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「この問題の当事者って誰ですか?」在日コリアンの彼女が、いま問いかけたこと

ヘイトスピーチ対策法の施行から5年。街頭のデモなどには一定の効果があったとされる一方で、ネット上の書き込みや、ヘイトクライム、街宣の被害が続いている。「当事者」は何を感じているのか。在日コリアンの女性に、話を聞いた。

「ヘイトスピーチ対策法」の施行から5年が経った。デモなどには一定の抑止効果がもたらされ、「差別を許さない」という認識はじわりと浸透しつつある。

しかしその一方で、いまでもヘイトクライムや法律の隙間を突くような街宣が繰り返され、ネット上には差別的な書き込みがあふれている。

つい先日も、大手企業の会長が自社サイトに差別文書を掲載し、大きな問題となったばかりだ。このような現状を「当事者」はどう見ているのか。話を聞いた。

Kota Hatachi / BuzzFeed

「ヘイトスピーチって、人間を人間と思わないものなんです。これを放置して、最悪なことが起きてしまった場合、危害を加えられるのは私たち。それは歴史が証明してますよね」

そうBuzzFeed Newsの取材に語るのは、川崎に暮らす在日コリアンの女性(20代)だ。

「関東大震災が起きたときもそうだったし、いまでも災害があればツイッターで同じデマが流れるし……。やっぱり、不安です」

女性の生まれ育った地域は在日コリアンの集住地区で、2013年ごろからたびたび、ヘイトデモのターゲットとされてきた。

当時は大学生。デモを直接目撃したことだって、何度もある。初めて見た時は、家に帰る途中のバスの中だった。

「プラカードで『在日を叩き出せ』みたいに書いてあって、自分が名指しされてるような気分になって、一瞬で凍っちゃって。もっと気持ち悪くなったのが、一緒に乗ってた乗客は『なにあれ?』『すごいね』って無視できていたことでした。当たり前に流せる人たちがいる一方で、死にそうに苦しくなってる自分がいて、そのギャップが本当に怖かった」

その後繰り返されたデモは、女性の実家の前を通り過ぎたこともあった。居ても立っても居られず、抗議の声をあげた。

「最初は私が声をあげても別に何もならないかもしれないって悩んだけど、ちゃんとここで言わないと、自分たちがいなかったことにされるって思って。知ってて無視するなんて、私にはできないなって」

「あとは一緒に抗議してくれている人たちがいたから、心強さを感じました。みんなが無視、無関心だったらどうしたらいいだろうって気持ちがあったから。ヘイトをしてる人たちって、笑うんですよね。それがすごい怖かった」

「うち、表札出していないんです」

時事通信

川崎の集住地区をターゲットに開かれたデモ(2016年)

繰り返されたデモがひとつの立法事実となり、2016年に「ヘイトスピーチ対策法」が成立した。

対策法は罰則のない理念法だが、路上における大規模で露骨な表現を用いたデモは一時より抑制された。判例などで引用されることも増えた、条例制定の動きも進んだ。

川崎市にも罰則付きの差別禁止条例もできた。この7月1日で、施行から1年になった。

しかし、法律の隙間を突き、直接的な表現に「注意」をしながら差別、排斥を訴えるような形式の街宣も増えている。

実際、川崎駅前では昨年の条例施行後から、条例に反対するという名目でヘイト街宣が繰り返し開かれるようになった。

女性も、美容院の帰り道に街宣を見かけてしまったことがある。「めっちゃいい気分だったのに、最悪な気分になった」という。

「法律ができても執着心を持ってヘイトを繰り返す人たちはいて、むしろ悪化してるんじゃないかなって思うことも増えた。異常事態が日常化しちゃってるというか。駅前とかでも大きい音とかがしていると、またヘイト街宣なんじゃないかって、体も心も身構えちゃうようになってしまったんですよね」

また、近くの多文化共生施設に対しては、在日の「抹殺」や「殺害」を予告するようなヘイトクライムも2年連続起きている。

各地で排外主義的な主張を繰り返している元在特会会長の桜井誠氏が昨年の都知事選に立候補し、およそ18万の票を集めたことも、女性の不安を助長させた。

「うち、表札出してないんです。まだまだ地元で街宣が開かれているのを見ると、不安で。名前で在日ってバレたら、窓が割られるんじゃないか、襲われちゃうんじゃないか、放火でもされちゃうんじゃないかって不安で。同世代の日本人の友達に、そんな人いるのかなってたまに思いますよね」

「見なければいい」と言われても

Kota Hatachi / BuzzFeed

女性が、この5年で悪化していると感じるのが、ネット上のヘイトスピーチだという。

対策法や条例は、大量にあるネット上の書き込みや動画などの対策には行き届いていない。ポータルサイトやSNSの事業者による対応も不十分だ。

「ニュースとか、SNSとか、YouTubeとか……。日常的にありすぎてどこで目にしているのか、もはやわからないですよね。なにか事件とかがあると、SNSに『在日だろ』なんていう書き込みがされて、まわってくる。ニュースを普通に読んでいても、下の方にあるコメント欄で差別的なことが書いてあるじゃないですか」

「友人もそうです。インスタのストーリーとかをみていると、差別的なことを書いちゃう人って結構いるんですよね。ネットのデマを鵜呑みにして、私に聞いてくるような人もいる。差別はしていないというような雰囲気を出しながら、『○○は違うもんね』『○○はほぼ日本人じゃん』みたいに言ってくる人も。本当のことは知ってるけど、みたいな」

