在日コリアンが集住する京都府宇治市のウトロ地区で放火事件が起きるなど、憎悪感情を根底にした「ヘイトクライム」が相次いで発生している。
こうした状況を受け、弁護士らでつくる「外国人人権法連合会」などが古川禎久法相と面会し、意見交換。緊急対策として現地訪問やヘイトクライム対策に関する制度設計などを求める提言書などを提出した。
面会には、川崎市の多文化共生施設「ふれあい館」の館長で、ヘイトクライムの被害を受けてきた在日コリアン3世の崔江以子さんも同席。
文章を読み上げ、法相にいま直面している実態を訴えた。BuzzFeed Newsでは、その全文を掲載する(面会は4月28日)。
(注:問題の実相を伝えるため、この記事には差別的表現が含まれます)

2016年の6月にヘイトスピーチ解消法ができた時、本当に嬉しかったです。
審議の過程で、参議院法務委員会の皆さんが、ヘイトデモの被害を受けた、川崎市桜本を現地視察にきてくださり、差別の被害を直接聴き、「決して許せない」と差別を批判し、何とかしなければと、法律を制定してくれました。
解消法ができて6年が経ちました。まさか、法律ができた時よりも、差別によりつらい生活になるとは想像すらしていませんでした。
国がヘイトスピーチ許さないと法律で宣言してもなおネット上のヘイトスピーチはとまらず、ヘイトスピーチだけでなく、差別を動機とした犯罪、ヘイトクライムに苦しめられています。
2016年夏に私の写真にゴキブリとうじ虫が張られた、脅迫郵便が届きました。 翌年には実物のゴキブリの死骸、首を切断されたゴキブリの死骸が届きました。
2020のお正月には、虐殺予告の年賀状が届き、同月末には、私の勤める川崎市の施設に爆破予告がされました。
そして2021年3月、コロナで多数の方々が亡くなり、社会全体が不安の中、「朝鮮人死ね」と14回記され、殺すという脅迫状とともに、コロナの菌が付着しているとされるお菓子の空袋がおくられてきました。
また、今年の2月には Twitterで刃物の写真を投稿し、桜本で抗争したいという脅 迫がありました。
「私たちを見殺しにしないでください」
毎日不安で自宅を出る際には、防刃ベストを付け、警棒、防犯ブザーを持ち歩いています。
差別を動機とする脅迫や犯罪は、エスカレートするばかりで、様々な自衛策や、警察によるパトロールを実施していただいていますが、次に何が起きるか、不安の渦の中にいます。
実際に京都宇治市の在日コリアンの集住地域や、愛知県の民族団体施設には、差別意識から火が放たれました。
次は私の住む場所だったかもしれません。次は私かもしれません。どうか、助けてください。 差別を動機とする犯罪から守ってください。 私たちを見殺しにしないでください。
戦後日本の復興に貢献してきた在日一世の方々は、皆、高齢となり、老いの時を安寧に過ごすことを望まれていますが、次々に生じる差別犯罪に心を痛めつけられています。
在日コリアンの子どもたちに、本名を名乗ろう。そして地域社会が本名を呼ぼう と、基本的人権を尊重し、共に生きる地域実践を大切にしてきましたが、こうした差別による脅迫や犯罪があり、そして放置されている社会では、こどもたちに、本名をなのろう、自分らしく生きようと、決して言えません。
「殺されないように、ルーツを隠して生きたほうがいい」。こう言わなければならない社会なのですか。どうか、たすけてください。見殺しにしないでください。
私たちの願いは、誰かが、私が命を落とした後に「残念」とのコメントではなく 今、既に生じている差別を動機とする犯罪に、国が許さないと宣言をし、ヘイトクライムの被害から守られることです。 助けてください。
法相「ヘイトがあふれている」

崔さんは実際に送られてきた手紙などの写真を見せながら、自らの被害を語った。古川法相(写真右)は、目をそらすことなく、話に耳を傾けたという。
出席者によると、古川法相からは「お話を聞いて、胸が張り裂ける思い」という言葉があり、「いまヘイトクライム、ヘイトスピーチがあふれている」「人種、民族、宗教、国籍などでの不当な差別はあるまじきこと」と強調。
ヘイトクライムが犯罪であり、厳正に対処するとしたうえで、「ヘイトスピーチ問題は表現の自由があるからと躊躇されることもあるが、一歩進んで議論を始めるとき」という趣旨の説明もあったという。
崔さんは面会後の会見で「大きなことは望んでいません。ただ、私たちの被害に対して国が、政府が、こんなことは許されないと宣言し、被害から守るだけではなく、いますでに生じている被害について対策をしてもらいたいと感じています」と話した。
この日の面会では、「社会に差別と暴力が蔓延」し、当事者が「恐怖、孤立感、絶望の下に置かれ(中略)深刻な被害を受けています」と、日本社会のヘイトスピーチ、ヘイトクライムをめぐる現状に言及した要望書と提言も提出。
ヘイトスピーチ対策法の施行後も具体的な対策がされてこなかったとして、包括的な差別禁止法のの整備、首相や法相による現地の訪問、差別的動機が量刑に考慮されるガイドラインの策定、被害者救済の仕組みづくりなどの緊急対策を求めた。
UPDATE
一部「死体」としていた記載を「死骸」に修正しました。