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シャワーを浴びながら倒れ、過労死した父。「働き方改革」の届かぬ中小企業、遺族の悲しみ

男性は、毎日深夜まで残業をしていた。

土曜日に父親は、過労死した。母親が伝えた最期の言葉は、「病院に行ってね」だった。

アパレルメーカーに納入するバッグやアクセサリーを製造管理する「エスジー・コーポレーション」に勤めていた男性(当時40)が、2015年11月28日に亡くなった。

男性は過労死だったと、向島労基署が2017年に認定した。会社を相手取り、東京地方裁判所に訴訟を起こした遺族と代理人弁護士が8月30日、明らかにした。

Kota Hatachi / BuzzFeed

同社は、東京都墨田区にある「アパレル資材専門商社+服飾雑貨の生産メーカー」(同社HPより)だ。大手商社やファッションブランド「SLY」「MOUSSY」などと取引をしているという。

弁護人によると、男性はアパレルメーカーからの発注を受けて、中国の外注先と交渉をする「時間的にも費用的にもかなりタイト」な業務を担当していた。当時の社員は17人だったという。

毎日深夜11〜12時、日付が変わるころまで仕事するのが通常の勤務状況だった。発注遅れや裁縫ミス、納期遅れなどのトラブルなどが発生した場合は、中国に長期出張することもあったという。

男性が亡くなる前日に帰宅したのも、午前2時半だった。当時のメール履歴からは、0時過ぎまで仕事に追われている様子が浮かび上がる。

前夜も、23時すぎに夫に電話をしていた妻(58)は、会見でこう語った。

「主人の死に直面した時に、すぐ過労死だという確信を持ちました。終わらない、疲れた、腹減ったとずっと言っていて。とにかく、毎日納期に追われていました。でも、残業代は毎月固定の3万円しか出なかった」

ずっと家族のために働いてくれた

Kota Hatachi / BuzzFeed

男性が亡くなる前日のメール履歴。深夜まで業務が続いていることがわかる

土曜日の朝、風呂場で倒れていた男性を発見したのは、次女(24)だった。

朝から具合が悪そうだった男性に、妻は「病院に行ってね」と声をかけ、仕事に出かけた。そして正午ごろ。シャワーが出っぱなしになっていたことに、次女が気が付いた。

「はじめに見つけた時は、頭が真っ白でした。すぐに救急車を呼んで、病院に連れて行って、そのまま死亡確認がされて、霊安室に行って……」

会見で次女は、うつむきながらこうも語った。

「毎晩遅く帰ってきた父とは、あまり話す機会もなくて。家にいるときも、ずっと会社の携帯を握りしめて連絡を取り合っていて、休日でも会社にいくことが多かった印象があります」

「あの日から、一人で抱え込んでしまったこともあって。私がもっと早く見つけて入れば、と自分を責めた日も多かった」

当時中学生だった三女(16)は、涙をすすりながら言った。

「父が亡くなった当日は学校に行っていて、朝も話さないままでした。どれくらい前だったかは覚えていないんですけれど、最後に話をしたのは、私が父に怒られてしまったときだと思います」

「日曜日の夜みんなが集まる時間以外、顔を合わせることすらなかったので、本当に毎日頑張っていたんだなって思います。ずっと家族のために働いてくれた父には本当に感謝しています」

残業は約100時間

Kota Hatachi / BuzzFeed

次女(奥)と三女

死因は、致死性不整脈だった。

弁護人がメールの送信時刻やパソコンのファイル作成時間などから集計した結果、男性が亡くなる1ヶ月前の時間外労働時間は、99時間53分にのぼっていた。

実際に労災認定された亡くなる前6ヶ月間の平均時間外労働は、88時間54分だったという。

ただ、会社側から開示された出退勤記録は、実態とはかけ離れていた。弁護人は「会社がつくったものだ。労働時間の適正な把握も管理もまったくしていなかった」という。

弁護人によると、社長は当初、「メールアドレスを削除した」「破棄した」などとして資料の開示に応じなかったほか、「妻と仲が良くないから家に帰りたくないのではないか」などという発言もしたという。

次女は言う。

「全然そんなことはなかった。家に帰ってみんなで過ごせる時間はちゃんと大切にしてくれる父だった。そういうことを簡単に言えるのは、すごく悲しい」

「いまも苦しんでいる人がたくさんいる」

Kota Hatachi / BuzzFeed

男性の遺影

弁護人は、会社側が労働時間を適切に把握した上で、それを減らしたり、業務内容を軽減したりする措置を取らなかったことなどが、過労死の原因になったと指摘する。

そのうえで、社長が「事実に誤りがある」として示談の申し入れも拒否したため、会社と代表取締役社長を相手取り、損害賠償を求める裁判を起こすに至ったという。

妻は「会社側が働いているところを一番見ていたはずなので、きちんと働いていたのだと認めて欲しい」と語り、こうも言葉に力を込めた。

「大きな会社では働き方改革が課題にされているかもしれないけれど、主人が勤めていたような中小企業では、いまも苦しんでいる人がたくさんいると思います」

「上司に言いくるめられて何も言えない、辞めたいと言っても転職活動する時間もない……。(国には)こうした企業での過重労働の実態も、きちんと調べていただきたい」


会社側は、BuzzFeed Newsの取材に対し、「訴状が届いていないのでコメントできない」としている。


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