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「国は戦没者を冒涜している」沖縄で広がる抗議、その理由を知っていますか?

沖縄県で進む、米軍普天間基地を名護市辺野古に移設するための埋め立て工事。必要となる土砂採取の候補地に、本島南部があげられ、「戦死者の遺骨が含まれている可能性がある」と反発を呼んでいる。遺骨収集ボランティア「ガマフヤー」の男性はハンガーストライキで抗議の意思を示している。

太平洋戦争末期、激しい地上戦が起きた沖縄。なかでも激戦地となり、いまも多くの戦没者の遺骨が回収されないまま残る沖縄本島南部が、米軍基地建設の埋め立てのための土砂採取候補地にあがり、反発が広がっている。

未回収の遺骨が、土砂とともに埋め立てられる可能性があるからだ。

40年近くにわたり遺骨収集のボランティアをしてきた男性が、反対を表明するためのハンガーストライキを始め、会見では「国は戦没者を冒涜している」と訴えた。何が起きているのか。

まず、経緯を振り返る

日米で合わせて計20万人以上の命が奪われた、沖縄戦。日本側の死者の半数は民間人で、当時の沖縄県民の4人に1人、9万4千人とも言われている。

激戦地となった沖縄県南部では、地元住民や日本兵、朝鮮半島出身者やアメリカ兵などの遺骨が、いまも残されたままになっている。

県の遺骨収集情報センターによると、その数は2790柱(2020年3月末現在)にのぼる。

国による収集は遅々として進まない一方、ボランティアの尽力により、毎年多くの遺骨が見つかっている。その数は年に200柱を超えることもあり、遺族とのDNA鑑定作業などもはじまった。

一方、沖縄県ではいま、米軍普天間基地を名護市辺野古に移設するための埋め立て工事が進んでいる。県民の7割以上が反対を表明するなか工事が強行されているが、必要となるのが、大量の土砂だ。

工事の主体となる沖縄防衛局は2020年4月、工事区域で見つかった軟弱地盤に対応するため、工事に関する「設計変更書」を提出した。

そのなかで、新たに必要となった土砂の「調達可能量」のうち、県内分の7割におよぶ土砂採取の候補地として、南部の糸満市と八重瀬町が追加された。

どちらも、かつての激戦地だ。

糸満市には、ひめゆり学徒隊の最後の地の一つである伊原第三外科壕の上に建てられた「ひめゆりの塔」や平和祈念資料館がある。人々が亡くなった現場は、ここだけでない。沖縄のあちこちにある。

収集先は最終決定している段階ではないが、すでに業者によっていくつかの採掘場が作られている。これまでに遺骨が見つかっている場所の周辺だったり、新たな調査で遺骨が発見されたりしたケースもある。

つまり、「戦争で亡くなった人々の遺骨が未確認のまま、土砂と一緒に米軍基地建設のため海の埋め立てに使われるかもしれない」という懸念が生じているのだ。

「尊厳を傷つけている」

こうした現状に抗議するため、3月1日からハンガーストライキを実施している人がいる。

1983年に遺骨収集ボランティア団体「ガマフヤー」を設立し、会社員として働くかたわら、淡々と収集作業を続けてきた具志堅隆松さん(67)だ。

3月4日には、日本外国特派員協会のオンライン会見で、こう訴えた。

「私は、戦争で亡くなった人の遺骨を掘り出して、家族のもとへ返そうという活動を、これまで39年間やってきました」

「採石場になってしまった現場からはそれ以前に遺骨が見つかっていましたし、立ち入り禁止になったあと、その周りを調べてみると、人間の歯と、足のスネの一部が出てきました。すり減り具合からして、兵隊ではなく、戦闘に巻き込まれたお年寄りの住民だと思われます

「遺骨が含まれている土砂が、海に埋められようと、捨てられようとしている。戦没者がいま、冒涜されようとしている。これは、基地建設に賛成するか、反対するか以前の、人道上の問題なのです」

会見でBuzzFeed Newsが「遺骨の尊厳」についての考えを質問をすると、具志堅さんは言葉に力を込め、こう語った。

「戦争で殺された人の遺体、遺骨を、新たな戦争のための基地の埋め立てに使う。日本政府がやろうとしていることは、戦没者の尊厳をものすごく傷つけることです」

具志堅さんは、沖縄防衛局にも直接、計画を断念するよう要請している。しかし防衛局側からは具体的な返答はなかった、という。

「要請時、防衛省が計画をつくった際に遺骨のことを認識していたかを聞きましたが、返事はありませんでした。知っていてやったということであれば、人間の心を失っていますよ、ときつい言い方もしましたが、何も反論はありませんでした

