ネットにあふれるヘイトスピーチ 法務省が削除要請の対象を拡大、何が変わるのか

    人権擁護局が出した通知により、たとえば「○○に住む在日」「○○朝鮮学校の生徒」「○○会社の社員」などという言動が新たに対象になる。

    インターネット上のヘイトスピーチや差別的言動について、法務省による削除などの救済措置の対象が個人だけではなく集団に広がった。

    専門家からは評価する声があがる一方で、懸念やさらなる対策を求める声も出ている。

    法務省人権擁護局が各地方法務局に通知を出したのは3月8日。

    ネット上のヘイトスピーチが問題視されるなか、半年にわたってプロバイダや通信事業者、SNSやプラットフォーム事業者などとともに検討を重ねてきたという。

    同局はこれまでも、ネット上の人権侵害に関する通報があった場合、プロバイダへの削除要請やそのアドバイスなどを実施してきた。ただ、人権侵害のなかでも「差別的言動」の対象は「特定の者」とされていた。

    しかし近年はヘイトスピーチなど、「不当な差別的言動は、集団や不特定多数の者に向けられたものが少なくない」なか、対応しきれなかったものもあったため、この範囲を広げることにしたという。

    新たな対象となるのは…

    新たに対象となるのは、(1)集団等を構成する自然人の存在が認められること(2)集団などに属する者が精神的苦痛などを受けるなどの具体的被害が生じている(又はそのおそれがある)と認められる、差別的言動だ。

    担当者は、特定の人種や出自の範囲までは対応できないとしながら、「〇〇市の〇〇地区」などの地名や、学校・組織名の名指しなどに対応ができると指摘する。

    つまり、「○○に住む在日」「○○朝鮮学校の生徒」「○○会社の社員」などという言動が新たに対象になるということだ。

    この具体的被害については、「社会的通念に照らして客観的に判断」することになるといい、実際に被害を受けた人からの被害実態の聴取についても、必ずしも必要ではない、としている。

    一方で、「○○人」などという大きな枠組みは対象外のままとなる。

    ただ、(1)や(2)に当たらずに削除要請ができなかった場合でも、ヘイトスピーチ対策法第二条の「本邦外出身者に対する不当な差別的言動」に該当した場合は、プロバイダに対し削除などの対応の検討を促すとしている。

    また、人権擁護局長は4月9日の参議院法務委員会で、こうした解釈が「街頭における差別的言動でも当てはまる」という見解も示している。

    ネット上にあふれる「ヘイト」は除外?

    ヘイトスピーチ問題にくわしい師岡康子弁護士は、BuzzFeed Newsの取材にこう語る。

    「今回の法務省の方針は、名指しされていなくとも、マイノリティの属性を有する個々人に具体的な実害をもたらすとの実態に着目し、被害救済の観点から、『特定』の概念を拡大したもので、評価できます」

    そのうえで、具体的な被害について「社会的通念に照らして客観的に判断」としている点について、「社会的通念が現在のマジョリティの常識ではなく、マイノリティに属する人々の被害の実態に即した内容となるよう、その運用に注目したい」とも語った。

    一方で、「ネット上にあふれる、地名などの限定がない不特定の集団に対するヘイトスピーチについては除外されているように見えます」という。

    「そのような限定がなくとも、自分の属する集団に対するヘイトスピーチがあるがゆえに、ネットの使用を控えたり、ネット上で自分の属性を明かすことができないなどの実害が生じていることは、2017年3月に法務省が公表した外国人住民に対するアンケート調査でも明らかになっています」

    また、「ヘイトデモ・街宣も含めて無限定の不特定の集団に対するヘイトスピーチは、社会に差別と暴力を蔓延させる大きな問題」と指摘。

    「法務省の救済手続きの対象拡大は前進ですが、同手続きには強制力はなく、悪質なヘイトスピーチを繰り返す人たちの行為を止めることはできません」

    日本第一党による「選挙運動に名を借りたヘイトスピーチ」なども繰り返されている現状があるとして、対策法制定3年が経とうとしているなかで「法規制など実効性ある具体的対策を立てることが急務です」と語った。


    担当者は「これまで個人ではないと泣き寝入りしていたような方も、遠慮なく本局に相談していただきたい」としている。

    人権擁護局に対しては、被害当事者に関わらず、第三者でも通報ができる。詳細は同局サイトより。