• factcheckjp badge

「女児が公園のトイレで暴行を受け子宮全摘」ネットで拡散、過去にも同様の噂が

実際に事件はあったのか。医学的にあり得るのか。同様の話は過去にチェーンメールで広がり、「都市伝説」として社会現象にもなっていた。

「ある6歳児が公園のトイレで性的暴行を受け、子宮を全摘した」というツイートが拡散し、デマか事実かと論争になっている。

同様の「噂」はBuzzFeed Newsが調べただけで、1990年代から全国で何度も広がっている。噂はどのように広まり、その背景に何があるのか追った。

今回、4万以上リツイートされたのは、以下のようなツイート。すでに非公開だ。

超怖い話聞いた…。ママ友の知り合い、夏に6才女児と広めの公園で水遊びしてて、途中女児1人でトイレに行かせたら放心状態で下半身血だらけで母親の元に帰って来たそう…。何者かに性的乱暴を受けており、結局その子、子宮全摘になってしまったと…。

ツイート主は「女児だけでなく、男子も危ない。1人でトイレに行かせたら誰かに片方の睾丸を潰された子もいると聞いた」「公衆トイレだけではなく、家以外のトイレで警戒して欲しい」などとして、注意を呼びかけている。

「デマ」という指摘もあがったが、ツイート主は「『いつどこで○○ちゃんのお友達が』まで聞いており、私としては都市伝説や嘘ではないと思っております」とツイート。その後、アカウントを非公開にしている。

実際、そのような事件があったのだろうか。

警察庁はBuzzFeed Newsの取材に「個別の事例には答えられない」と回答。報道されている範囲では、ツイートされたような事件は見当たらない。また、自治体が出している不審者情報サービス「日本不審者情報センター」の情報(2016年6月以降)でも見当たらない。

子宮全摘は通常ありえない?でも…

性犯罪は詳細が公にならなかったり、被害者が届け出そのものをしなかったりするケースもある。報道がないことは「ないことの証明」にはならない。

では、医学的見地からはどうか。

産婦人科医で、強姦事件の被害者の診察も日常的に経験しているタビトラさんはBuzzFeed Newsの取材に対し、産婦人科医としての観点からは、「子宮全摘」という点は事実ではない可能性が高い、と指摘する。

「膣とすぐ近くにある直腸が強姦で繋がってしまう傷害ならあり得ますが、子宮全摘につながるような子宮破裂は通常あり得ないでしょう。ただ、特殊な状況であれば、ないとは言い切れない。ないことの証明は医学的に難しいのです」

過去にも出回った「子宮摘出」の噂

「女児がトイレで性的暴行を受け、その後子宮を全摘した」といった内容の噂が出回ったのは、今回が初めてではない。1990年代後半から2000年代初頭にも、似たものが出回っていた。

西日本新聞は99年6月、福岡近郊で「ディスカウントストアに父親と買い物に来ていた小学二年生の女児が、トイレで中学生の男子生徒らに乱暴され、血まみれで倒れていた。女児は重傷を負った」という内容の噂が出まわったことを報道。

警察や行政に取材したうえで「デマ」と認定した。しかし2ヶ月後には「女児は子宮摘出手術を受けたが、死亡した」という情報も付随し、佐賀県で広がったとも報じている(99年8月)。

同紙によると2001年7月にも、長崎県佐世保市も「大型店で母親が目を離したすきに女児が少年にトイレに連れ込まれ、乱暴されて重傷を負った」という話が広がっていたという。

さらに03年8月には、石川県の地元紙・北国新聞が金沢市内で「女児が大型店のトイレで中学生に乱暴されて下腹部に重傷を負った」との話が出回ったと伝えている。

当時の報道によると、社会心理学者の川上善郎・成城大教授(当時)がこの噂を調査し、福岡や広島、山口などでも同様の話が広がっていたことがわかったという。

そのうえで、北国新聞は以下のように川上氏の見解を報じている。

川上教授は都市郊外に立地した大型店が、不特定多数が集まる「不安な社会」を連想させ、長崎の男児誘拐殺害事件のような現実と重なり合う形で不安感の強い母親がうわさを広げたと分析し、これらを現代の「都市伝説」と位置付けている。

00年代にはネットで拡散

2003年には鹿児島川内市でも同じような内容が広がった。この時は、ネットを介して広まるようになっていた。

南日本新聞(03年12月)によると、市教委がデマと否定し、市議会で経緯報告をする事態に発展。同市の教育課長は「うわさはインターネットを介して広がり、不安に思った保護者らからさらに広まったようだ」と説明したという。

実際、この頃から携帯電話やインターネットの普及に伴い、同様の「都市伝説」が「ネット掲示板」や「チェーンメール」の形で出回るようにもなったようだ。

例えばこれは、04年4月ごろの2ちゃんねるの書き込みだ(引用はいずれも固有名詞を伏せ字にしています)。

〇〇と言う ショッピングセンターにて、小学1年生の女児がイタズラにあったとの情報が有るのですが、詳細を誰か知っていますか?

