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怒りだけじゃない。沖縄出身の大学生が撮った若者たちの葛藤

「僕らは、どこにこの気持ちをぶつけたら良いんですかね」

6月23日が、何の日か知っていますか?

沖縄の人にとっては、決して忘れられない日。でも、大学に入って東京に出てきたら、友人たちは誰も、その日のことを知らなかった。

日本国内で唯一、米軍が上陸して地上戦となり、18万8136人が犠牲になった。その半数は民間人で、当時の沖縄県民の4人に1人。今も、多くの人たちにとって、亡くなった親族を悼むための、忘れがたい日だ。

悲惨な歴史を背負い、在日米軍基地の74%が集中する沖縄。美しい自然とおおらかな文化が残る沖縄。

彼は、映画を撮ることにした。等身大のその島を、知ってもらうために。

「ちゅらさん」も嘘じゃないけど

「本土の人は、慰霊の日のことも、沖縄の現状も、知らないというより知ることができない。だとしたら、自分が伝えないといけないと思ったんです」

6月23日、BuzzFeed Newsの取材にそう話したのは、慶應大3年の仲村颯悟さん(20)。沖縄市出身だ。

小学生のころから映画を撮り始め、13歳で長編映画を監督。慶應大に進学した。はじめて県外で過ごすことで知った「本土からの沖縄像」が、彼を動かした。

「慰霊の日」を知る人はいない。大学の友人には「なにそれ?」と言われた。当日の報道だって、朝から沖縄戦の特集を流し続けていた地元とはまったく違う。

沖縄料理店でバイトをしてみれば、「沖縄が大好き」と話しかけてくれる人も多い。でも聞こえてくる声のほとんどが、青い海に空、そして「なんくるないさ」と笑うおじいにおばあ……。「平和な沖縄像」ばかりだった。

「(NHK連続テレビ小説の)ちゅらさんで描かれた沖縄も嘘ではない。でも、なんで平和を愛するのか。なんで、困難なことがあっても笑顔なのか。これまでの苦労、過去があってこその今があるんです」

沖縄の光と影の、影にも目を向けてほしい。「映画を撮ってきた自分なら、映画を通じて伝えられるはず」と感じた。

基地がある島に生まれて

大学1年だった2014年。慰霊の日のあと、すぐに脚本を書き始めた。高校時代の同級生に声をかけ、SNSで仲間を増やし、資金はクラウドファンディングで集めた。

そうやって14人の大学生が力を合わせ、夏休みをまるまる使って作り上げたのが、長編映画「人魚に会える日。」だ。作品には、こんなキャッチコピーをつけた。

「青く輝く海だって、壮大に広がる基地だって、僕らにとってはいつもの沖縄」

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主人公は、沖縄に暮らす女子高生ユメ。基地問題で海がなくなることに気を病み失踪した同級生や、自然を畏怖しながら神への「生け贄」を求める移設予定地の人々をめぐり、怪奇的な事件が起きる。そんな、ファンタジー作品だ。

劇中には、基地問題を彷彿とさせる場面が幾度となく出てくる。ユメは、それに反対するのでもなく、賛成するのでもなく。ただ、悩み続ける。

仲村さんは、ユメこそが沖縄の若者の象徴だと説明する。

「若い世代は、賛成だ、反対だと主張するのではなく、葛藤しているんです。沖縄の人同士が争っているのは悲しいし、悩んでいる。考えに考えて、それでも言葉にできなくて、もやもやしている」

「普天間が危ないという意見もわかります。でも、新しい基地のために海が壊されてしまうのも、違うと思う。そもそも、基地がある方が平和なのか、ない方が平和なのかも、わからないんです」

そこまで一気に話し、一呼吸置いて、こう続けた。

「だって、基地がある沖縄に生まれて、育ってきたから」

どちらか一方を主張することができない、もどかしさ。映画を通じてそれを伝えれば、本土の人の見方も変わるんじゃないか。もっと、沖縄に寄り添ってくれるのではないかと、思っているという。

被害者は、友達の友達だった

自主制作、自主配給の映画だから、完成から公開までには1年かかった。それでも反響は大きく、沖縄だけではなく、東京、大阪、名古屋、横浜などで続々と公開が続いている。

そのさなかに発生した、米軍属の男による20歳女性の暴行・殺害事件。現場は実家から自転車で10分ほどのところ。被害者は、友達の友達だった。

「怒りより、悲しみが大きかった」

大人たちの怒りの大きさにも驚いた、ともいう。もちろん、いままで色々な事件や事故を経てきた大人たちの、その怒りもわかる。

でも、1996年に生まれた自分たちにとって、こういう経験は初めてだ。怒っている大人たちがいる一方で、「米兵さんはみんな悪い人じゃない」と言っている周りの子達もすごく多い。

生まれてから20年間、「米兵さん」と一緒に生きてきたのに。公園でバスケをしたり、ハロウィーンやクリスマスに基地で遊んだり、当たり前のように関わってきたのに。

だからこそ、「なぜ事件が起きてしまったのか」という気持ちもある。

「僕らは、どこにこの気持ちをぶつけたら良いんですかね。悲しみも、怒りも、もう終わりにしてほしい」

沖縄戦は過去じゃない

今年の慰霊の日、新しい短編映画をYoutubeに公開した。テーマは「沖縄戦」だ。

東京の女子高生が、沖縄生まれの祖母の死をきっかけに、彼女が経験した戦争を知ろうと、島に向かうストーリー。

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「おばあにとって、俺らにとって、戦争は過去じゃない」

主人公に向けて投げかけられる、この台詞に込めた思いは強い。

それだけではない。多くの人が戦火から逃れ、集団で自殺することもあったガマ(洞窟)では、沖縄戦をめぐり、こんな会話が交わされる。

「ぜんぜん、知らなかった」

「知ろうとしなかっただけじゃん?」