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「学術会議はコロナ禍で沈黙」は本当? 自民議員の発言が拡散、本人の真意は

ネット上に拡散しているのは、元上智大学教授(国際政治学)で、学術会議の会員でもあった猪口邦子・参院議員がBSフジの「プライムニュース」(10月19日)内で発言した内容だ。

日本学術会議をめぐり、自民党議員の「コロナ禍で学術会議は沈黙していた」というテレビでの発言が拡散している。

しかし、学術会議は3月には声明を、7月には提言を出しており、会見も開いて積極的に発信をしている。「沈黙」していたわけではない。

発言をしたのは、元上智大学教授(国際政治学)で、学術会議の会員でもあった猪口邦子・参院議員(自民、千葉)。学術会議と与党両方を知る本人に、BuzzFeed Newsは真意を聞いた。

ネット上に拡散しているのは、猪口議員がBSフジの「プライムニュース」(10月19日)内で発言した内容だ。

猪口議員は、菅義偉首相が推薦を受けた6人を任命しなかった問題の背景には、学術会議がコロナ禍で役割を果たしていなかったことがあったと指摘した。

「新型コロナウイルス感染症の、本当に大きな苦労の中。特に5月の連休前後ですね。緊急事態宣言もあって、苦労しているとき、この知識の最高峰のところで、専門を生かして医学系であればワクチンがどうなのか。あるいはエンジニアとか工学であれば、ソーシャルディスタンスをとる都市設計とか空間デザインがどうあるべきか」

「あるいは人文社会であればですね、どういう風にどういうふうに人が孤独に向き合うのか。あるいは生活様式が代わっていくのか。こういうことについて分析して国民とシェアして、提言して。ところがその時期にそういう提言がなかったと。なぜ、沈黙した学術会議だったのかということが背後にある。それでは、よく見てみましょうという背景があった」

司会者から「菅首相からコロナの最中に学術会議が役割を果たしていなかったことが任命拒否の理由であるとの説明はなかったのでは」との点を問われた猪口氏は、「理由に直接ではなく背景」と答えている。

この発言はネット上で切り取られ、Twitterなどで拡散。まとめサイト「Share News Japan」は【猪口邦子氏「コロナ禍で苦しい時、知識の最高峰なら提言するはず。ところが提言が無く、学術会議は沈黙していた」】などと伝え、この記事はSNS上で4000以上シェアされている。

学術会議は本当に「沈黙」?

Twitterより

しかし、学術会議は「沈黙」していたわけではない。

3月6日には「今後の日本学術会議の対応」などに関する声明を発表。「大規模感染症予防・制圧体制検討分科会」を設置し、科学的知見を収集、行政対応や産官学の連携などに関する検討を始めるとしている。

また、4月8日には先進各国アカデミーとの枠組み「Gサイエンス」を通じて「国際協力の緊急的必要性について」とする共同声明を発表。これを受けた会長談話も発表した。

また、6月には学術フォーラム「COVID-19とオープンサイエンス」がオンライン公開の形で開かれており、専門家らの講演のほか、「新しい科学の推進の在り方」などについてディスカッションが交わされた。

さらに7月には「感染症の予防と制御を目指した常置組織の創設について」を公表し、今回の感染拡大に関して感染対策やリスクコミニケーション、生活経済への影響面などを検証し、「感染症予防・制御委員会」などを政府や都道府県に常設設置する必要性を訴えている。なお、この提言が発表された際には、日本記者クラブで会見も開かれた。

その後も、「教育のデジタル化」や「ICT基盤強化とデジタル変革の推進」などコロナ禍を受けた提言が出されているほか、関連したシンポジウムやフォーラムも開かれている。さらに、複数の委員会でも議題にあがっていることが、公開されている議事録からもわかる。

猪口氏は「沈黙に等しい」

時事通信

猪口氏は国際政治学者であり、自身も学術会議の会員だった。発言の真意は、どこにあるのだろうか。

BuzzFeed Newsの取材に応じた猪口氏は、上記の声明や提言については把握していたとして、「7月では遅い。即応性が求められていたあのときに提言が出されていないということは、沈黙に等しいんですよ」と語った。

つまり発言の主旨は、事実関係として学術会議が「何もしていない」と指摘したのではなく、当時の学術会議の活動内容を、自身はそう評価している、ということだという。その趣旨についてこう説明した。

「学術会議は知の最高峰であるのだから、緊急事態宣言下、国民が戦後初めてという事態で困っているときに、その時点で言えることでいいから、さまざまな専門家たちが、その知識を国民に伝える必要があったのではないでしょうか」

「廃止しろ、などという人はいますが、私はそう思っていませんし、番組では予算を増加してもいいと言い切っています。党内でも学術会議が無用だという人たちと戦っています。学者であり、与党政治家であるという良心で仕事をしています」

「国民が困っていることに対してもっと寄り添ったうえで、科学的な見地から発信してもらいたいということです。改善が必要なことは明らかですから、良さを生かしていけたらというのが私の考え。いまからでも遅くありません」

ネット上で拡散した猪口氏の発言を引いたまとめサイトの記事には、「一回解体して」「不必要」「税金泥棒」などというコメントとともにシェアされている。

一方で、猪口氏の発言を「デマ」などと一蹴する声もあがる。どちらも、その真意とは異なる形で拡散をしていたとも言える。

学術会議をめぐってはさまざまな誤情報やミスリードや飛び交っている。取材をして事実を確認するのではなく、「まとめサイト」がその拡散に大きく寄与していることは明らかになっている。

まとめサイトは、読者がある問題を考える基盤とするために取材し、メディアとして「事実関係」を提示するよりも、「意見」を紹介し、それに同調した人に広めてもらうことに焦点が当てられている。情報に接する場合は注意が必要だ。


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