「緊急事態宣言でも五輪は開催?」「感染拡大のリスクは?」菅首相が会見で“答えなかった”質問とは

    東京オリンピック・パラリンピックをめぐっては、主要メディアの世論調査では回答者の過半数が中止や延期を求めるなど、反対する声や、不安視する声が広がっている。

    政府は5月28日、9都道府県(北海道、東京、愛知、大阪、京都、兵庫、岡山、広島、福岡)に出している緊急事態宣言を6月20日まで延長すると決めた。

    会見を開いた菅義偉首相は、「緊急事態宣言下でも五輪が開催できるか」問われたが、明確な答えを示すことはなかった。

    開催をめぐる基準や、懸念されている国内の人の動きの増加についても、同様にはっきりと答えなかった。

    東京オリンピック・パラリンピックをめぐっては、主要メディアの世論調査では回答者の過半数が中止や延期を求めるなど、反対や不安視する声が広がっている。

    ネット署名でも数十万人が賛同したほか、感染症や経済の専門家からも慎重な意見があがっている。地方紙が相次いで社説で「中止」に関する論陣を張ったのに続き、五輪スポンサーの朝日新聞も大型社説を展開した。

    感染拡大への懸念から聖火リレーや選手団の受け入れを断念する自治体も出ている一方、国際オリンピック委員会(IOC)と日本政府は、今夏の開催に向けた歩みを続けている。

    実際、IOCのコーツ調整委員長は5月21日、仮に緊急事態宣言下であったとしても、五輪は開催できると発言した。28日の会見で、東京新聞の記者はこの発言に関連し、菅首相に以下のように問いただした。

    「開催国の総理大臣として緊急事態宣言下でも五輪を開催できるとお考えでしょうか? 国民の命を守ることに責任を持っているのはIOCではなく、日本政府ですので、国民が納得できるよう、感染状況がどうなれば開催し、どうなれば開催しないか、具体的な基準を明示すべきではないでしょうか」

    「なお、記者会見での総理のご回答が正面からお答えいただけなかったり、曖昧なものが多く、見ている国民の方が不満を抱いていたりしています。ぜひ明確にお答えいただけるよう、お願い申し上げます」

    結論から言えば、菅首相はこの質問に対して、明言することはなかった。ほとんど冒頭発言でも述べていたことを繰り返しただけで、「明確にお答えいただけなかった」ということになる。全文(要旨)を掲載する。

    繰り返された言葉

    「国民の生命と健康を守るのは、これは当然、政府の責務です。オリンピックについて様々な声があることは承知してます。それらに声に耳を傾けながら、指摘をしっかり受け止めて、取り組んでいるところです。まず当面は、緊急事態宣言を解除できるようにしたいと思います」

    「そうしたなかで選手や大会関係者の感染対策をしっかり講じて、安心して参加できるようにするとともに、国民の命と健康を守っていく、これがまずは前提です。具体的な対策を3点申し上げます」

    「第一に、入国する大会関係者の絞り込みです。当初は18万人が来日する予定でしたけども、オリンピックが5万9000人、パラリンピックが1万9000円にまで絞っております。さらに削減を要請をいたします」

    「次に、ワクチンの接種です。入国する選手や大会関係者の多くにはワクチン接種が行われます。ワクチンが広く行き渡るように日本政府の調整の結果として、ファイザーからIOCを通じて、日本人をはじめ各国選手団にはワクチンが無償で提供されることになっています」

    「そして、日本国民との接触、これの防止です。海外の報道陣を含めて、大会関係者は、組織委員会が管理するホテルに宿泊先を集約をし、事前に登録された外出先に限定をし、移動手段は、専用のバスやハイヤーに限定をします」

    「また入国前2回、入国時に加え、入国後3日目までは、全員毎日検査をし、その後も定期的に検査をいたします。こうした関係者と一般国民が交わることがないように、完全に動きを分けます。外出をして観光したりすることはない。大会期間中、悪質な違反者については、国外退去を求めたいと思っています」

    「この3つの対策について、組織委員会、東京都、政府、水際対策をはじめ、国民の安全を守る立場から、しっかり協力して進めていきたいというふうに考えております」

    科学的なエビデンスは?感染拡大のリスクは?

    ここまで述べ、記者から「緊急事態宣言下での開催は」との声が再び上がったが、菅首相はこう答えるのみだった。

    「テスト大会も4回開催しています。いま申し上げましたように、こうしたことに配慮しながら、準備を進めております」

    続いたTBSの記者は、「G7のサミットで五輪開催について、科学的なエビデンスに基づいた説明をどうするのか」と問いただした。これについても、「科学的なエビデンス」は提示されなかった。

    「具体的な感染対策についてはいま私が申し上げた通り、ここを徹底していきたいと思います。こうした対策を徹底をすること、そして外国人の観客は受け入れない。こうしたことも諸外国に対して説明をして理解を得たい、このように思ってます」

    「こうした対策の策定に当たっては専門家の立場も交えて議論を重ねてきております。昨年9月から東京都、組織委員会、各省庁の調整会議を開催しており、感染症の専門家が2名にアドバイザーとして、毎回ご出席をいただいて意見を伺っており、引き続き透明性を持って丁寧に進めていきたい、このように思います」

    一方、五輪をきっかけに国内の人流が加速化するという懸念に対する質問も、テレビ東京の記者からあがった。実際、開催に伴って経済活動が活発化することで国内の人流の動きが増えれば、感染が再拡大するとの試算も出ている。

    「感染拡大のリスクを政府としてはどういうふうに分析しているか。国内の人流に対する防止策はどういうふうにお考えでしょうか」

    やはりこれに対しても、菅首相は「リスク」や「防止策」について明言することはなかった。「対応はできると思っている」などと答えるのみだった。

    「緊急事態宣言下ではありますけども、野球やあるいはサッカーが、一定の水準の中で、感染拡大防止をしっかり措置した上で行っていることも、これは事実だというふうに思ってます」

    「政府として、こうした点も十分にそれぞれで学習しますので、そうしたなかで対応することはできるというふうに思います。ですから、入場を何人にするとか……。そういうことは、いま5000人規模ですか。制限下でやってます。そうしたいろんなことを参考にしながら、これは考えられるというふうに思っています。対応はできると思っています」