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変わる電通、変わらない社会 22時消灯の実態を社員が証言「もう逃げられない」

22時消灯と残業時間引き下げで、何が変わるのか。

国内最大の広告代理店・電通の新入社員だった女性が、過労で自殺した問題。

同社は先月末から、長時間労働対策として、残業時間の上限を削減したり、22時に全館を消灯したりするなどのルールを策定。11月7日には、全社員に向け、石井直社長が自らのメッセージを伝える予定だ。

ただ、業務全体の改善をしないまま、残業時間の引き下げや規制をすることに対し、実効性を疑問視する声もある。

BuzzFeed Newsは、専門家や社員に話を聞いた。

Dick Thomas Johnson / flickr / all creative commons / Via flic.kr

新入社員だった高橋まつりさん(当時24)が、昨年12月に過労自殺していたことが発覚した電通。3年前にも男性社員(当時30)が過労死と認定されていた。

同社ではこれらの出来事を受け、

  • 22時以降の残業を原則禁止
  • 22時~翌5時まで全館消灯(電気は個別につけられない)
  • 残業の上限を法定外月間50時間(所定外月間70時間)から5時間引き下げる

などの新たなルールを掲げている。さらに11月1日には、過重労働問題の再発防止を目的とした「電通労働環境改革本部」が発足した。

社会全体が変わらないと

いったい、現場の社員は、何を感じているのか。

「これで残業が減るとは思えません。サービス残業が増えたら、また自殺者が出てしまうのではないでしょうか」

そうBuzzFeed Newsの取材に語るのは、ある20代の男性社員だ。今回の対策では、根本的に改善されることはない、と感じているという。

「私たちはクライアントワークをしているわけですから、クライアント、ひいては社会全体が変わらないといけないと思います。私たちだけが変われば良い、という問題ではありません。下請けであるプロダクションの人たちはもっと辛い立場にいるでしょうし……」

一方、ある若手女性社員の場合はこうだ。

「クライアントとの関係も変わっていくと思います。うちの会社は22時以降は本当に仕事ができないんです、と言えるようになりました。そういう意味で、部署によってはポジティブな影響があるかもしれない」

女性によると、今回の22時消灯ルールでは、メールの使用や海外とのやりとりも基本的に禁止されたという。

「5時に電気が点いているという話もありましたが、ほとんどが掃除の業者じゃないでしょうか」

「ただ、確かに朝早くにメールを送ってくるようになった人がいるのも事実です。仕事が終わらないから早朝勤務シフトをし始めた人もいるようです。これだけ色々な職種がいる会社で、同じ働き方にするのには限界がありますから」

会社はもう逃げられない

Chris Mcgrath / Getty Images

イメージ写真

女性は、業務量や給料の問題など、残業時間を制限しただけで、いままでの現状が変わるわけではないとも感じているという。でも、「何かしらやらないとまた3年後に同じことが起こっていたはず」とも言う。

「これまでは上から散々言われても、抜け道を使って残業すればいいよね、という感じになっていた人がいました。ただ、ここまでの社会的な圧力がかかると、変わらざるを得ないはずです」

「下請けにしわ寄せが行かないようにするとも、口では言っています。制作会社等での打ち合わせも、今は厳しく禁じられています。クライアントやメディアに迷惑がかかれば、それは経営層が責任とります、とまでも。会社側も、もう逃げられないのではないでしょうか」

お題目だけじゃ評価できない

時事通信

高橋まつりさんの遺影とともに記者会見する母幸美さん

専門家は、どう見るのか。

ブラック企業被害対策弁護団代表の佐々木亮弁護士は、BuzzFeed Newsのメール取材に「これだけでは変わらない」と批判的に語る。

「引き下げた事実はまったく意味がないとは言えません。でも、お題目だけを唱えても、現実が変わらなければ同じことが繰り返されます。あくまでも再発防止策の一部とみるべきで、こうした対応だけを過大に評価することはできません」

「長時間労働は業務量を調整しない限り、どこかにしわ寄せがいきます。時間だけを減らせばいいというわけではなく、業務量や従事者数などを見直さないと、現場の混乱を招くだけで、かえって労働者の負荷が増えかねません」

では、ほかに具体的な対策はあるのだろうか。

「1つで全て解決という単純な話ではないと思っています。それゆえ、やるべきことは多い。まず、法制度としては、労働時間の上限規制とインターバル規制が必要でしょう」

インターバル制とは、終業時から翌日の始業時間までに一定の間隔を定める制度だ。すでに導入をしている企業もあり、民進党や共産党などの野党4党が今年4月に提出した「長時間労働規制法案」にも含まれている。

さらに佐々木弁護士は、過労死を出した企業の企業名の公表や、使用者と労働者、双方の意識改革などが必要とも指摘。こうも語った。

「電通という日本で有数の有名企業で、1度ならず2度(実際は3度目だったようですが)までも、過労自死が起きたということは、日本社会における『働き方』というものを、各労働者に問いかけるものだと思います。いっそう長時間労働撲滅へ意識が高まるのではないでしょうか」

電通側の認識は

Issei Kato / Reuters

BuzzFeed Newsが電通に取材を申し込んだところ、FAXで回答が来た。

「残業時間の限度引き下げや22時消灯だけでは効果がないとの声もあるが、課題があると考えているか」という趣旨の質問に対しての回答は、こうだ。

現在、当社では深夜残業を原則禁止しており、必要な場合は、朝型勤務へのシフトを促しています。

自殺した高橋さんの時間外労働が105時間だったなど、そもそも従来の残業時間の上限が守られていなかった現状がある。

そんな中で現状の対策の意義ついて問うた質問には、「遺族との間で協議を継続中」であることを理由に、回答がなかった。

全社員に社長がメッセージ

石井社長が11月7日に話す予定のメッセージは「我々の働き方の進化に向けて」という題目。対象は、嘱託や契約社員もを含めた全社員だ。

東京本社ではホールに入りきらない人たちのため、サテライト会場まで用意。中部や関西でも会場が設置され、ストリーミング配信もされるという。

社員に送られたメールには、こんなことが書かれている。

厳しい環境に直面する中で、いま私たちが『変えるべきこと』は何か、そして『変えずに保ち続けるべきこと』は何か、といった観点を中心に、社員の皆さんに対する石井社長のメッセージを伝えます。

いったい、何が語られるのだろうか。



Contact Kota Hatachi at kota.hatachi@buzzfeed.com.

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