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「立憲は日本を滅亡に追い込む組織」「在日を野放しにすると…」辻元事務所やコリア学園、創価学会を襲撃した被告。裁判で語ったこと

立憲民主党の辻元議員の事務所や、在日コリアンらが通う中高一貫校・コリア国際学園、さらに創価学会の施設を立て続けにねらった被告。裁判で起訴事実を認めた。被告人質問で明らかになった動機と背景とは。

辻元清美・参議院議員(立憲)の事務所と、インターナショナルスクール「コリア国際学園」、創価学会の施設にそれぞれ侵入し、建物に損壊を与えたり、火をつけたりしようとしたとして建造物損壊などの罪で起訴されている無職・太刀川誠被告(30)の第3回公判が10月13日、大阪地裁(梶川匡志裁判官)であった。

被告人質問では、被告が3つの事件の動機について言及。「立憲民主党は日本を滅亡に追い込む組織」「在日韓国・朝鮮人を野放しにすると日本が危険に晒される」「創価学会も日本を貶める組織」だと思っていたことから、犯行に及んだとした。いずれも、ネット上の根拠のない情報などを信じ込んだとみられる。

また、辻元氏の事務所とコリア学園をねらった犯行では、関係者や生徒らの個人情報を入手しようとしたとし、「嫌がらせをして、日本から追い出す」目的があったとも明かした。

在日コリアンに対する「嫌悪感」もあったと述べており、憎悪感情を根底にした「ヘイトクライム」であることが明らかになったと言える。

(注:事件の実相を伝えるため、この記事には差別表現が含まれます)

起訴状などによると、被告は3月1日に大阪府高槻市の辻元氏の事務所の窓ガラスをハンマーで割って侵入し、キャビネットを物色。しかし警備会社の警報が鳴り、何も取らずに逃走した。

また、4月5日には同府茨木市のコリア国際学園に侵入し、広場に置いてあった段ボール箱にライターオイルを染み込ませ、ガスバーナーで火をつけて床を焼損させた。

さらに5月4日には、大阪市淀川区の創価学会・淀川文化会館の敷地に侵入。窓ガラスをコンクリートブロックで割った。犯行は3事件とも夜間で、いずれもけが人はいなかった。

被告はいずれの事件でも起訴事実を認めている。検察側は前回裁判の冒頭陳述で「かねて韓国に対する悪感情を有しており、何らかの損害を与えたいと犯行に及んだ」などと指摘。創価学会に対しても同様に「悪感情」を有していたとした。

被告人質問では、弁護人や検察官、裁判官が動機などを質問した。調書の証拠採用を弁護人が不同意していたこともあり、やりとりは2時間以上に及んだ。

裁判でのやりとりを総合すると、被告は昨年5月ごろにTwitterアカウントを開設し、おもな情報源としていたという。

北海道・旭川市のいじめ自殺問題を機に、さまざまな社会問題について情報収集をしていた過程で立憲民主党、在日韓国・朝鮮人、公明党・支持母体の創価学会が「反日的」であるという「3つの問題にたどり着いた」と主張した。

Twitter以外にはYouTubeも見ていたといい、改めて自分で調べたりすることはあまりせず、情報を吟味したり、根拠を探したり、書籍に触れたり、直接関係者に接しようとしたりすることもなかったという。

根拠ない情報もとに「反日」と決めつけ…

被告はまず辻元氏の事務所を狙った犯行について、「立憲民主党が嫌いだった。日本を滅亡に追い込む組織だと思っていた」と言及。

拉致被害者への態度に加え、在日米軍、自衛隊など「日本を守る組織をバッシングしている」とネット上で見聞きし、そう考えるようになったとした。

辻元氏についてもネット上の情報を通じて昨年9〜10月ごろから嫌悪感を抱くようになったと主張。さらに同党所属議員でも有名だったことや、事務所が自転車でも行ける圏内だったことからターゲットにしたといい、「議員名簿」などの「個人情報」を盗むつもりだったという。

