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河村たかし市長、会見でコロナやワクチンの「誤情報」 専門家「全くのデタラメ」名古屋市の見解は…

「イベルメクチン」の効果や子どもへのワクチン接種などに関する河村市長の発言について、専門家はいずれも「明確な誤り」であると指摘している。名古屋市の見解を聞いた。

新型コロナウイルスに対するワクチンや治療薬をめぐり、名古屋市の河村たかし市長が記者会見で発言した内容に、誤情報が含まれていたことがわかった。

誤っていたのは、「基礎疾患があるとワクチンでかえって重症化する」「イベルメクチンがコロナ治療薬として一番効いたと米国救急医学会が発表」「mRNAワクチンは血管に遺伝子の要素を注射するので子どもは要注意」などとする内容。

いずれも、そもそもデータに基づいていなかったり、レポート自体が発表されていなかったり、基本的な部分での事実誤認が含まれていたりした。BuzzFeed Newsが専門家グループ「こびナビ」とファクトチェックを実施した。

河村市長は6月13日の記者会見で、ワクチンの4回目接種と、「イベルメクチン」についてそれぞれ以下のように発言した。

「あんまり言うと感じ悪いですけど、かえってこういう基礎疾患があるいう人は、打つとそれが重症になる確率が高いという説もあると。ええ。そこでドクターが首かしげとりますので。説もあるということで、客観的に申し上げておきます」

「アメリカの救急医療学会のとこのレポートに出ておりますが、あれ英語だったもんでちょっとあれですけど。治療薬とすると、やっぱりイベルメクチンが一番効いたんではないかと、たしかね、いうレポートがアメリカの緊急医療学会からは出されておりますんで」

また、6月20日の記者会見では、5歳〜11歳へのワクチン接種について、以下のように述べている。

「メッセンジャーRNAというのは筋肉注射で打ちますと、すぐ血液ん中に入ってきますので、非常に強いと、これは、いうことだで子どもさんのほうはそういうこともあり、注意してくださいよという意見が多い」

子どもへのワクチン接種をめぐっては、4月25日の会見でも同様にmRNAワクチンは「強い」として、「血管の中に遺伝子の要素が入っており、それがどういうふうになっていくかについてはまだ確たるこうというものはない」などと語り、以下のように「慎重」に判断するよう「注意」を呼びかけていた。

「メッセンジャーRNAというのはなかなか、血管に直接遺伝子の要素を注射するもんでございますので、よくご家庭でご判断いただいて、繰り返しますが、私はワクチンは打て打てどんどんではありませんので、あのう、僕はね、そう思っとりますから、まあ、ご注意ください」

こうした市長の政策を反映してか、名古屋市では5〜11歳へのワクチン接種券配布は、今年6月2日に5歳の誕生日を迎える児童については、案内はがきを送付したうえでの保護者による「申請制」となっている。

予防接種法上の「努力義務」でないことが理由とされていたが、厚生労働省の専門家分科会が8月8日に「努力義務」を課すことを了承した。これを受け、市としては、現状のやり方の継続を含め、対応を内部で検討しているという。

専門家は「明確な誤り」と指摘

専門家はこれらの発言をどう見るのか。日米の専門家でつくるプロジェクト「こびナビ」はBuzzFeed Newsの取材に対し、いずれも「明確な誤り」であると指摘する。

まず、「基礎疾患がある人はワクチンの追加接種でかえって重症化する確率が高い」という発言については、そのようなデータは存在せず、ワクチンはむしろ重症化予防に有効であるとの認識を示した。

「基礎疾患を持つ人がワクチンを接種すると重症化しやすいというデータはありません。WHOはオミクロン変異体に対するワクチンの重症感染予防効果を調べた21の研究結果をまとめています」

「これによると、基礎疾患の有無に関わらず日本で主に使用されているmRNAワクチンでは、ワクチン接種から6ヶ月以上経過すると50%前後にまで有効性が落ちるものの、3回目接種により75%以上に回復することが確認されています」

