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なぜ「写ルンです」はエモいのか? 女子大生に広がるブーム、専門家が語る「魔法」とは

インスタにアップされる写真たち。流行は、衰える気配がない。

女子大生たちを中心に、使い捨てフィルムカメラ「写ルンです」の流行が続いている。

売り上げは3年前の5倍になり、Instagramのハッシュタグ「#写ルンです」には28万5千枚以上の写真がアップされている。さらには有名ブランドやアーティストがコラボをしたり、芸能人たちが写真展を開いたり。

2年ほど前に始まったブームは、衰える気配を見せていない。いったい、なぜ女子たちは「写ルンです」の「魔法」にかかるのか。このブームは、写真表現の新たな時代を切り開くことになるのだろうか。

「いまの10〜20代の女子たちは、90年代の『女の子写真ブーム』を知りもしない。当時のブームとは違う、何かがあるんです」

そうBuzzFeed Newsの取材に語るのは、写真評論家の飯沢耕太郎さんだ。

人気写真家・蜷川実花さんらを輩出した「ひとつぼ展」の審査員を務めていた飯沢さんは、1990年代後半に一世を風靡した「女の子写真」ブームの火付け役だ。「『女の子写真』の時代」という著書もある。

そもそも「女の子写真」ブームは、蜷川実花さんやHIROMIX、長島有里枝さんら、当時10〜20代前半の女性写真家たちが活躍し始めたことにより広がった。

「ガーリーフォト」とも呼ばれ、手軽に持ち運べるコンパクトカメラなどの発達により、撮影者から「半径5メートル」にある、身近で日常的なものが被写体になった現象だ。

いま「写ルンです」を使う彼女たちも、やはり身近な被写体を撮影している。だからと言って、二つのブームに共通項があるわけではない、と飯沢さんは見る。

「二つのブームの境目にあったのが、デジタル化です。デジタルが生活に定着した2005〜10年以降に写真を撮り始めたいま10〜20代の彼女たちは、自分たちのメディアとして当然のようにデジタルを使いこなしている」

「にもかかわらず、なぜ『写ルンです』なのか。自由に、簡単にできないものを求めているのでしょう。すぐ送れたり、つながれたりすることに対する居心地の悪さを感じているのかもしれない」

飯沢さんはこれを、「デジカメの便利さに対する、ある種の反動」だと見る。

「撮ってすぐ見られないうえに、出来上がってくる画像にはノイズが入っている。撮ってみなきゃわからない、偶然性みたいなものに面白さを感じたのでは」

たしかに、フィルムの写真にはノイズが入る。ブレもある。BuzzFeed Newsの取材に応じた「写ルンです」愛用者の女子大生も、こう語っている。

「連写もできないし、ノイズも入る。暗いところではうまく撮れない。フラッシュを焚くと人が浮かび上がる。そういうノスタルジーな雰囲気が、エモいです」

しかしなぜ、彼女たちは、そうしたものに惹かれるのか。飯沢さんは言う。

「ノイズは、体温や温もり、優しさという『感情』そのもの。『エモい』のエモの部分なんです。一方で、ツルツル、ピカピカの綺麗な画像はただの情報。そこへの欲求不満を持った彼女たちが、『写ルンです』や『チェキ』にある『感情』を嗅ぎつけたんでしょうね」

「いいね」がつく写真

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このように、綺麗な写真にあえて「ノイズ」を求めるようになった背景には、SNS「Instagram」の普及もあるという。フィルター機能を使ってフィルム風に加工することができるからだ。

その上で飯沢さんは、そうしたSNSに慣れ親しんだ世代の撮影する写真を、「『いいね』がつく写真」だとも表現する。

「Instagramにせよ、写ルンですにせよ、どれも『いいね』がつく写真なんですよね。それってなんだろうと思ったときに、既視感がある写真なんだ、と感じたんです」

なぜ既視感は、「いいね」につながるのだろうか。

「そうじゃないと、『いいね』がつけられない。自分の価値基準は頭の中にあるもの。見たことがないものは、ある意味怖くって恐ろしい、わからないもの。そんなものには、絶対『いいね』がつかない」

では、デジタル世代の彼女たちが、ノイズのある「エモい写真」、フィルム写真に「ノスタルジー」を感じる理由はどこに?

