博多陥没、道路が復旧 事故からたった1週間、「日本の底力だ」と喜んで良いのか

    専門家は「また事故が起こる可能性も」

    福岡市の博多駅前で起きた道路陥没事故。現場では急ピッチの工事が進んでいる。事故から1週間が経った11月14日には、舗装工事ができるまでに。15日朝には道路が復旧する。

    通常なら「数ヶ月はかかる工事」(市交通局の担当者)はなぜ、ここまで早く進んでいるのか。果たして安全性に、問題はないのか。BuzzFeed Newsは、福岡市や専門家に取材をした。

    インフラ途絶、都市機能は麻痺

    都市の中心部に、轟音とともに巨大な穴が出現したのは、11月8日午前5時15分ごろ。地下鉄七隈線の延伸工事が、地表から深さ約30メートルで付近で進んでいたさなかのことだった。

    地下では横穴を採掘中に岩盤が落ち、水が吹き出した。工事関係者の判断によって出水のわずか5分前に自主的な交通規制が実施され、幸いにして、けが人はいなかった。

    ただ、都市機能を担う上下水道、電気、ガス、通信、そして道路のインフラは軒並み途絶。周囲のビルにも避難勧告が発令されるなど、九州の玄関口は、大きな混乱に見舞われることになる。

    「オール福岡」による迅速対応

    復旧工事は本来なら「数ヶ月はかかってもおかしくない」(BuzzFeed Newsの取材に応じた市交通局の担当者)という規模のものだった。

    そんな状況で、旗振り役になったのが高島宗一郎市長だ。早期復旧を目指すべく、すぐに「オール福岡」体制を敷いた。発生翌日、高島市長は自身のブログでこう、自らの強い意志を提示している。

    一時間でも早く市民の皆さんの日常を取り戻すことに加えて、この事故は全国だけでなく世界が見ているからこそ、日本の底力を見せるためにも早期復旧に力を貸して頂きたいとお願いしています。

    そんな高島市長が設けた期限は、事故から1週間。それまでに何としてでも道路を通行可能にすると、やはりブログで明らかにした。

    まずは今週中にライフライン復旧作業を終えて、月曜日には仮復旧を完了させて人も車も通行可能にすることを目標に各事業者が工程表を作ることで合意しました。

    福岡中から集められたミキサー車

    復旧工事に必要だったのは、セメントと土砂を混ぜた特殊な「流動化処理土」と呼ばれるものだ。水の中でも固まる性質を持ったもので、炭鉱の落盤や防空壕の埋め立てに使われる。

    市交通局によると、今回、工事に使われた処理土などの量は、約3千500立方メートル。のべ780台のミキサー車が必要になるほどの多さだ。

    すぐ固まるその性質上、処理土は作り置きができない。市は、すぐに福岡じゅうの業者の手配を急いだ。そうしてプラントも、ミキサー車も、そして現場も24時間フル稼働、リレー方式で復旧作業を続けてきた。

    「オール福岡」による復旧は着々と進み、事故発生から3日後には予定よりも早く、その上を重機が通れるように。

    電気、上下水道、通信、ガスの順にライフラインも順次復旧。当初のロードマップ通り、1週間後の道路仮復旧が達成されることになった。

    現場に投じられた人員は1日あたり60人、のべ約420人だった。

    こんなに早くて安全なのか

    時事通信

    事故当日(左)と11月14日の現場

    時事通信

    事故当日(左)と11月14日の現場

    時事通信

    事故当日(左)と11月14日の現場

    これほどのスピード工事で、安全性には問題ないのだろうか。高島市長は、ブログでこう強調している。

    安全第一で、絶対に2次被害を出さずに復旧することを工事関係者にお願いをしています。立ち止まる勇気も含めて。また道路が出来ても専門家などに強度を確認して頂き、ゴーサインが出ない限り通行許可はしません。

    つまり、通行許可が出れば、その安全性は確実ということだろう。11月14日に開かれた会見でも、「元の地盤より30倍の強度があり、市民の安心感につながる」と語っている

    地盤工学が専門の東北工業大・今西肇教授はBuzzFeed Newsの取材にこう指摘する。

    「流動化処理土とは、地盤の中が複雑な状況になっているところに、マヨネーズのようなものをうまく充填できるもの。つまり、隙間にも入っていける。崩落現場で使うのは一般的ではありませんが、処理土自体が3日くらい経てばかなりの強度を持って支えになる。そういう意味では安全であると言えます」

    「今回の崩落は国内最大級のものでしたが、とても早い復旧がなされたと思います。行政とゼネコンが一体となって復旧に専念されたのが良かったのではないでしょうか。また、犠牲者が出なかったことに関しても、現場の対応がよかったのは事実でしょう」

    リスク管理に甘さは?

    ただ、福岡市の地下鉄沿線に伴う陥没事故は2000年、2014年に続き今回で3回目。この一件を「日本の底力だ」と手放しに喜んでも良いのだろうか。

    00年の事故で調査委員会のメンバーも担った今西教授は、事故が繰り返されていることに対し、苦言を呈す。

    「過去2回の崩落事故 が経験の伝承ができていたのか、ということは疑問に思います。工事の設計や検討の段階で、リスクの考え方に甘さがあったのではないでしょうか」

    そのうえで、こう警鐘を鳴らした。

    「工事を再開するため、地盤や土の性質の調査を改めて、きちんとすべきでしょう。新たな設計段階で課題の抽出をしておかないと、同じ事故は、また起こる可能性があります」

    再発防止に向け、今後、どのような対策が講じられるのだろうか。