国会で問われ、菅首相は…

岸信夫防衛相は3月2日の記者会見で、具志堅さんのハンガーストライキに関連した質問に対し、こう答えた。

「南部地域の採石業者については、開発前に御遺骨がないかを目視で事前調査をするとともに、御遺骨が眠る可能性がある壕のある場所は開発を行わないなど、御遺骨に配慮した上で事業が営まれていると、このように承知をしております」

「変更承認後の土砂の調達先については、まだまだ決まったものではございません。仮に沖縄本島南部の鉱山から土砂の調達が行われるとしても、現在行われている関係機関による御遺骨収集の仕組みや、採石業者の取組みを踏まえ、御遺骨の取扱い等については、契約関係で明記をし、そして、採石業者によるしっかりとした対応を求めていく」

この問題は国会でも取り上げられており、岸防衛相は同様の答弁を繰り返している。

また、菅義偉首相は2月17日の衆院予算委で、土砂の収集先については「現時点では確定していない」としながら、「仮に南部で採取する場合には、業者に戦没者の遺骨に十分配慮するよう求めて参りたい」と述べた。

こうした政府や首相の姿勢に対して、衆院沖縄1区選出の赤嶺政賢​議員(共産党)は、疑問を投げかけた。

「採石業者は重機で掘り進めるため、遺骨に気付かず採取してしまう可能性もある。業者が目視で確認する、配慮することは技術的に無理で、保障もないのでは。戦没者を冒涜する土砂採取計画を撤回するよう、強く申し上げておきたい」

沖縄県側は対応を模索している。玉城デニー県知事は2月定例議会で、「悲惨な戦争を体験した県民やご遺族の思いを傷つける。強く思いを国に伝えていかないといけない」「どのような対応が可能か、全庁的に検討したい」と語っている。

もし、子どもの遺骨なら

赤嶺議員の指摘通り、75年以上にわたり土に埋もれた遺骨を判別するのは、極めて難しい作業だ。

バラバラになっているだけではなく、遺骨は泥だらけになっており、よく調べないと石と見分けがつかないことも多い。

記者も具志堅さんとともにガマに入り、遺骨収集の現場を取材したことがある。

作業には「両刃ガマ」を使う。慎重な作業を必要とするためだが、少し掘り進めるだけで、遺品や、遺骨が多く出てくる。

同行した際も、1時間ほどの作業で日本兵のものと思われる親指の骨が見つかった。しかし、素人目には骨なのか、石なのか、判別ができなかった。

具志堅さんは感触や重さなどを確かめながら、「長年の経験が物をいう」と教えてくれた。これが子どもの骨であれば、慣れている人でも発見は難しいという。

首相や防衛相がいうような、業者による「目視による確認」や「配慮」は果たして現実的な意味があるのか。疑問がつきまとう。

遺骨収集は「死者と向き合う作業」

収集作業に同行した際、具志堅さんはガマを出る前に、遺骨に対して手を合わせ、「すみません、また来ますからね」と語りかけた。

「ただの石のように見えて、人の骨ですから。こうしてね、必ず挨拶をするんですよ。この人たちは何を望んでいるのだろう、といつも考えるんです。みんな家族のもとに帰りたいはずだ、と。こんな暗いところに、いたくはないはずだと」

遺骨収集は「死者と向き合う作業」だ、と具志堅さんは言った。

「兵士を呼び出したものの責任として、帰すのは当たり前のことですよね。本当なら国がやらんといかんこと。誰もやる人がいないなら、俺がやるよ」

そうした思いは、4日の会見でも伝わってきた。言葉には、どれも力があった。

「防衛省の前身は旧日本軍です。戦友みたいなものです。戦友の遺体を、戦友を殺したアメリカ軍の基地に使うということは、戦死者、亡くなった遺族、そして国民に対しての裏切りです。私はこんなことが通るわけがないとずっと思っています。日本政府は、自分の国の兵士に対してすら、そういう尊厳の気持ちを持たないのでしょうか

アメリカ兵や朝鮮半島出身者の遺骨が含まれている可能性もあることから、「日本だけの問題ではありません」と語る具志堅さんは、外国人特派員たちに対し、こうも自らの希望を述べた。

遺骨を救うために、国が非人道的なことをやろうとしていることを、多くの人に知ってもらいたいというのがハンガーストライキの目的です。そして、日本政府には、南部から埋め立てようの土砂をとることを諦めてもらいたい。遺骨が残っているこの南部の緑地帯は、国際的な祈りと、平和を学習する場になるべきだと、思っています」

インターネット署名サイト「Change.org」では、南部からの土砂採取に反対する署名も複数はじまり、のべ1万筆以上が集まっている。宗教者による署名はこちら、日本語を含む4カ国版の署名はこちらから。


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