このような経験をしているのは、女性だけではない。在日コリアンや留学生を支援してい「朝鮮奨学会」が高校生や大学生ら1030人を対象に実施し、今年2月に公表した調査結果がある。

ネット上の差別的な体験について、「韓国人・朝鮮人を排除するなどの差別的な記事、書き込みを見た」と答えた人は、「ある」「ややある」が計58.7%と半数を超えた。

また、「差別的な記事、書き込みが目に入るのが嫌で、そのようなサイトの利用を控えた」という人は計23.7%と、およそ4人に1人にのぼった。女性はいう。

「見なければいいっていっても、見えてきちゃうんです。遮断したくても仕切れない部分があるんですよね。すごくえぐられるのがわかっていても、目に入ってきちゃうんですよ」

SNSがもたらしたもの

Kota Hatachi / BuzzFeed

今年に入ってからも、化粧品大手DHCの会長が在日コリアンに対する差別的な文書を、自社サイトに掲載するという問題が起きた。

文章は大きな批判を集め、CMや広告を拒否した企業や、連携協定を解消した自治体も出た。

一方で、「DHC支持」「買って応援」などという言葉がSNS上にはあふれ、同社のネットTVではコメンテーターたちが擁護。YouTube上では数十万回再生され、1万を超える「高評価」がついていた。

「差別的なものを隠さなくていいんだって思うようになっちゃった人が増えてるんだと思います。少し前までは、差別的な思いがあっても出しちゃいけないような雰囲気、社会全体のモラルみたいなのがあったと思う。それはタブーでしょって。でも最近、それがなくなったんじゃないかなって……」

「ネットにも現実にもまだまだヘイトが溢れてるし、メディアで嫌韓を取り上げたり、コメンテーターや企業の偉い人が公然と平気で差別的な発言をしたりしている。みんなが言ってるからって大丈夫みたいな、そういう影響ってすごく大きいんじゃないかな」

差別はネットだけじゃない。でも…

Kota Hatachi / BuzzFeed

差別はネット上だけにとどまらない。

女性は、韓国名を名乗った途端にバイトの面接を断られた経験もある。日本の学校に通っているなかで、教師や知人から差別的な言葉を投げかけられたことも、一度や二度ではない。

就職先で苦しんでる先輩も、後輩も、友人もいる。女性のパートナーも差別を恐れて本名は使わず、日本名で働いている。両親や祖父母たちが経験してきたことと、さして変わらない現実がそこにはある。

SNSやネットの発展は、そうしたーーマジョリティは何も気にせずにいられ、当事者にとってはとてつもなく暴力的なーー差別を増幅、拡散させているのではないかと、女性は感じている。

「高齢者とか言われるけど、そんなことはなくて、同年代の男の子にも女の子にもいますよ。私の周りでも、何か知りたいって調べる人ほど、ネットにあることが全部本当のことだって信じちゃってるような気がする」

「あとは、自分自身がしんどい位置にいる子たちが、もっと厳しい状況に追い込まれているマイノリティを差別してしまうようなことも増えてると思う。このコロナ禍でそういう感情がヘイトに利用されないか、心配です」

「命に関わることだから」

Kota Hatachi / BuzzFeed

川崎駅前で開かれた街宣活動で抗議のプラカードを掲げる参加者(2020年12月)

ネット上のヘイト書き込み、路上のヘイトデモ、そしてヘイトクライムを規制できるように、包括的な「差別禁止法」の制定を目指す動きもある。

また、情報開示請求の仕組みを変えたり、独立した人権救済機関を設けたりする案もあがっている。とはいえ、「表現の自由」などをめぐる議論もあり、一朝一夕に解決する状況にはないのが現実だ。

女性は「ヘイトは自由で許されるものじゃないと思う。これって、人の命に関わる問題だから」と、こう言った。

「私は自分の命も、家族の命も、大切な人の命を守りたいから、言うべきことは言ってきたし、これからも言っていくと思う。未来に対する責任もある。子どもたちが本名を堂々と名乗れるようになってほしいから」

「でも、これだけは言いたい。いちばん伝えたいのは、『本当の当事者は誰なんですか?』っていうこと。これって、日本人の問題ですよね。自分たちの国で起きているこのことについて、自分たちの問題として考えてる人って、どれだけいるんだろう」

東京都がインターネット上で1万人を対象に実施し、今年2月に公表した「人権に関する都民の意識調査」(令和2年度版)では、ヘイトデモや集会、街宣を見聞きしたことがあると答えた人が51.2%にのぼった。

見聞きしたと答えた5121人のうち、複数回答で「不愉快(で許せない)と思った」と答えた人は47.3%。「日本に対する印象が悪くなると思った」人は37%と、否定的意見が多数を占めた。

しかしその一方で「いろいろな考え方、受け止め方がありうるので、特段問題ないと思った」人は25.8%。さらに「自分には関係ないと思った」人も8.7%いた。

「問題がない」「関係がない」。そう答える人が少なくないという実態は、女性の実感と重なるところがある。

「ヘイトスピーチだけの問題じゃないんですよね。誰でも何かしらのことでマイノリティになりうるし、誰でも、排除する側になりうる。私だってそう。そうやって考える人が増えれば、自然と世の中だって、変わっていくんじゃないかな。これだけ厳しい現実があると綺麗事かなって思っちゃうけど、もう少しあきらめないで信じてみたいです」