ヘイトが集まる内閣府サイトの実態、元「国政モニター」が証言

    いったい、何が起きていたのか。

    内閣府大臣官房政府広報室が運営する「国政モニター」のサイトに、在日コリアンへのヘイトや、特定の政治家らに対する誹謗中傷とも受け止められかねないコメントが投稿されていた問題

    同室は問題発覚後にコメントを公開中止にしたが、そうした投稿については「事実を確認中」とし、見解を避けている。

    いったい、どう運用されていたのか。BuzzFeed Newsは、モニターとして実際にコメントを投稿していた男性に話を聞いた。

    まず、経緯を振り返る

    そもそも「国政モニター」とは、国の施策に対する意見や要望を、公募で選ばれたモニターたちが投稿し、各省庁に伝えることのできる制度だ。2012年度からネット上での募集が始まり、16年度まで5年間続いていた。

    行政改革から危機管理・防災、外交、労働、東日本大震災まで、多岐にわたる分野の意見が寄せられている。省庁側が投稿に応じる「お答えします」コーナーなどもあった。

    ただ、なかには「在日韓国人は叩き出せ」「在日、帰化人の強制退去が必要」などといった差別的なものや、政治家に対して「処刑」を呼びかけるような投稿が複数みられていた。さらに、2017年3月の制度休止後も放置されていた。

    「国政モニター」の留意事項では、「立法・司法・政治関係のご意見や、誹謗中傷、差別的な内容」などは掲載しないとされているにもかかわらず、だ。

    特定の国の出身者に対し、「叩き出せ」「帰れ」など、帰国や排除をうながすような文言は、ヘイトスピーチに当たる。これは、2016年のヘイトスピーチ対策法施行後、法務省も明言している。

    こうした状況が2018年4月末、ブログでの指摘をきっかけにネット上で問題視された。一方の内閣府政府広報室は5月2日夜になって、「目的は達成し、役目は終わっている」(担当者)として、突如としてサイトの公開中止にした。

    投稿が改変されることも

    今回、BuzzFeed Newsの取材に応じたのは、2016年度に1年間、「国政モニター」をしていた30代男性会社員だ。

    男性によると、「国政モニター」への投稿は毎月1人あたり3回まで。月初めに内閣府政府広報室からメールで投稿専用のURLが送られてきて、リンク先のフォームに記入する形だった。掲載までは1週間ほど間があったという。

    サイト上では「意見、要望等を原文のまま掲載しています」とされていたが、第三者のチェックが入っていることは明らかだった、と男性は証言する。

    「投稿内容の指定はされません。何を書いてもOKでした。ただ、各省庁にとって都合の悪い文言はカジュアルに改変されていた記憶があります」

    実際、もとの投稿内容と掲載された内容が異なることが、数回あったという。特定の省庁の職員について批判的に言及したとき、「職員」という文言が削られるなどしたという。

    「今回、問題になったような書き込みが黙認されていたということは、そうした内容が各省庁には差し支え無いものだったのだろうなと、感じています」

    「愛国者」に呼びかけられたモニタリング

    そもそも、「社会に対する要望が政府に届けば」と思い、国政モニターに応募したという男性。

    Web上で年齢・性別・職業を記入し、「モニターでどんな意見を出したいか?」という内容の小論文を提出し、選出された。面接はなかったという。

    「私の場合は外国に駐在していたので、その経験を活かして提案したいというようなことを小論文に書きました」

    ただ、当時から「投稿内容の酷さ」は痛感していたといい、「国政モニターを構成する人たちに政治的思想の偏りがあった」との印象を受けたという。だからこそ、今回問題とされているような書き込みも投稿されてしまったのだ、と。

    「政治に関心があり、政府対応に不満があるような層を煽ってPVを稼ぐブログなどに目をつけられました。それによって、応募者自体が偏る形になったのではないでしょうか」

    実際、2015年2月ごろには、男性がいうように以下のような書き込みが「日韓断交」「在日特権リスト」などをうたう複数のブログに投稿されている。

    「多くの愛国者が国政をモニタリングし、意見を伝えることが望ましい!応募しよう!」

    変容してしまった「国政モニター」

    そのようにして「排外的な考えを持ったモニター」が増えてしまったとしても、なぜそのような書き込みがチェックを通り、さらに放置されてしまったのだろうか。

    男性は「投稿が容易になり、件数に対してチェックを行えるだけのリソースが不足したため、排外的な意見が素通りしていったのではないか」とも推測する。

    「掲載に関してはファジー(あいまい)な感じで運用されていたように感じています。掲載段階で差別的な意見を排除できなかったのは、何を持って差別とするのかという明確な基準がなかったか、共有されていなかったのではないでしょうか」

    当の内閣府政府広報室は、実際のチェック体制は明らかにしていない。

    担当者はBuzzFeed Newsの取材に対し、「当時の担当官ら複数の目を通していた。明らかな誤字脱字などを一部修正することもあった」としている。しかし、2016年度に休止した事業であり、すでに担当が変わっているため、詳細は不明という。

    もともとは「国政モニター」を前向きに捉えていた男性。制度自体が「有効なツール」だったとしながら、こうした事態に陥ってしまったことを憂いた。

    「この国政モニター制度は、移ろいやすい日本人が、その時どんな関心を持っていたかを知るのに有効なツールでした。そのはずが、結果的に偏りが生まれ、制度の意味が変容してしまった」

    同室では指摘を受け、投稿に関する確認作業を進めている。ただ、記事は1万件以上あり「中身を全部確認しないといけないため、時間を要する」という。

    BuzzFeed Newsでは、今後も継続的に取材を続ける。


    BuzzFeed Newsでは【内閣府サイト、公開中止に ヘイトや誹謗中傷を放置との指摘が相次ぐ】という記事も掲載しています。