また、コリア国際学園への犯行については、「朝鮮学校と検索をかけて(存在を)知って、家から比較的近くにあったので狙おうと思った」とした。

コリア国際学園でも生徒や教職員の住所が書いてある名簿を盗もうとしたが室内には入れず、「何もできなかったのが嫌で、嫌がらせをしよう」と、ピロティにあった段ボールに火を付けたという。ガスバーナーを持ち込んだ理由は「証拠隠滅のため」と主張している。

在日コリアンの人たちを「反日」と考えるようになった理由については、北朝鮮のミサイル問題や韓国における日本への抗議デモの振る舞い、「韓国のシャインマスカットの詐取」などをあげた。

また、在日韓国・朝鮮人の犯罪に関する根拠に基づかない情報も信じていた。しかし、そうしたルーツの人たちに知り合いなどがいたり、直接話をしたりしたこともなかったという。

また、創価学会についても、同会が支持母体である公明党が「中国を擁護する」政策をとっていたと指摘。「韓国とつながっているという噂」もTwitter上で知ったが裏付けもせずに信じ、犯行に及んだという。

この事件については個人情報を盗むといった目的は考えておらず、「嫌がらせ」が目的だったとした。なお、この事件でも被告が段ボール片に火をつけ室内に投げ込んでいたことが明らかになった。

「日本から追い出したかった」

被告は立憲民主党やコリア国際学園で名簿を入手し、どうするつもりだったのか。検察官に問われると、被告は「立憲民主党の構成員」や同学園の生徒や教職員に「嫌がらせをしようと思っていました」と述べた。

この点について「嫌がらせをするとどうなると思ったのか」と裁判官が質問すると、「日本から去っていくと思いました」と答えた。「日本から追い出したかったのですか?」と質問を重ねられると、「はい」とだけ答えた。

弁護人はこうした動機に基づいた同学園への犯行について「ヘイトクライム、ヘイトクライム的な行動」と指摘。

被告はこれに対し、在日韓国・朝鮮人すべてが「反日的」(弁護人)であると根拠なく自らが決めつけていたことから、「坊主憎けりゃ袈裟まで憎い」と「いわれなき攻撃をしてしまった」などと答えた。

ヘイトクライムに発展したことについては、「何か行動を起こさないといけないと思っていた。善悪の判断がつかなくなっていた」などと釈明。また、ヘイトスピーチについては「言葉だけでも人を傷つける。悪い人じゃない人まで攻撃してしまう可能性がある」などと述べた。

なお、検察側も同学園への犯行は、在日韓国・朝鮮人への「嫌悪感によるもの」と改めて指摘。

弁護人の「ヘイトクライム」という言葉を借りながら、「韓国や朝鮮にルーツを持つ人がどう思うか。何を伝えたいか」「特定のカテゴリーの人たちへの嫌悪感や悪感情で犯行に及んだことを今はどう思うか」と問うた。

これに対して被告は、「悪いことをしていない人に、恐怖心を与えてしまった。このたびは乱暴を働き、申し訳ありません」「善悪の判断ができない状態で行動を起こしてしまったので、自分が正しいと一方的に決めつけないようにしたい」と応じた。

なお、被告はTwitterを中心に情報を得ていたことについて、「ネット右翼と同じような考え方をしていた。偏った考えだったのかもしれません」と述べ、反対意見を持っている人は「北朝鮮や韓国に媚を売って日本を売り渡そうとしている、平和ボケな人」と感じていたとも語った。

「日本のためなんですよね?」と問われた被告は…

裁判を通じ、被告は「反省」の言葉を何度か繰り返したが、これまで、被害者に対して謝罪文や反省文などを出していない。なお、被害者と示談金の交渉をしているが、辻元氏の事務所と国際学園は受け取りを断っているという。