では、「イベルメクチンが新型コロナの治療薬として一番効いたと米国救急医学会がレポートを出した」とする言説についてはどうか。

そもそも、米国救急医学会(ACEP)の4月のアップデートではイベルメクチンの効果については研究結果をもとに否定しており、河村市長の発言は事実と異なる。専門家もこう指摘する。

「これは全くの誤情報です。アメリカ救急医学会はFDAによって承認されていない治療薬を自己判断で内服すると、有害であったり場合によっては死亡につながるとして、イベルメクチンの使用に警鐘を鳴らしています」

「そもそも、イベルメクチンをめぐる主要な26の研究のうち1/3に重大な誤りや不正があったことがわかっており、質の高い臨床研究(1,2)では効果が否定されています。厚生労働省や欧米の公的機関でイベルメクチンの有効性を認めた報告もありません」

実際、FDAはイベルメクチンが新型コロナの治療薬として安全・有効であると確認されていないと強調。大量服用は危険であるとして注意を呼びかけ、欧州・EMAも「臨床試験以外での新型コロナ予防・治療を目的としたイベルメクチンの使用を控えるべき」と勧告を出している。

なお、8月18日にも、イベルメクチンの効果を否定する論文が医学誌『The New England Journal of Medicine』に掲載された。

では、最後に、「mRNAワクチンは血管に遺伝子の要素を注射するので、子どもは注意して」とする言説はどうか。これについても、専門家は「基本的な部分で事実認識に誤りがある」と苦言を呈した。

「mRNAワクチンは筋肉注射ですので、血管に注射をするものではありません。非常に基本的な部分で事実認識に誤りがあります。河村市長の発言内容からは、具体的にどんなリスクがあるという認識なのかがよくわかりませんでしたが、根本的にワクチンの作用メカニズムについて大きな誤解をしているので、どの指摘もナンセンスだと思います」

「例えば、『遺伝子の要素を注射』という表現は『ヒトの遺伝子を書き換えるのではないか?』ということを連想させますが、実際にはmRNAワクチンの成分がヒトの遺伝子が保管されている核内に入ることは原理的にあり得ず、自分の遺伝子が変わるというリスクはないと考えられています」

名古屋市「イベルメクチン推奨」のソースは…

こうした、ほとんどが事実誤認からなる情報を会見でのべたことに、問題はないのか。BuzzFeed Newsは、名古屋市に取材を申し込んだ。

当初、秘書課に依頼をしたところ、新型コロナウイルス感染症対策室が対応することとなり、書面で6月24日に質問状を送付。参議院議員選挙を挟み、市側からは7月29日に回答があった。

まず、ワクチンについては、「4回目接種につきましては、重症化を予防する効果が期待されます」として、国の方針に基づき高齢者や基礎疾患者、医療従事者らへの接種を進めていると強調。

5〜11歳への接種についても、「ご本人や保護者の方が正しい情報に基づいて接種についてご判断いただけるよう、国が示した情報に基づき、接種券の同封チラシ等で丁寧な情報提供に努めている」などとした。

そのうえで、市長の発言についてBuzzFeed Newsが「誤っていたり、不正確だったり、ミスリーディングだったりする情報を元に政策判断がされることは、市民の健康を損ねることにもつながりかねません」などと問うていた点については、以下のようにコメントした。

「定例記者会見における市長の発言につきましては、『ワクチンの有効性や安全性については様々な意見があることから、それらの意見を十分理解した上で、接種についてご自身が納得する選択をしてほしい』との思いを伝えられたものと考えております」

一方で、「イベルメクチン」については「様々な意見があります」と強調。効果に有意差がないという論文がある一方で、「アメリカの救命救急専門医らで構成される団体「Front Line COVID-19 Critical Care Alliance」(FLCCC)が「イベルメクチンの使用を推奨しています」とし、こう述べた。

