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スーツを脱ぐのは盆と正月だけ。20代、大手生保営業マンを苦しめる長時間労働の闇

電通一社だけに問われている問題ではない、働き方の問題。2000年に過労死を出した生命保険業界で働く男性は「休日がまったくない」という。その実態を聞いた。

2016年12月。違法な長時間労働をさせていたとして、東京労働局が電通と同社幹部1人を書類送検した。この幹部は、15年末に自殺した新入社員・高橋まつりさん(当時24)直属の上司だった。

こうした問題は電通一社だけのものではない。2016年だけでも、関西電力や三菱電機などの企業で、過労自殺や長時間労働が発覚している。

2017年1月17日に発表された厚生労働省の調査によると、2016年4〜9月までに労働基準監督署が監督指導した1万59事業所のうち、4416事業所(43.9%)で違法な時間外、休日労働があった。

そんな中、2000年に過労死を出した生命保険業界でも、いまだに長時間労働が横行しているという。

現役男性社員が、BuzzFeed Newsに証言してくれた。

20代営業マンの苦悩

「最近ずっと体調が悪いんですよね。本当、このままじゃ早死にするなって思います。まあ、保険にはたくさん入っていますけど」

BuzzFeed Newsの取材にそう自虐的に語るのは、大手生命保険会社の営業所で働く20代の男性だ。

自分のいる業界の現状を共有し、少しでも変えたいとの思いから、取材に応じてくれた。

男性によると、平日の勤務は毎日朝7時半から午後10時半ごろまで。友人と飲みに行く時間も、プライベートをゆっくり過ごす時間もないが、「別にそれは問題じゃないんです」という。

では、何が「キツい」のか。

「休日がまったくないんです。営業員が取ってきた保険にお客さんが契約をしそうなときは、最後の一押しに僕ら総合職が呼ばれることが多いのですが、土日祝日のどこかに絶対アポが入ってしまう」

「それは、個人のお客さんの多くが平日に働いているからなんですよね。そうすると、平日に会うことはできない。だから、休日のほとんどが埋まり、何かしらの形で仕事をすることになってしまうんです」

男性が務める営業所にいる営業員の数はおよそ60人。それに対し、総合職のスタッフは4人だけしかいない。

最年少の男性には、営業員から見て「頼みやすそうだから」という理由だけで、土日に多くの依頼が集中する。4人で均等にアポを分けるなどの対策は、されていない。

男性は言う。

「この2年間でスーツを脱いだのは本当、お盆と正月くらいですよ」

指導される「振替休日」の実態は

特に忙しくなるのは毎年4、7、11、2月だ。会社全体でノルマが3倍になるからで、40日間は働き詰めになる。件数を単に増やしても解決しないので、できる限り利益率の高い商品を売ることを目指しているという。

会社の規定では、土日に出勤した場合は「振替休日」を取るように指導されている。しかし、それは表向きだけ。実際に取れたことは、一度もない。

「振替休日の日は、パソコンをつけずに仕事をしろと支店長クラスの上司から言われるんです。そうしたら働いたことの記録が、データとして残りませんからね」

「そういう指示は、メールではなく会議で言われました。『うまくやってね、わかってるよな』って。これも形が残らないようにするためじゃないかなって思っています」

男性の会社は、約10年前に保険金不払いで金融庁から2度の業務停止命令を受けている。保険金不払いに対しての改革はあったが、コンプライアンス意識は依然として低いという。

「働き方改革とかを本社でしていても、現場では福利厚生なんて一切ない。俺たちには関係ない、と思ってしまいます」

ヒアリングには「知りませんと答えろ」

この男性一人が異常な状態にいるわけではないという。

近しい職場で、労働基準監督署に現状を訴えた社員がいた。人事部から長時間労働についてのヒアリングを受けたが、上司からは事前に、「知りませんと答えろ」と言われた。

「あえて不利な発言をしてもどうにもなりませんから。その時はもちろん、上司に従いましたよ」

その社員がいま、どの部署にいるのかは知らない。ただ、何かあったときのためにと、最近は手帳に働いている日付を記録するようになった。

手帳を見せてもらった。

アポは大体、日に3〜4件。土日も同様だ。ひさしぶりの休みがあったと思っても、金曜日の夜に営業員から電話がかかってきて、せっかくの予定が流れることもあった。

「断ることもできないんですよね。営業員どうしのいさかいになるかもしれないので」

5年間付き合い、結婚まで考えていた彼女には、会えないことを理由に別れを告げられた。

そんな男性のストレスのはけ口となるのが、高額の買い物だ。趣味に使う商品は「軽自動車が買えるような額」でどんどん購入してしまう。

でも、買った品物を使う時間は、一切ない。

業界にはびこる構造的な問題

実際、この業界では過労死による犠牲者が出ている。2000年、三井生命(当時)の男性社員(当時32)が過労死している。

この事件の裁判を担当した増田尚弁護士の報告書を読むと、この男性社員の状況は、取材に応じてくれた男性の状況と酷似していることが分かる。

過酷なノルマを達成するためには、必然的に、残業・休日出勤をしなければならない構造であった。もともと、営業職員は、顧客の生活リズムに合わせて行動するため、昼は法人や主婦を対象に訪問し、サラリーマンなどについては夜の終業後や土日に自宅に訪問することが多い。

日常的に夜間の残業や休日出勤をしなければならない。また、目標未達成ともなれば、支社から檄を飛ばされ、営業職員とともに休みなく目標達成に邁進させられるのである。

この男性社員は、ノルマ強化月間の翌月、2000年8月の土曜日に出社したのち、自宅で虚血性心疾患により死亡した。日曜日の朝から、同僚と「顧客獲得のために英会話学校のティッシュ配りをする予定」だったという。

7月に第一子が生まれたばかりだった。

当時の報道によると、男性社員は2003年に労災認定。勤務時間を記録するものはなかったが、過労による急死と認められた。残された妻は会社を相手に損害賠償を求める裁判を起こし、2006年、同社が7500万円を支払うことで和解した。

業績至上主義がもたらす過労

三井生命の男性社員が過労死した背景には、「異常なノルマ主義と長時間過密労働」があったと、先の報告書で増田弁護士は指摘している。

いまもそれは変わっていない、とBuzzFeed Newsの取材に応じた男性は言う。

「完全な業績至上主義なんですよ。成果が出せないと、会議で上司たちから詰められます。その時に数字が出ていない理由が『土日に休んでいたこと』だとしたら、何を言われるかわかりません」

無理な働き方をしていて、心身を壊して休んだ人たちに対する目も冷たい。「あいつは弱いんだ、ダメなんだ」なんて噂を、しょっちゅう聞く。

自分もそうはなりたくない。でも、そのためには、働き続けないといけない。だからこそ逡巡している。

転職も考えているが、そうする勇気も、時間もない。そもそもこの仕事を続けてきて、どれほど市場価値がついたかという自信もない。

「仕事のモチベーションが上がらないんです。なんのために働いているのかもわからない。ただただ、奉公しているみたいな感覚なんですよ」

そういうと、男性はまた自虐的に笑った。

高橋まつりさんの死と遺族の訴えで長時間労働に注目が集まった。しかし、実際には今も全国で同じように苦しんでいる人たちがいる。社会が変わらなければ、また、犠牲者が生まれる。


Kota Hatachiに連絡する メールアドレス:Kota.Hatachi@buzzfeed.com.

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