川崎市にある多文化交流施設に在日コリアンの虐殺を「宣言」する年賀状が届いた問題で、施設側が今週中にも警察に被害届を提出する方針であることが1月22日、わかった。
警察の指導を受け、すでに職員の増員や昼間でもカーテンを閉めるなどの対応を取っている。また、川崎市側も警備員の配置などを検討しているという。
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(*この記事にはヘイトクライムの文言が直接含まれます。閲覧にご注意ください)
在日コリアンが多く暮らす桜本地区にある「川崎市ふれあい館」には1月4日までに、「謹賀新年 在日韓国朝鮮人をこの世から抹殺しよう。生き残りがいたら残酷に殺して行こう」と書かれた年賀状が届いた。
同館は毎年、12月29日から1月3日まで年間で唯一休館している。4日朝、職員が郵便物の束の中に脅迫の年賀はがきがあることを発見した。
同館は乳幼児やその保護者、さらに子どもたちが多く利用している。「大丈夫なの?」「私たちは殺されてしまうの?」という声が子どもたちから聞かれることもあるという。
こうした不安感は、実際に利用者の減少に反映されている。今年の1月4〜21日までの18日間の利用者は2315人と、前年比で843人も減っている。もともとの利用者数は微増傾向にあったことから、今回の「年賀状」の影響とみられている。
指定管理者の青丘社はこれを「ヘイトクライム予告」とし、川崎市と連携しながら対処をしている。川崎臨港署にも相談を進めており、今週中にも被害届を提出するという。威力業務妨害容疑に当たる可能性が高いとしている。
警察側の指導を受け、一部の部屋では昼間でもカーテン閉めたままにしているほか、入り口をひとつ閉鎖し、夜間職員を増員するなどの対応に追われている。警察による巡回パトロールも行われているが、市側は警備員の配置を検討しているという。
「朝鮮へ帰れ」という電話も

1988年に桜本地区に設置された同館は、同区に多く暮らす在日コリアンの人たちと日本人を中心とした「市民として相互にふれあいをすすめること」を目的としている。
桜本地区ではこれまでもたびたび、ヘイトデモの被害を受けてきた。これは、川崎市で昨年12月に成立した「ヘイト禁止条例」の立法事実(法律や条例が必要とされることを示す事例)にもなっている。
1月22日には、「人種差別撤廃基本法を求める議員連盟」会長の白真勲参院議員(立憲民主党)ら7人の国会議員が施設を視察。職員らによる説明を受けた。
それによると、同館ではこれまでも「日韓関係が政治的に緊張するたび」に、嫌がらせの電話があったという。「朝鮮へ帰れ」「税金泥棒」などという言葉を投げられることもあった。
ヘイト禁止条例が議論されはじめた昨年6月ごろからは、こうした嫌がらせは止まったが、今回の年賀状が届いたと報道されたあと、再び電話があったという。
「条例が抑止効果となっていた日々が重ねられると思っていたのですが、残念ながら『脅迫年賀状』が届き、報道の翌日には『多文化共生に反対』するという意見の電話が数回、同じ人物からありました」
一方、指定管理者の青丘社理事長の裴重度(ペェ・チュンド)さんは「ヘイト禁止条例への反発もあったのではないか。対応しなければいけない一方で、利用者の不安を煽る可能性もあるため、苦悩しています」と語る。
青丘社は市に対し、声明や被害届を出すなどの毅然とした対応を求めていく方針だ。
「言葉だけの攻撃に止まらない可能性も」

議員からも同様に、視察に同席した川崎市に被害届の提出を含めた対応を取るよう求める声が上がった。
そのほか、「五輪が行われる国で外国人を廃絶するような動きが起きることはとんでもない」(白議員)「言葉だけの攻撃に止まらない可能性もある、非常に深刻な事態だ」(立憲民主党の有田芳生参院議員)などという指摘があった。
白議員は、現在は罰則がない「理念法」に止まっているヘイトスピーチ対策法改正の必要性にも言及。今回の件を含め、議連としても新たな動きを検討していくという。
この問題をめぐっては、「Change.org」で1月21日から、国と川崎市に早急な対応を求めるネット署名が始まっている。
モデルの水原希子さんが「悪質な人種差別、在日コリアンに対してのヘイトに心が痛みます」と賛同を示すなど広がりを見せており、22日午後7時現在で5500人以上の署名が集まっている。
UPDATE
施設を訪れた国会議員の数を「6人」としていましたが、正しくは「7人」でした。訂正いたします。
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