蓮舫代表の「二重国籍」問題。「自分からネットに話題提供」との識者指摘も

    「謄本そのもの公表」は否定したが、そもそものポイントはどこにあるのか。

    民進党の蓮舫代表は7月13日の記者会見で、いわゆる自身の「二重国籍」問題について、18日にも国籍に関する資料を公表するという考えを示した。

    当初は「戸籍を公表する」と報じられていたが、「謄本そのもの」ではなく「台湾籍を有していないことがわかる部分を伝える」という。蓮舫代表の発言はこうだ。

    「一私人、公人ではなく、野党第1党の党首として、安倍総理に強く説明責任を求めている立場から、極めてレアなケースだが、戸籍そのものではなく、私自身がすでに台湾籍を有していないとわかる部分をお伝えする」

    会見では、芝博一幹事長代理が「謄本だけの開示だけではなしに、申請の書類やパスポートを踏まえ、あらゆる限りの書類関係を用意させていただいている」と述べているが、資料については「整理中」と、いまだ調整が済んでいない。

    戸籍公開を求める声が上がったことに加え、民進党側の一連の対応には、批判の声も上がっている。いったい、「出自を明かす」ことがはらんでいる問題とは何なのだろうか。

    専門家が指摘する3つの問題点

    「これは、蓮舫さんひとりの問題ではありません。出自の問題というのは、極めてプライベートなものです。歴史的にも、部落などへの差別に利用されてきた経緯がある。出自に関する偏見や差別を助長することにつながる恐れがあります」

    そうBuzzFeed Newsの取材に語るのは、ナショナリズムや多文化主義にくわしい関東学院大非常勤講師の明戸隆浩さん(社会学)だ。

    明戸さんは3つの問題点をあげた。いったい、それぞれどういうことなのか。

    1.ネット戦略として的外れ

    「こういうときに資料を出せと言う側は、実際には何を出しても納得しない場合がほとんどです。残念ながら、資料の公開に効果はない」

    「今回の問題について、蓮舫代表から今何かすべきことがあるとは思えない。今になって自分たちから話を持ち出すことに意味はありませんし、あるのは悪影響だけです」

    明戸さんは資料を公表することが「自分からネットに話題を提供するような話」とも指摘した。

    「ネット上ではいわゆる『在日認定』と言われる悪質な行為があります。政治家も含めて、ある程度目立っている人たちの中で、自分が気に入らない主張をしている人に対し、『日本人ではない』『在日である』と、レッテルを貼るのです」

    「これはこの10年以上、2ちゃんねる以降のネット文化の一つとなっています。そういうレッテルにどう対峙するのかは、ネット戦略としてすごく重要。ネット上の反応がどう動くかをわかっていれば、今回のような対応をすることはなかったはずです」

    2.政治的な対応としてズレている

    さらに、明戸さんが「的外れ」と指摘するのが政治的な対応としての問題点だ。

    「最初の時点での説明が悪かったり、不備があったりしたことは事実でしょう。しかし、二重国籍の問題が都議選の選挙結果に影響したとは思えない」

    そもそもこの問題は、蓮舫氏が民進党の代表に就いた頃から注目を集めるようになった。2016年9月には、台湾側に国籍が残っていたことが明らかになり、その二転三転した説明は批判を浴びた。

    しばらく問題のハレーションは続いたが、それも多くは2016年中までだった。それが急遽、民進党の「都議選大敗」でぶり返されたのだ。

    産経新聞によると、都議選を総括するための国会議員会議では、柚木道義衆院議員がこう発言したという。

    「小池百合子都知事が率いた『都民ファーストの会』の国政進出とどう向き合うかを考えなければならない。蓮舫氏の『二重国籍』問題は党最大の障害だ」

    明戸さんはこう語る。

    「都議選対応の「目玉」としてこれを持ってきてしまった。提起した議員の問題はもちろんですが、それを採用してしまった蓮舫代表や執行部の問題でもある」

    「明らかに政治的な効果はないし、これで蓮舫代表や民進党に対する支持が上がるわけでもない。他にやるべきことがあっただろうし、またここに何か原因があったように見せてしまうことも、政治的な対応として、非常にまずい」

    3.社会的な悪影響が大きい

    なぜ「非常にまずい」と言えるのか。明戸さんが特に大きな問題点だと指摘するのは社会への「悪影響」だ。

    「まず、もし実際に戸籍を公表するということになれば、それはきわめて問題です。単なる住民登録はどこの国にもあることですが、戸籍は日本独自の制度。血統、つまり親子関係を管理しているところがポイントになる」

    「公人として影響力のある人たちがそういった資料を公表することは、悪しき前例になる可能性が大きいのです。政治家だけではなく、一般の人たちに日本人かどうかという疑いがかかった場合、出自を探ることが正当化されてしまうことになる」

    明戸さんと同様、この「戸籍公表」に関しては大きな批判があがっていた。民進党内からも異論が噴出していた。

    たとえば有田芳生・参議院議員は、「政党の代表が戸籍というもっともプライバシーに属することの公開を強いられて、それが一般人へのさらなる攻撃材料になる」と懸念をツイートした。

    批判を受けてか、蓮舫代表自身は7月13日の会見で、「謄本そのものを公開するとは言っていない」。こうも述べている。

    「戸籍はすぐれて個人のプライバシーに属するものであり、差別主義者や排外主義者の人たちから言われて、それを積極的に公開するようなことは絶対にあってはならない。その前例にしてはいけないと思っています」

    影響を受ける「不安を抱えた人たち」

    今回のような形で戸籍の公開が問題になること自体、「出自によって差別されてきた人たち」にとって、悪い影響を及ぼす可能性がある、と明戸さんは説明する。

    「蓮舫さんを批判している側の人たちは、こうしたパターンを習得するのがうまい。ネットなどでは今後ますます同じような攻撃が行われることになるでしょう。やられた側が資料の公開を拒めば、『やましいことがあるのでは』とさらに因縁をつけられる」

    出自によって差別を受けてきた部落の人たちや、帰化した外国籍の人たちなどはそもそも、「自分の生まれを詮索されること」に大きな不安を抱えている。

    明戸さんは、そういう人たちが「直接的に影響を受けてしまう」と懸念する。

    「採用や就学で同じような対応を求められることも増えるだろうし、ネット上で『お前日本人か』『証明しろよ』という書き込みが横行すれば、ネットをやめざるをえない人も出てくるでしょう」

    蓮舫代表が受けている「差別」とは

    対応に対する批判だけではない。明戸さんはそもそも「二重国籍問題」が巻き起こった根本的な部分に、「差別」があったと指摘する。

    「蓮舫代表は、政治家としての資質や判断、実績とは関係ないところで因縁をつけられている。多くの政治家ならされないような追及を、その出自ゆえにされているんです」

    「出自に対する攻撃は、自分の力ではコントロールできないものへの攻撃です。蓮舫代表が受けていることは、こうした点でまさに『差別』なのです」