ロシアのウクライナ侵略を巡り、ウクライナの首都にあるキエフ動物園の動物たちについて、「脱出作戦に失敗した」という情報が拡散している。「ポーランドの国境付近で救助された」という情報もあるが、いずれも誤りだ。
キエフ動物園では24時間体制でスタッフが見守りを続けており、脱出作戦はそもそも実施されていない。また、ポーランドに避難したのはキエフ近郊にある別の施設の動物だ。
キエフ動物園に関して「動物が死にかけている」「食料を集めている」とする「フェイク」も広がっているといい、園側も公式ソースのない不確実な情報の拡散をしないように呼びかけている。
拡散しているのは、いずれも同じユーザーによる3月5日のツイート。以下のような情報を伝えており、前者は1万4000以上、後者は2000以上いいねされている。
「キエフ動物園から避難した動物たちは無事にポーランドの国境付近で救助されました。しかしこれらはごく一部の動物たちです。まだまだ多くの動物たちが園内に取り残されています。また情報が入り次第お知らせします」
「キエフ動物園の動物たちの脱出作戦はポーランドまでの安全が保たれない状態で失敗に終わりました。一週間分の食糧もあと少しですが生きているだけで奇跡ですから贅沢は言えません。いま一番の問題は爆発音で動物たちのストレスを心配しています」
これらの情報は、誤りだ。大前提として前述の通り、キエフ動物園から「脱出作戦」は実施されていない。
作戦が実行されたのは、キエフ近郊にある自然動物保護施設。ポーランドの動物園に避難するため、3月3日に国境付近でトラやライオンが救助されており、こちらの作戦は「成功」している。
拡散されたツイートで使われている画像は、ポーランドの動物園側がこの際にFacebookで発信したもので、キエフ動物園とは無関係であることにも注意が必要だ。
同園もサイト上などで、「ポーランドへのトラとライオンの輸送に関する情報は、キエフ近郊の施設に関するものです。キエフ動物園のすべての動物は、飼育係と獣医の24時間の監督下で敷地内にいます」と強調している。
「動物が死にかけている」という情報も

キエフ動物園側の責任者は、ワシントンポスト(3月6日付)の取材に対し、この施設が実施した避難作戦に言及。同園にいる大きな動物の避難は「平時でも、戦時ならなおさら難しい」との見解を示している。
こうしたことから、園では侵略が始まる1週間ほど前から食料などの備蓄を進めてきた。現在では2週間ほどの備蓄があり、約50人のスタッフが家族帯同で24時間体制で動物たちの世話をしているという。
園側は、現在の状況をSNSを使って積極的に発信している。3月6日にはInstagram上に、「私たちはここにいます。いま、ここにいなければなりません」というメッセージとともに、職員による飼育の様子を投稿していた。
キエフ動物園をめぐっては、「動物が死にかけている」「食べ物の残り物が命を救うかもしれない」として、食料を募っていると呼びかけるロシア語の情報も合わせて拡散しているという。
こうした情報について、園側は現状、食料、電気、暖房、水のインフラは整っており、市民からの支援は必要していないとして、「フェイク」であると指摘。「公式ソースにない情報を拡散しないで」「敵が期待しているようなことをしないで」と注意を呼びかけている。
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