家が語る本当の問題点とは

    問題が矮小化されないために、知っておきたいこと。

    「森友学園」の国有地売却をめぐり、財務省が14件の決裁文書を改ざんしていた問題。

    政府が「改ざんではなく書き換え」とし、一部の職員によるものとしている。一方の野党は、安倍晋三首相や麻生太郎財務相の責任を追及する構えだ。

    そもそも、何が問題視されているか。そしてそれは、何を意味しているのだろうか。専門家に話を聞いた。

    「財務省は、やってはいけないことをやった。『書き換え』は、そもそもいまの管理制度も法律も想定していないことですから、一線をかなり越えている」

    情報公開制度の調査研究などをしているNPO法人「情報公開クリアリングハウス」理事長の三木由希子さんは、BuzzFeed Newsの取材にそう語る。なぜなのか。

    「政府の決定の過程を残すのが、公文書管理の仕組みです。政府がものごとを決めた背景を知ることで、その位置付けや意味合いがわかり、その決定が適正なのか合理的なのか、判断することもできる」

    「つまり、公文書管理は、政府がその信頼を獲得するために、自らの決定の説明責任を果たすプロセスです。しかし今回はそうした文書をつくり変えていたことになります」

    文書では、森友学園と保守団体「日本会議」との関わりや、安倍首相や麻生大臣などの政治家の名前、昭恵夫人に対する言及などが、削除されていた。

    「特例的」などの言葉もなくなっており、交渉経緯が数ページにわたって削除されていた部分もある。その数、計200か所以上にのぼる。

    行政が政治を守っている?

    「改ざんされていた内容をみると、そもそも国有地の売却が政治家への陳情案件であること、森友学園がどういう政治的な背景を持っているのかなどの事柄が削除されていたことがわかります」

    「そもそもは、契約が政治的案件で特例であることを説明している資料だった。改ざんは答弁と反する部分へのつじつま合わせでもありますが、財務省としては、合理的ではない決定の背景にある不都合な経緯を隠したかったのでしょう」

    隠した部分に、大きな不正や違法性を伺わせる部分はない。「なぜ、こんなところを書き換えたのか」と感じたという。それゆえ、疑義も膨らむ。

    「これでは行政が政治を守っているようにすら見える。本来であれば、間違ったことです」

    麻生大臣は、こうした「書き換え」は、当時の佐川宣寿・理財局長の答弁に合わせて「一部の職員」が行ったとして、責任は佐川氏にあるとの見解を示している。

    「政府は書き換えを佐川さんのせいにしつつあります。理財局が書き換えをしていたとしたら、やってはいけないことをしているので、当然責任はある」

    「そもそもの答弁を良しとしてきたのは政治的な判断だった。交渉に関するすべての資料を出すなどといった正しい指示を出せずに、ここまでの混乱を引き起こしたことにも、問題があります」

    始まった「負のサイクル」

    これほど大規模な公文書の書き換えは、前例がないという。

    ただ、情報公開に際して、政府が都合の悪い情報を黒塗りにして隠したり、そもそも非公開としたりする事例、公開までのプロセスで修正される事例は、これまでにもあったことだ。

    「政府は、知られたくないことがあるからと、過剰な非公開や書き換え、さらには『そもそも文書を残さない』という選択をする」

    さらに、2017年12月には公文書管理ガイドラインが改定され、公文書の作成について、課長級への確認や相手方とのすり合わせが必要となった。

    これにより、行政文書に記録される内容が選択されたり、何を行政文書として残すかの選別がされる恐れが広がったとみる。

    「どのような公文書を残すかについて、これまで以上に組織的にコントロールできるようになっている。政府の決定を批判されにくくするための仕組みがどんどんとつくられ、負のサイクルに入っていくのです」

    「ただ、それは結果として政府への不信感を増長させるだけ。今回はたまたま朝日新聞の報道で改ざんが発覚しましたが、他にも同じケースがないとは誰も言えない。こういうことを繰り返すと一事が万事、疑わしく見えるようになります」

    本当に危惧していること、とは

    そのうえで三木さんは、「この問題はひとつの公文書管理の問題として単純化しない方がよいと考えています」とも語る。どういう意味か。

    「公文書管理の仕組みを変えましょう、とするだけでは、結局形骸化してしまいます。そもそもは、こうした事態を招いている政府の運営こそが、問題なのです」

    「今回の問題のみを特別な『民主主義の危機』として捉えるのではなく、文書管理をめぐる政府の姿勢全体が、以前からすでに危機にあるということを知り、文書を巡る問題だけでなく政府の活動の健全性そのものに目を向ける必要があるのではないでしょうか」

    決裁文書の改ざんは、「文書主義」であるこの国の根本を脅かす大問題であり、あってはならないことだ。

    しかし、公文書管理をめぐる問題はすでに以前から進行していた。それも、政府の不都合な決定が見えにくくなるように、だ。

    今回の問題が「財務省理財局の職員がやってしまった、異例なこと」として矮小化され、片付けられてしまうことにこそ、三木さんは危惧を抱いている。


    BuzzFeed Newsでは【森友文書の改ざん問題 新聞各紙も厳しく批判、でもその矛先は…?】という記事も掲載しています。