謝罪文については、検察官から「反省を示していない」とも捉えられると指摘された。被告は「(辻元事務所には)考え方には賛同できませんと嫌味を含んだ表現になってしまうと思い書けなかった」「(ほかの2者には)どう書けばいいかよくわからなかった」「求められれば書こうと思います」などと述べるにとどまった。

さらに、信じていた情報がいまも正しいと思うかどうかについては「あっていると思うが全体像ではない」「事実があるからこういう情報がある」「いろいろな意見や人の話を聞いて自分で結論を出さず、こういう側面があるんだくらいに捉えたい」などと答えた。

被告は前述の通り、「悪いことをしていない人」という言葉をたびたび用いた。これは逆に言えば、「悪いこと」が認定されるのであれば、自らの犯行を正当化し得ると考えているともとれる。

そこで裁判官は「仮にあなたがいう通りに良くないことをしていたら、嫌がらせをしていいんですか」と問いただした。被告は「良くないと思います」と応じた。

こうした態度に対し、裁判官は以下のように厳しく指摘。被告が黙り込んで答えに窮する場面もあった。

「考え方が気に食わないとよくわからない情報に基づいて犯行する人は日本にいたら困ります、出てってくださいといわれたら出て行くのですか?あなたがしたことは、そういうことです」

「どうして、暴力を振るって良いと思ったのですが?日本のためになるんですよね?」「なぜ、自分が正しいと思い込んでいたんですか」

このうち暴力行為に及んだことについては「自分が抑えきれずに冷静になれなかった」「法律じゃダメだと思った」「頭のネジが外れていた」「自分にもできる形で行動を起こそうと思っていました」などとも弁明していたが、行動を起こさせた具体的な過程までは明らかにならなかった。

なお検察官は、被告が取り調べ段階で「12月に辻元議員に危害を加えようと思ったがうまくいかなかった」ことから事務所襲撃に犯行を切り替えた、と述べていたと指摘した。

被告は「気が動転して冷静に答えられなかった」と述べ、そうした事実はないと否定した。

相次ぐ「ヘイトクライム」司法の判断は

在日コリアンをねらったヘイトクライムをめぐっては、京都府宇治市の「ウトロ地区」や名古屋市の韓国学校などを狙った連続放火事件が2021年に起きた。

この事件では犯行当時22歳の男が逮捕・起訴され、今年9月に京都地裁は懲役4年の判決を言い渡し、確定した。

男は逮捕後、BuzzFeed Newsの取材に、自らが「ヤフコメ欄」を情報源にしていたとし、さらに動機について、在日コリアンが「日本にいることに恐怖を感じるほどの事件を起こすのが効果的だった」と答えていた。

その後の公判で、ネット上に広がる在日コリアンに関するデマや言説を信じ、影響を受け、「世論を喚起するため」に犯行に及んでいたことも明らかになった。

判決では男がかねて在日コリアンが「不当に利益を得ているなどとして嫌悪感や敵対感情」を抱いていたと指摘し、「在日韓国・朝鮮人や日本人の不安を煽ることで、自らの望む排外的な世論を喚起すること」を目的にまず名古屋の事件を起こしたと認定。

犯行について「在日韓国・朝鮮人という特定の出自を持つ人への偏見と嫌悪に基づく身勝手な犯行」などと厳しく批判したが、「ヘイト」や「差別」という言葉は直接的には用いられなかった。

この類似事件とも言える今日の国際学園などへの暴力行為を巡る裁判では、「ヘイトスピーチ」「ヘイトクライム」という言葉を弁護側と検察側のいずれも用いた。

暴力行為に及んだことを厳しく指摘するなかで、「ヘイトスピーチ」そのものの危険性が矮小化されかねない場面もみられた一方、特定の出自を持つ人たちに恐怖をもたらす犯行の悪質性は強調されている。

こうした点が、論告求刑にどう反映されるかが注目される。次回の公判は11月17日。被害者側の意見陳述も予定されている。

UPDATE

一部表記を修正しました。