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「政府をリアルタイムで批判すべき」緊急事態と法律、憲法学者の木村草太さんに聞く

なぜ日本ではロックダウンができないのか。「緊急事態宣言」に至る政府のプロセスの問題点は何だったのか。そして、憲法改正の「緊急事態条項」の議論を進めようとすることの危うさとは、何なのか。

新型コロナウイルス感染拡大にともなう緊急事態宣言が発令された。

日本では現行法下で「ロックダウン」ができない一方で、そうした対処を求める声も少なくはない。内閣に強い権限を与える憲法の「緊急事態条項」を求める声も、依然としてあがっている。

こうした未曾有の危機と法律の問題を、私たちはどう考えるべきなのか。憲法学者で都立大学教授の木村草太さんに話を聞いた。

時事通信

Q 緊急事態宣言が出されましたが、外出自粛や施設の使用制限は要請ベースに止まります。なぜ日本では「ロックダウン」ができないのでしょう?既存の法解釈では難しいのでしょうか。

今回、緊急事態宣言が出される根拠となっている新型インフルエンザ等対策特別措置法は、2009年の新型インフルエンザ流行を受けての措置法です。これは、当時流行していた新型インフルエンザウイルスの特性を前提に作られた法律です。

本来、新型コロナウイルスにも特措法はそのまま適用できたはずです。しかし、政府は、今回の宣言に向けて、3月に、新型コロナウイルスが適用対象であることを明示するために、特措法を改正しました。

ただ、改正内容は、適用対象であることを明確化しただけで、特措法の内容が、新型コロナウイルスの特性に適したものに変更されたわけではありません。

新型コロナウイルスは、潜伏期間が長い、感染しても無症状である割合が極めて高い、症状の格差が大きいなど、新型インフルエンザとは異なる特色を持っています。新型インフルエンザへの対応を想定した特措法の内容では、新型コロナウイルスにうまく対応できるとは限りません。

現在の新型インフルエンザ等特措法による対応は、あくまで応急措置のようなものです。早急に、新型コロナウイルスの特性を踏まえた特措法を整備しなければ、感染拡大を防止するのに必要な規制も、国民の生活を支える補償も、十分にはできないでしょう。

また、日本には感染症法(感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律)という法律もありますが、これも、基本的に従来からある(コレラや結核など)有害な感染症への対応を想定して作られています。そのため、新型コロナウイルスへの対処では、うまく機能しない面があるのは当然でしょう。

そのほか、外出規制の根拠として警察法などを検討する人もいるようですが、条文上、感染症拡大防止の目的に利用すると解釈するのは困難です。

無理に条文をねじまげて解釈すれば、市民や司法から、違法・無効と批判されます。ウイルスの特性を踏まえた特措法をきちんとつくる必要があるのではないでしょうか。

「科学的根拠と人権の保障をセットで」

AFP=時事

Q 私権を制限するロックダウンのような措置を含んだ法体系が必要なのでしょうか。

強権的な措置を準備することについて、法学者の間には、慎重な意見もあります。

ただ、私の意見としては、感染症の専門家が十分な科学的根拠に基づき、今以上に強力な外出制限が必要だと判断したときに、それができるように法律を整備する必要はあると思います。

今回のコロナウイルスに関して言うならば、武漢で都市封鎖が行われた時点で、日本でも同様の措置が必要になる可能性を考慮して、法案を準備しておくべきだったと考えています。

その時点で、より強力な規制や、外出制限中の生活保障・事業補償を備えた特措法ができていたら、現局面での対応は、よりスムーズになったのではないでしょうか。

Q 仮に特措法を作るのであれば、どのような法整備が必要だとお考えですか?