私の聞いたところでは、身障者用トイレに連れ込まれた上で 暴行を受け、子宮破裂で子宮摘出手術となったとの事です。

2ちゃんねるには福島を舞台にした同様の書き込みが複数あり、噂が広がっていたとみられる。

また、高知新聞は05年12月に【“都市伝説”独り歩き 携帯メールで異常拡大?】として、以下のようなメールの内容を報じている。

〇〇のトイレに母親が4歳の女児を1人で行かせた。なかなか出てこないので母が見に行くと、女児が暴行されていた。女児は大けがをしたが、警察と新聞社が事件を伏せている

06年5月の河北新報では、宮城県登米市で同様の情報が出まわり、一旦は警察署が注意喚起をしたが、その後「事実無根」として取り下げた、と報じている。

警察も注意喚起、社会現象に

さらに07年ごろには、全国各地に「チェーンメール」が出回ったようだ。当時の「Yahoo! 知恵袋」には以下のように、その内容を記した投稿もある。

橋本の○○や南大沢の○○、伊勢原で幼児をトイレに連れ込み悪戯をする事件が相次いでいるみたい。男の子はお尻にボールペンを入れられ、女の子はもっと酷くて3歳で子宮を全摘出しなくてはならない程……

これを受け、同年9月には、神奈川県警がホームページ上で「デマ情報」として、以下のように注意喚起をしている。

大規模店舗内で「幼児暴力事件が起きて警察が厳重警戒している」等の事実無根の情報です。このような悪質なデマ情報に惑わされないでください。

しかし、この後もチェーンメールの拡散は止まらなかったようだ。報道を見る限り、9〜11月までに少なくとも秋田、山形、岩手、栃木、長野、大阪、岡山、福岡、徳島、佐賀、鹿児島、沖縄で注意を呼びかける記事が確認できる。

各県警なども注意を呼びかけるほど社会現象にもなったようで、特集を組む新聞もあった。たとえば、毎日新聞は【デマメールご用心 「スーパーで女児が性被害」関東から約10日で福岡へ】(07年10月)と伝えている。

子どもが被害にあう事件は起きている

子どもたちが被害者となる性犯罪そのものは、実際に起きている。

警察白書によると、13歳以下の子どもが被害にあった強制性交事件は2017年に91件。刑法が改正される前の強姦事件では、16年に69件、15年に64件だった。

女児をトイレに連れ込んだ上で殺害する事件もあった。2012年に熊本市のスーパーで、当時大学生だった男が家族で買い物に来ていた3歳の女児多目的トイレに連れ込んでわいせつな行為をしたうえ、首を手で絞めるなどして殺害したのだ。

また、昨年5月には相模原市の飲食店のトイレで、女児が被害を受けた強制わいせつ致傷事件も起きている。

産経新聞の報道によると、相模原市の飲食店の男女共用トイレ内で、家族と来店した6歳の女児が男女共用トイレに入った際、男に下半身を触るなどのわいせつな行為をされ、けがをした。

父親が様子を見に行った際に男は逃走したが、防犯カメラの映像をもとに強制わいせつ致傷容疑で逮捕されたという。

今回のツイートは「6歳女児」や「トイレ」「夏」という点においてこの事件と内容が似通っている。

こうした事件の情報に、憶測やこれまで拡散していた噂がくっついて「都市伝説」となっていく可能性がある。

デマでも注意喚起……?

防犯には注意を払う必要がある。一方で、根拠に乏しく扇情的な噂や「都市伝説」にも注意が必要だ。

扇情的な噂はパニックなど思わぬ事態を招く危険性もあるからだ。

今回のツイートに対して「デマだとしても注意喚起になる」といった意見もある。注意を喚起するとすれば、事実に即した情報で行うべきだろう。

長年Twitterを利用している前出の産婦人科医のタビトラさんは、こう語る。

「そもそもTwitterの利用者は、『デマでも注意喚起になればいいじゃないか』という意識を持つ人が多いので、こういう話は拡散されやすいのです。『多少盛ってあっても、犯罪が抑止された』という満足感と、デマはデマという事実重視派のどちらが勝つか。なぜデマがなくならないかを考える材料としては、とても興味深い事例でした」

UPDATE