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差別が路上では活発に、ネットでは放置?「ヘイト禁止条例」成立から1年、川崎市の差別への対応に疑問も

「川崎市差別のない人権尊重のまちづくり条例」は「本邦外出身者」に対するヘイトスピーチなどを繰り返した人物に対し50万円以下の罰金を科すとしており、差別に刑事罰を科す国内初の事例として注目されていた。

戦前戦後を通じて「差別」に刑事罰を科すはじめての条例となった川崎市の「ヘイト禁止条例」が成立してから12月12日、1年を迎えた。

条例に一定の評価の声が広がる一方、課題も散見される。ネット署名サイト「Change.org」では14日から条例の「実効性」を高めるよう市に求める署名がはじまった。

川崎市の「ヘイト禁止条例」(正式名称・川崎市差別のない人権尊重のまちづくり条例)は2019年12月に成立。

「本邦外出身者」に対するヘイトスピーチなどを繰り返した人物に対し50万円以下の罰金を科すとしており、差別に刑事罰を科す国内初の事例として注目された。

また、条例ではインターネット上のヘイトスピーチについても、市の区域内や市民などを対象にしているものであった場合、被害者の支援や、拡散防止の措置・その公表をすると定めていた。

「表現の自由」に配慮するためにも、「川崎方式」と呼ばれる仕組みを導入しているのが特徴だ。公表、罰則までに勧告、命令と3つの段階を踏むほか、市長による濫用を防ぐため、有識者による諮問機関が設置される。2020年7月に全面施行された。

制定から1年となった12日、市民団体「ヘイトスピーチを許さないかわさき市民ネットワーク」が会見を開き、要請書を発表した。条例制定に向けた取り組みを進めた団体だ。

要請書では、まず「ヘイト禁止条例」を「画期的な条例」「先駆的な取組み」と評価。そのうえで、条例制定に反発し、右派団体が川崎駅前などで10回にわたって差別的な街宣を開いていると指摘した。

また、ネット上のヘイト書き込みに関する被害者の救済が及んでいないこと、さらに市内の公園で「差別落書き」が相次いでいることなどにも言及した。さらに、「差別行為が広がりを見せており、市は有効な対応が取れていない」と指摘し、条例を実効性のあるものにするよう求めた。

会見では、団体の三浦知人さんが「路上でも差別街宣が活発化し、ネットでも放置され、落書きもあるのに、なぜ市の顔が見えないのか。条例には『不当な差別を解消する』ことが市の責務として記されている。今日より明日が、今年より来年がよくなるよう、ぜひ、責任を持って進めてもらいたい」と訴えた。

自民・公明党からの指摘も

実際、右派団体による街宣では一部のスピーチで実際に外国人らの排斥を呼びかけているものが確認されているが、川崎市側にはヘイト認定はされていない。

また、ネット上のヘイト書き込みについても、市民からの申し立てに対し、対応が追いついていないという現状が指摘されている。

同様の指摘は、市民団体以外からもあがっている。川崎市の12月の定例議会でも自民党や公明党などの与党会派から、その実効性を問う質問が出たのだ。

特に公明党は「一定の評価をするものの、答申まで時間を要し、その間にもネットで拡散され、川崎駅での集会が繰り返されています。被害者に寄り添い、スピード感のある対応が必要」と踏み込んだ。

なおこの際、市側は「表現の自由への配慮から過度に広範な規制は許容されないことから適切に判断している」などと答弁するにとどまっている。

こうした市の対応に対し、前述の要望書では、「川崎市の判然としない対応が、差別主義者の行動をエスカレートさせ、被害を拡大させている現状があります」も指摘。

市に対し、(1)街宣対策(2)差別的言動に対する啓発(3)差別防止対策等審査会の活用(4)インターネット上のヘイトスピーチ対策と被害者支援ーーの充実を求めた。

ネット署名サイト「Change.org」では12月14日から署名が開始。要請書は、来年3月まで開催予定の署名とともに提出する。