熊本地震で、1000匹の犬猫を救った動物病院がある。院長が伝えたいこと

    竜之介動物病院の徳田院長が「ペットを救うことは、人を救うことになる」と語る意味とは。

    2年前の熊本地震で、多くのペットを救った動物病院がある。

    人と動物がともに避難することのできる「同伴避難」ができる場所として院内を解放し、のべ1500人の飼い主と1千匹のペットを受け入れたのだ。

    いったい、どういう経緯だったのか。そして、なぜそこまで大勢の人たちが路頭に迷ってしまったのだろうか。

    「ペットを救うということは、飼い主を救うということになるんですよ」

    そうBuzzFeed Newsの取材に語るのは、熊本市にある竜之介動物病院の徳田竜之介院長だ。

    「ペットを家族の一員として心の支えにしている人たちは、少なくありません。恋人や子どもと同じような関係だと感じている人や、一緒にいることが、生きる希望になっている人だっているんですから」

    徳田院長は4月14日の前震後、すぐ病院を解放した。

    Facebookで告知をするとすぐに避難者が集まった。その多くは、ペットと一緒に避難所に身を寄せることができない人たちだった。避難所をたらい回しにされ、病院についた瞬間に泣き崩れる人もいたという。

    けがをしたペットの外来も普段の10倍ほどとなり、診察室や廊下まで人や犬猫で溢れた。最大で1日に200人以上が身を寄せ、2週間でのべ1500人と1千匹以上の犬や猫を受け入れた。

    「まるで野戦病院のようでした。最初の1週間は、猫の手を借りたいほどの忙しさでしたね」

    生きた東日本大震災の教訓

    なぜ、病院を解放したのか。

    そもそも徳田院長は、東日本大震災を受けて病院を建て直していた。もしものとき、に備えてだ。

    巨額を投資した。設備は耐震化されており、300人が収容できる広さに。建物も堅牢で、自家発電や水のタンクまで用意した。

    東北の被災地を視察した際、ペットの避難がまったくできていなかった現実を知ったことが、そうした決断を後押ししたのだという。

    「こんなに早く活用することになるとは思っていませんでした。それでも、災害時のイメージはできていたので、対応はうまくいったと思っています」

    行政から指定された避難所ではなかったため、人的・物的支援がなかなか回ってこないこともあった。医療物資が底をつきかけたことも、だ。

    しかし、院長自らが熊本市長に直談判したり、全国各地から一般の人たちや医師会などによる支援が続々と集まったりしたことで、ことなきを得たという。

    「同行避難」と「同伴避難」の違い

    そんな徳田院長は、熊本地震で露呈したある問題点を指摘する。「同行避難と同伴避難」の違いだ。

    「熊本地震では避難所に受け入れてもらっても、ペットと飼い主が同じスペースにいられないケースが相次ぎました。そうした人たちは止むを得ず、壊れかけた家に戻ったり、車中泊を余儀なくされたりしていたのです」

    環境省は東日本大震災を受け、震災時にペットともに避難する「同行避難」を推進する「災害時におけるペットの救護対策ガイドライン」を策定した。

    これはひとつの前進だ。ただ、熊本地震でもこうした考え方はある程度共有されていたが、その差配は避難所ごとに任されていたため、飼い主とペットが別々の場所に身を寄せないといけないケースが多くなってしまったのだという。

    「避難所に受け入れられても、別々のところで過ごさなくてはいけないのでは、一緒に避難できているとは言えません。ペットと飼い主を引き離してしまっては、意味がないんです」

    こうして路頭に迷った人たちの多くが、竜之介動物病院に身を寄せることになったのだ。

    ペット人口は1800万。それならば…

    現実的な問題もある。ペットを嫌っていたり、「うるさい」「怖い」と言って避けてしまったりする人は少なくない。

    実際、環境省も熊本地震を受けてさらにガイドラインを改訂したが、同伴避難については「ペットの飼養環境は避難所等によって異なることに留意が必要」としており、踏み込んでいない。

    ただ、徳田院長は犬と猫の飼育数が1800万(一般社団法人ペットフード協会調査)と、15歳未満の子どもの人口を超えている現状に触れながら、言葉に力を込める。

    「ペットを持つ人とそうではない人と同じ場所で同伴避難を実現するのは、難しいでしょう。ただ、人口の約2割がペットを飼っていることから考えれば、2割の避難所を同伴避難可能にしても良いのではないでしょうか」

    もちろん、災害時のペットの避難は「自助」が基本だ。3月に発売された「どんな災害でもネコといっしょ: ペットと防災ハンドブック」を監修する徳田院長は、その点も強調する。

    飼い主には普段から、食糧や医療品などの物資を揃えておいたり、避難先で落ち着けるよう普段からしつけをしたりすることが求められている。

    また、はぐれたときのために迷子札や鑑札、マイクロチップをつけておくこと、猫の場合は避妊や去勢をしっかりとすることも大切だ。

    人とペットは家族なのだから

    それでも、突然の非日常が襲いかかる災害時には、「自助」に限界もある。だからこそ、「公助」として同伴避難を認める流れをつくるべきと、徳田院長はいう。

    震災後、「災害時のペット同伴避難所の開設」を求める署名活動を実施したところ、3万4000人分の署名が集まった。熊本市だけではなく、環境省にもそうした必要性を訴え続けている。

    「熊本地震は、災害時の人とペットの関係を見直す一つの問題提起をしてくれた。これからも、その必要性を社会に訴えていきたいと思っています」

    「人とペットは、お互いを支え合う家族なんです。そういう認識を多くの人が持つようになれば、少しずつでも変わっていくはず。いまは、ひとつの転換点なのかもしれませんね」

    ただの動物、ではなく。人とペットは、ともに生きる関係性にある。そんなことが当たり前になる社会を、徳田院長はつくろうとしているのだ。


    BuzzFeed Newsでは、【震災後、女性に多発した病気がある。命を守るためにできること】という記事も配信しています。