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「日本国は我々のもの」「帰れ」とブログ書き込み 在日女性が40代男性をヘイトと提訴

訴えを起こしたのは、川崎に暮らす在日コリアン3世の崔江以子(チェ・カンイジャ)さん。弁護団によると投稿者は北関東在住の40代で、手紙を通じて自らの書き込みであることを認めた。

「愛する日本を取り戻す」とうたう匿名ブログやTwitterアカウントから繰り返しヘイトスピーチなどの被害を受けたとして、川崎市内の在日コリアンの女性が、投稿者の男性に対して損害賠償など計約300万円を求める裁判を11月18日に横浜地裁川崎支部に起こした。

(*この記事にはヘイトスピーチの文言が直接含まれます。閲覧にご注意ください)

訴えを起こしたのは、川崎に暮らす在日コリアン3世の崔江以子(チェ・カンイジャ)さん(48)。訴状によると、訴えの対象となったのはブログとTwitterに書き込まれたいくつかの言葉だ。

アーカイブサイトによると、男性は2016年6月、川崎で開かれたヘイトデモに抗議する崔さんを取り上げた記事を自身のブログで引用。「お前何様のつもりだ!」と名指しし、以下のように書き込んだ。

《日本国は我々日本人のものであり、お前らのものじゃない!『外国人(在日コリアン)が住みよい社会』なんて、まっぴらごめんだし、そんな社会は作らせない。思い上がるのもいい加減にしろ、日本国に仇なす敵国人め。さっさと祖国へ帰れ》

崔さん側は訴えで、「日本国に仇なす敵国人め。さっさと祖国へ帰れ」という言葉がヘイトスピーチ解消法が定める「地域社会から排除することを煽動する不当な差別的言動」にあたると指摘。人格権に対する違法な侵害行為であると主張している。

崔さんが法務局に人権侵犯被害を申し立てたことで、記事は同年10月に削除された。しかし、男性は「個人的に恨みがあります」として、その後もブログやTwitterで崔さんに対する書き込みを計70件続けたという。

それから2020年10月までに計5回、崔さんの行動を指して「差別の当たり屋」「被害者ビジネス」と記しており、崔さん側はこの言葉が事実ではなく、社会的評価を低下させる名誉毀損に当たると主張している。

崔さんの弁護団によると、ブログサイトへの発信者情報会請求を経て、提訴に至った。長期かつ複数回にわたって執拗に攻撃を受けたとして、記事削除の5年後に提訴に踏み切ったという。

男性はブログ上で「日本国が大好き」「反日マスコミ、反日外国人、売国奴と闘う」などと記載している。弁護団によると北関東在住の40代で、手紙を通じて自身の書き込みであることを認めた。精神的な不調を理由にあげたという。

「私にとって存在を否定する言葉」

崔さんはこのほかにも「極東のこだま」を名乗るTwitterの匿名アカウントに暴力を示唆する書き込みをされたり(川崎簡裁が罰金30万円の略式命令)、職場に脅迫状を送られる(脅迫罪で刑事告訴、現在捜査中)などしており、外出時には防刃ベストをつける生活を強いられている。

弁護団の師岡康子弁護士は同日開かれた会見で、これらの被害の根本に「ネットリンチ」が存在していることに触れ、「在日、しかも女性である崔さんが攻撃の的とされている。日常生活でも恐ろしい思いを続けており、家族にも影響が及んでおり、放置できない」と話した。

同じく弁護団の神原元弁護士は「日本では差別が不法行為であるということが必ずしもはっきりしていない。裁判を通じて社会的に確立させたい」と話した。包括的な差別禁止法の制定や、者が司法に頼らずとも申告できる制度、機関の必要性にも言及した。

一方、崔さんは会見で、「祖国へ帰れという言葉は、私にとって存在を否定する言葉です。この社会にいてはいけないんだと言われている言葉です」と語り、こうも訴えた。

「ネット上の差別、ヘイト書き込みと向き合うときは、本当に孤独です。人々の生活に欠かせないツールであるネット社会で、こうやって匿名に隠れて人を人とも思わない書き込みが野放しにされているということ、被害が生じていいるけれども、被害者がとる策がほとんどないということを、ぜひ知っていただきたい」

「一方で『帰れ』という言葉は、私だけではなく、路上のヘイト街宣などで子どもたちも向けられています。差別が違法であると司法の場で示されることによって、法律や条例の運用の大きな力となり、ヘイトスピーチが野放しにされない社会になってほしいと願っています」

いまだ、崔さんを匿名で攻撃している人は少なくない。現在、このほかにも発信者情報開示請求を並行して続けているという。