池袋暴走事故、飯塚被告に「懲役」ではなく「禁錮5年」判決文にあったその理由

    検察側は禁錮7年を求刑していたが、判決は禁錮5年。被告の無罪主張を退けた。

    東京・池袋で2019年4月、高齢者が運転する車が暴走し、当時3歳の松永莉子さんと母親の真菜さん(当時31)がはねられ死亡した「池袋暴走事故」。

    東京地方裁判所は9月2日、2人を死亡させ、男女9人に重軽傷を負わせたとして、自動車運転処罰法違反(過失運転致死傷)の罪に問われた飯塚幸三被告(90)に禁錮5年(求刑・禁錮7年)の実刑判決を言い渡した。

    今回、飯塚被告が問われたのは自動車運転処罰法の過失運転致死傷の罪だ。法律で決められた刑の上限は「懲役もしくは禁錮7年、100万円以下の罰金」となっている。

    (過失運転致死傷)第五条 自動車の運転上必要な注意を怠り、よって人を死傷させた者は、七年以下の懲役若しくは禁錮又は百万円以下の罰金に処する。ただし、その傷害が軽いときは、情状により、その刑を免除することができる。

    検察側は禁錮7年を求刑していたが、判決は禁錮5年。被告の無罪主張を退けた。

    裁判所は量刑の理由で、「踏み間違いに気付かないまま自車を加速させ続けた被告人の過失は重大」「被告人が本件事故に真摯に向き合い、自分の過失に対する深い反省の念を有しているとはいえない」と批判している。

    「被告人の過失は悪質」としつつ、「酒気帯び運転等の悪質な運転行為に伴うものではないことから、禁錮刑をもって処断するのが相当である」と結論づけた。

    また、「被告人に有利に考慮すべき事情」として(1)適正な損害賠償が支払われるか、支払われる見込みであること(2)運転免許の取消処分を受けていること(3)被告が高齢で体調も万全ではないことなどーーを挙げた。

    さらに、弁護人が主張していた報道や街宣などによる「過度の社会的制裁」についても「本件に伴って被告人が受けた不利益」と認定。ただし、「やむを得ない面もある」「考慮する程度は自ずと限定される」とも補足している。

    そのうえで「過失の重大さや結果の甚大さといった本件の犯情の重さからすれば、被告人に有利に考慮すべき事情を踏まえても、被告人については長期の実刑は免れない」として、禁錮5年を言い渡した。

    禁錮と懲役の違いは?執行猶予は?

    判決文でも言及されているように、過失による交通事故では「悪質な運転行為」が伴わない限り、禁錮となることが多い。では、そもそも禁錮と懲役の違いは何なのか?

    刑法9条では、刑の重さは「死刑、懲役、禁錮、罰金、拘留及び科料」の順番であると定められている。つまり、法的には禁錮刑よりも懲役刑の方が重いものであると言える。

    禁錮刑と懲役刑の違いは、刑務所内で刑としての「作業」(刑務作業)をするか否かだ。

    作業内容には、木工、印刷、洋裁、金属及び革工などの業務のほか、刑務所内の炊事や洗濯なども含まれる。

    ただし、法務省の資料によると「大部分の禁錮受刑者は申出により作業に従事している」という。

    なお、今回の判決では、刑を言い渡されても再び罪などを犯さない限りは収監されない「執行猶予」がついていない。

    執行猶予の対象は前科がない者などについて、「3年以下の懲役・禁錮又は50万円以下の罰金を言い渡すとき」(刑法25条)なので、今回の判決はそもそも該当しない。

    飯塚被告はどうなる?

    飯塚被告は在宅起訴されている。検察か被告が控訴した場合は、判決が確定するまで、刑務所に収監されることはない。

    また、飯塚被告の健康状態などによっては、仮に刑が確定しても、検察官が「執行停止」する可能性もある。

    執行停止は刑事訴訟法の482条で定められており、刑によって「著しく健康を害する」「生命を保つことのできない」おそれがある場合や、70歳以上である場合などが対象となり得る。