ポイントは、(私権を制限する措置の)科学的根拠と人権の保障をセットで考えることです。

ハンセン病の隔離政策に対して違憲判決が相次いでいることからも分かる通り、らい予防法(1996年廃止)に基づく日本の感染症対策措置は、科学的根拠を欠いたうえ、人権への配慮が不足し、差別的な隔離が長年に渡って行われました。こうしたことが繰り返されないよう、強力な措置をとる場合には、人権を尊重するのはもちろん、十分な科学的根拠を十分に検討する必要があります。

また、外出制限に伴う生活補償の方法への配慮も必要です。こうした事態では、弱い立場にある人ほど、大きな打撃を受けてしまいます。

子どもの教育機会の担保、DVや虐待に対する充実した対応、ホームレスの方々が安心して住める場所など、弱い立場の人たちへの配慮ができているかにも、注目する必要があるのではないでしょうか。

緊急事態条項議論は「火事場泥棒」

AFP=時事

Q これまでの政府の対応には、安倍首相による一斉休校要請など、法律に基づかないものもありました。

2月に安倍首相が休校要請をしましたが、きちんとした法的根拠がないことが批判されました。特措法では、休校の要請は、政府対策本部の緊急事態宣言を受けて、都道府県知事が行うことになっています。休校措置をとるか否かは、あくまでも各知事の判断すべきことです。

特措法上は、そもそも緊急事態宣言がでないと、知事は要請が出せないという立て付けになっているので、法的根拠がない宣言や要請が積み重なってしまったのだと思います。

例えば、北海道では知事が独自に緊急事態宣言を出し、外出の自粛を要請しました。その後、東京都などでも、都知事が自ら自粛要請を出しています。これらの要請の法的根拠は判然としません。

そうすると、特措法条の緊急事態宣言を、政府がもっと早く出すべきだったと言えるでしょう。

Q 安倍首相は47日、衆院議会運営委員会で緊急事態宣言について報告した際、憲法改正による緊急事態条項の導入について国会の議論を改めて促しました。一方、改憲に反対しつつ新型コロナでは強い対応を求めることを批判する声もあります。

緊急事態という言葉で連想ゲームをするのは正しくない。新型インフルエンザ等特措法の「緊急事態宣言」に乗じて、憲法上の「緊急事態条項」の議論を進めようとするのは火事場泥棒です。両者は、全く別物です。

2012年の自民党改憲草案で示された緊急事態条項は、政府が緊急事態宣言を出すと、国会をすっ飛ばして立法権をも行使できる「内閣独裁条項」です。諸外国と比べても、歴史的に見ても、あまりにも強権的すぎる内容になっています。

一方で、新型コロナウイルスへの対応として、早期の緊急事態宣言やロックアウトの必要性を求める人も多かったですが、これは憲法上の「内閣独裁条項」ではありません。新型コロナウイルスの感染拡大を防止するために、罰則付きの外出制限など、強制措置を含むような立法や対策を求めていたわけです。

仮に、現在の特措法に比べ、より強い活動制限をかけるとしても、感染拡大を防止するためには、それだけの規制が必要であるとの十分な科学的根拠があれば、それを違憲と批判する人は少ないはずです。

特措法の「緊急事態宣言」と、憲法上の「緊急事態条項」とは、まったく違う事柄ですから、憲法改正案に反対しつつ、(コロナ対策では)より強い措置を求めるということは何ら矛盾しません。

「一斉休校」の問題点

AFP=時事

Q とはいえ、内閣に強い権限を与えれば、より感染症時の対策などもスムーズになるのではないでしょうか?

今回の新型コロナウイルスに関する1〜3月までの経緯は、感染症対策に内閣独裁権を与えることが不適切であるということを実証してきたというプロセスだったと考えています。

スピーディーな決定ができる権限が与えられていても、専門家と政府の密接かつ適切なコミュニケーションや手続きがなければ、それは独裁判断に過ぎず、市民を混乱させるだけで、適切な効果を生みません。

現在、自民党と公明党の与党で国会の過半数を持っているわけですから、新型コロナウイルス対策の法律を立法することは、十分にできたはず。しかし、実際にはそれをしなかった。緊急事態宣言も出さなかった。

今回の対応のスピードが遅かったとしたら、憲法や法律のせいではなく、政府・与党が、危機のレベルを低く見積もっていたことが原因です。思い出してほしいのですが、政府・与党は、3月半ばまで、「東京五輪を予定通りできる」という程度の危機認識だったわけです。

Q 一斉休校はどうでしょうか?