「このような状況を受け、現在わが国でも各地でイベルメクチンの治験が行われており、イベルメクチンの効果はこの治験で明らかにされるものと考えております」

なお、名古屋市が名前をあげた「FLCCC」とは、コロナ禍で一部の医師らがつくった任意組織。公的団体でも、専門的な機関でもない。

イベルメクチンの有効性を訴え、使用を推奨している団体で、その主張は日本でも推奨派に利用されている。一方で、疑義を唱える指摘も少なくなく、ファクトチェックなどでも問題が指摘されている。

河村市長はこの「FLCCC」を「米国救急医学会」と言及した可能性もあるが、歴史も古く専門的な組織であるアメリカ最大の「米国救急医学会」(ACEP)と、一部の医師のつくった任意団体である「FLCCC」はまったくの別物だ。

なお、英紙ガーディアンは、「FLCCC」について、国際的な反ワクチン組織とつながりがあったり、メンバーの一部が陰謀論を喧伝するYouTube動画に出演したりしているとして、その発信内容に疑義を示し警鐘をならしている。

実際、創設メンバーであるピエール・コリー博士は反ワクチン派の集会などにも参加している。なお、博士の新型コロナウイルス感染症の治療法に関する論文に不正確な点が指摘されて撤回に追い込まれた。

また、メンバーが、オンライン診療やイベルメクチンの処方で高額費用を請求していることも医療ニュースサイト「STAT」に報じられている。コリー博士に相談したい場合は1650ドル(約22万円)がかかるという。

イベルメクチンをめぐっては前述の通り、欧米の公的機関も現状有効性の確証を否定しており、それに触れていない名古屋市側の回答には河村市長を擁護しようとする姿勢が見えるともいえる。

こうした一連の対応について、こびナビの専門家は以下のようにコメントした。

「今回の河村市長の発言は科学的に正しい箇所がほとんどなく、治療薬についてもワクチンについても、全くのデタラメ、むしろ多くの人に有害な事象を招きうる有害な情報発信と言って良いレベルです」

「首長が誤った情報を元に政策判断をする(小児へのワクチン接種券を送付しないなど)ことで、市民の健康を損なうリスクがあります。どのような情報源から情報を得ているのか、情報をどのように精査しているのか、非常に大きな問題を内在していると感じます。市長には厚生労働省や各国政府機関の推奨によく目を通し、正確な情報を元に発言してもらうように強く望みます」

監修者:こびナビ事務局長・黑川友哉、副代表・木下喬弘


BuzzFeedは新型コロナウイルス感染症やワクチンに関する正確な情報を提供する日米の専門家によるプロジェクト「こびナビ」とも連携し、新型コロナ感染症とワクチンに関する誤った情報、不正確な情報についてファクトチェックしています。関連記事は特集ページから。

BuzzFeed JapanはNPO法人「ファクトチェック・イニシアティブ」(FIJ)のメディアパートナーとして、2019年7月からそのガイドラインに基づき、対象言説のレーティング(以下の通り)を実施しています。

ファクトチェック記事には、以下のレーティングを必ず記載します。ガイドラインはこちらからご覧ください。

また、これまでBuzzFeed Japanが実施したファクトチェックや、関連記事はこちらからご覧ください。

  • 正確 事実の誤りはなく、重要な要素が欠けていない。
  • ほぼ正確 一部は不正確だが、主要な部分・根幹に誤りはない。
  • ミスリード 一見事実と異なることは言っていないが、釣り見出しや重要な事実の欠落などにより、誤解の余地が大きい。
  • 不正確 正確な部分と不正確な部分が混じっていて、全体として正確性が欠如している。
  • 根拠不明 誤りと証明できないが、証拠・根拠がないか非常に乏しい。
  • 誤り 全て、もしくは根幹部分に事実の誤りがある。
  • 虚偽 全て、もしくは根幹部分に事実の誤りがあり、事実でないと知りながら伝えた疑いが濃厚である。
  • 判定留保 真偽を証明することが困難。誤りの可能性が強くはないが、否定もできない。
  • 検証対象外 意見や主観的な認識・評価に関することであり、真偽を証明・解明できる事柄ではない。