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「彼らはずっと笑いながら…」地上波で“名誉毀損”された在日女性。高裁でも賠償命令、DHCテレビ側は「プチ勝訴」?

「ニュース女子」はバラエティー色のある情報番組で、「DHCテレビジョン」が制作、TOKYO MXなど複数の地方局で放送していた。問題となったのは2017年、沖縄基地問題を特集した番組。「反対運動の参加者に、のりこえねっとが日当を支払っている」「反対派が救急車を止めた」など、事実に基づかない内容が複数あり、批判が集まっていた。

化粧品大手DHCの子会社「DHCテレビジョン」の制作した番組「ニュース女子」の内容に名誉を毀損されたとして、市民団体「のりこえねっと」の辛淑玉・共同代表が同社と番組の司会者を訴えていた裁判。

東京高裁(渡部勇次裁判長)は6月3日、番組による名誉毀損を認め、損害賠償など550万円の支払いと謝罪広告の掲載を命じる一審判決を支持し、DHC側の控訴を棄却した。

一方、司会者への賠償を求めた辛さん側の控訴と、司会者側が辛さんの提訴で名誉を毀損されたと訴えた裁判の控訴はいずれも棄却した。DHC側は「プチ勝訴」などとしながら判決内容を不服とし、上告を検討する方針としている。

「ニュース女子」はバラエティー色のある情報番組。「DHCテレビジョン」が制作し、TOKYO MXなど複数の地方局で放送していた。

問題となったのは2017年、沖縄基地問題を特集した番組。高江の米軍ヘリパッドの反対運動について報じた。

番組には事実に基づかない内容も複数あった。たとえば反対運動の参加者に「のりこえねっと」が日当を支払っているという主張や、「反対派が救急車を止めた」とした内容などだ。

さらに反対派の人たちを「テロリスト」「犯罪者」と表現したほか、「黒幕」として「のりこえねっと」共同代表で在日3世の辛さんを名指し。「在日韓国・朝鮮人の差別に関して戦ってきた中ではカリスマ。お金がガンガンガンガン集まってくる」などという発言もあった。

番組をめぐっては、BPO(番組倫理向上機構)の2つの委員会が「重大な放送倫理違反」「名誉毀損」などと結論づけ、取材の欠如や事実確認の不足、人権や民族を取り扱う際に必要な配慮を欠いたことなどを指摘している。

その後、辛さんはDHCテレビと、番組の司会者だった元東京・中日新聞論説副主幹のジャーナリスト長谷川幸洋氏に名誉を毀損されたとして、東京地裁に提訴していた。

高裁判決が触れたこと

この日の高裁判決では、番組が辛さんやヘリパッド反対運動について、以下のように辛さんが「反対運動の黒幕」であるかのように描いているとした。

「暴力や犯罪行為を含む過激な反対運動に関し、『のりこえねっと』を通じて豊富な資金力を背景にして地元の沖縄以外から参加者を組織的に雇って動員し、これを扇動している」

こうした一連の描き方について、判決は「全証拠を見ても、重要な部分の真実性が証明されるとは認め難い」「真実であることを認めることはできない」と、一審判決と同様の認定をした。

辛さんが過去に呼びかけた座り込みの抵抗運動に触れ、「番組の摘示する暴力や犯罪行為とは異質のもの」とし、『のりこえねっと』が高江に派遣した「特派員」に対し、交通費5万円を支払っていたことも「現状を発信してもらうことが主たる目的」であることから、扇動や動員とは認められないとした。

また、番組で辛さんが在日コリアンであることにたびたび触れている点についても、「在日朝鮮人である原告の出自に着目した誹謗中傷を招きかねない構成になっている」とも言及した。

そのうえで、判決では一審判決に続き、辛さんに対する慰謝料500万円と、謝罪文の掲載をDHC側に命じた。ネット上で現在も閲覧できる番組そのものの削除は求めなかった。

一方で、司会者である長谷川氏への請求については、同氏が番組内容に関与していないことなどから、一審と同様に退けた。同氏が辛さん側を名誉毀損で訴えていた反訴も退けた。

「差別」をめぐる評価と課題

裁判で辛さん側は、意見書などを通じて番組が人種差別であると主張していた。

判決文ではこの主張について、概要で「番組は在日韓国人に対する人種差別的な憎悪と敵意を扇動するものであり、一審原告は差別的な表現による非難や罵声を浴びている」と整理したうえで、判断でも「出自」に触れた。

弁護団の金竜介弁護士は、高裁判決が番組の「差別」的な内容について言及していることを評価した。

「あえて辛さんが朝鮮人であることを出し、黒幕だと言ったことは、その行為の評価ではなく属性に着目した誹謗中傷、すなわち人種差別です」

「そのように差別の扇動について意見書で訴えた私たちの主張を、裁判所側は分かってくれた。前進であると大いに評価しています。もっと言えば、(判断でも)『人種差別』という言葉を使って踏み込んでほしかったと思っています」

一方、辛さんは「判決で(差別に関する)1行が書かれたことは大きなこと」と評価。こう述べた。

「沖縄の平和運動を叩くために、在日である私の出自を使い、インターネットの中で垂れ流されている裏付けのないものを全てまとめ、地上波で流すことでお墨付きを与えたのが、この番組でした」

「民族名と生きることがこんなふうに使われるというのは、大変厳しいです。日本は、私の国です。私は曽祖父の時代から、日本社会の構成員として組み込まれ、暮らし、そして差別されながらも、この社会でずっと生きてきました。後輩にも同じような思いをしてはほしくありません」

さらに辛さんは、番組が「在日差別であり、沖縄差別でもあった」と指摘。包括的な差別禁止法の制定が日本にも必要であるとの見解を示した。

「判決では、私に対する差別が認められた一方で、沖縄に対する差別は認められませんでした。レイシズムを日本の法律では裁くことができません。差別とは何かということすら認識されていない社会で、しかも法律がなければ、戦いようがないんです。社会も法律も、どちらもいま、欠けているように思います」

DHC側は「プチ勝訴」

DHCテレビジョンの山田晃社長は判決後、裁判所前で「ロケ」を行った。ケント・ギルバート氏の質問に答える形で「不当判決」「プチ勝訴」などという紙を掲げた。

山田社長は判決について、損害賠償と謝罪文を命じられたことについては不服とし、「会社としては上告に向けて準備を進めていく」とコメントした。

一方で、「番組を削除しなくてもいいということですので、制作者としてはプチ勝訴と考えています」と話した。

DHCテレビの「ロケ」であることから、カメラが複数台まわるなかでの回答となり、山田社長らが「それはあなたの感想ですよね?」などと、周りを囲んだ記者や質問者らとやり合ったりする場面もあった。

このように、DHC側が裁判や判決などについても「バラエティ」の一部として伝えている点について、原告の辛さん側の会見で、報道陣から質問があがった。辛さんは、こう語った。

「笑いながら番組にされること自体が、ハラスメント、セカンドレイプですよね。差別は楽しいものなんです。こちらの怒りがどうであろうが、その人が死ぬほど苦しい状況であろうが、真面目に生きることを揶揄することで自分たちを免罪することができる。お金のかからない快楽なんです。彼らはずっと笑いながらひどいことをし続けると思います」