2月末の一斉休校要請は先述の通り、根拠となる条文が存在しませんでした。あの要請自体は、内閣独裁権の発動のようなものとしてみられるでしょう。

しかも、あの要請は、専門家への諮問なしに行われました。当然のことながら正しい結果を生まなかった。

あの要請は、過剰・過少の両方の問題があったと思います。感染が広がっておらず、必ずしも休校措置が必要ない地域もあった、という点では過剰でした。一方で、大規模イベントを除けば、学校以外の施設や企業には要請は出されず、その面では過小だったと言えるでしょう。

さらに、法的にも、科学的にも根拠なく要請をしたために、途中で解除せざるをえなくなりました。事態が終息せず、むしろ感染が拡大する中で、要請が解除されたことで、人々の間に解禁ムードを生んでしまった。

必要なのは「丁寧な手続き」

AFP=時事

Q やはり科学的根拠が大切なのですね

独裁権さえ与えれば、おのずとなんとかなる、適切なスピードになるというものではありません。

今回の例からもわかるように、感染症のような緊急事態においては、正しい科学的根拠と、適切な法的根拠に依拠して判断を行うことが、何よりも重要です。

そもそも、内閣は感染症の専門家ではありません。また、休校要請をするのであれば、医学的な専門家だけでなく、学校教育の専門家への相談も必要でしょう。適切に相談していれば、子どもの教育を受ける権利を守るための対策を、もっと講じられたかもしれません。

あるいは、外出制限をするなら、たとえばDVや虐待、ホームレス支援の専門家の話を聞きながら、人々の権利が守られる形での制限プログラムを組み立てないといけない。

2月の休校要請も、首相が緊急事態宣言を出して、各都道府県知事に休校要請の権限を与えた上で、専門家から、「どのような地域で休校要請が必要なのか」の基準を説明してもらう手続を踏んでいれば、景色は違っていたでしょう。

いま求められているのは、専門家や当事者の声をすっ飛ばして独裁することではありません。むしろ、適切に専門家や当事者の声を汲み取った、丁寧な手続き、プロセスの枠組みが必要になるのです。

Q こうした緊急事態において、政府の対応について「批判をするな」というような声も聞かれます。

政府が常に批判的検証の対象となるのは当たり前です。リアルタイムでどんどん批判をしていく必要があると思っています。政府の活動に不適切だったり、サボったりしていることがあれば、国民はしっかりと表現の自由を行使して、批判すべき点は批判すべきでしょう。

そうした批判に適切に耳を傾けることで、政府は説明責任を果たし、より良い政策判断をしたり、情報公開によって国民の信頼を得ることができます。批判を抑圧すれば、政府が誤った判断をする可能性が高まり、国民の不信感が高まるだけでしょう。

今回でいえば、法的根拠や専門家への相談、教育現場へのサポートなしに行われた一斉休校要請や、専門家に聞けばより有効な予算の使い方が出てくると想定されるマスク2枚配布などは、批判されるべきだと考えています。

今後も、そうした思いつき、独裁的な判断がされないよう、どういう判断とプロセスがなされているか、しっかりと検証していくべきではないでしょうか。


木村草太 東京都立大学教授(憲法学専攻)。著書に『平等なき平等条項論』『憲法の急所』『キヨミズ准教授の法学入門』『憲法の創造力』『憲法学再入門』『未完の憲法』『テレビが伝えない憲法の話』『憲法の条件』『集団的自衛権はなぜ違憲なのか』『憲法という希望』『子どもの人権をまもるために』『社会をつくる「物語」の力』『ほとんど憲法』など。


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