「おそらく、家にあるアルバムとか、古い雑誌とか、視覚的な経験の蓄積が無意識下にあるのでしょう。そこには居心地の良さや幸せだという感覚があり、『写ルンです』が自然と結びついたのでは」

「居心地の悪さや閉塞感が蔓延している時代だからこそ、そこに風穴をあけるような存在を求めた先にあったのが、ノスタルジアだったのかもしれません。これは決してデカダンス(退廃的)ではなく、耽美的でもない。自己肯定感、幸福感を追求した結果だと思う」

つまり、社会の閉塞感を抜け出すために自己肯定感や幸福感を求め、それをエモい、あるいはノスタルジーを感じる写真に反映させた、ということだ。

これは、バブル崩壊や阪神淡路大震災、さらにはオウム真理教による一連の事件などが社会にトラウマを残していた90年代の「女の子写真」ブームとも通底するという。

「未知なる想像力」への楽しみ

「写ルンです」を使いこなす彼女たちは、場合によって写真を撮り分けている。たとえば、先出の女子大生はこう語っている。

「iPhoneで撮ってすぐアップする写真は、1日の報告ばっかり。いつも持ち歩いている『写ルンです』は、本当に楽しい瞬間とか、綺麗な景色を撮りたいから、じっくり使います」

(関連記事:「iPhoneの写真は綺麗すぎる」 女子大生に広がる「写ルンです」ブーム、その理由は

これこそ「写真」の本質そのものだ、と飯沢さんは言う。

「このような『写ルンです』の使い方は、写真というものの本質、王道をついているところがある。大事なものを残したいという感情は、写真が撮り続けられてきた大きなモチベーションですよね」

そしてもう一つ。彼女たちはデジタルカメラの出現によって消えてしまった、「写真の本質的な楽しさ」にも気づいている、とも指摘する。

「フィルムで撮った『瞬間』は、まだ『イメージ』ではない。現像されていないフィルムの中に『潜像』として存在している。彼女たちは、そういう面白さに気がついているのかもしれません。未知なるものへの想像力を刺激される、見えないことの楽しさに

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ただ、これまでのフィルム写真文化とは大きな違いもある。それは、多くの愛用者が「プリント」をほとんどしない、ということだ。

多くは家電量販店で現像を頼むものの、プリントは「めんどくさいしお金もかかる」からしないのだという。

CDにデータを入れてもらって、MacBookに落とす。何枚か選んでiPhoneにAirdropをしたら、お気に入りをInstagramにアップし、LINEで友達にも共有するーー。

「大切なものを写真として所有する、というフェティシズムにつながる行為は、19世紀からずっと続いてきた。だからこそ、プリントした写真を所有せずにiPhoneやネット上に落とし込むということには、驚くとともに、ショックでした」

「しかし、彼女たちはプロセスを楽しんでいるんですよね。フラッシュを焚く、ブレやボケを楽しむ。結果ではなく、行為そのものに対する喜び。写真へのフェティシズムが断絶したように感じたけれど、そういうわけでもない。形を変えながら、残り続けていくのだろうな」

「女の子写真」の時代は再来するのか?

こうした「写ルンです」ブームは、現代の写真文化に何か影響を及ぼすのだろうか。

「もしかしたら、新たな写真表現ができつつあるのかもしれない。感情的な『エモい』写真ブームですよね。ただ、『女の子写真』の時代も、10年経ってから見えてきた。それくらいのスパンがないとわからないものがある」

そうした時代の中で、新世代の写真家も生まれている。飯沢さんが名前を挙げたのが、1991年生まれの奥山由之さんだ。

「写ルンです」やポラロイド・カメラを使った表現で注目を浴びた奥山さん。ファッション誌や広告、CDのジャケット写真などを多く手がけてきた新進気鋭の写真家だ。

2017年4月に表参道で開いた個展では、ポラロイドで撮影した小松菜奈さん、広瀬すずさんら注目女優の写真を展示。大きな話題を呼んだ。

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「彼が『写ルンです』のヒットを作ったとは思わないけれど、いまの時代の申し子であるとは言える。『エモいもの』を求めた世代がいたから奥山さんが出てきたのでしょう。彼は、時代の空気を読むのがうまい」

「写真の世界には、その時代ごとに『魔法をかけられる写真家』がいるんですよ。80〜90年代は荒木経惟さんや篠山紀信さん、その次に蜷川実花さんやHIROMIXたちがきた。いま、そういう力を持ち始めたのは奥山さんかもしれない」

ここでいう魔法、とは「コノテーション」のことだと飯沢さんは言う。「潜在的意味」「内包」を意味する言葉だ。

つまり、写真家の名前自体に、イメージそのものが付加価値としてつくことこそが、魔法なのだという。

「魔法っていうのは、いい写真だなという感想だけではなく、『自分でやりたいな』という気持ちも出させる。奥山さんと同じような写真を撮ってみたいから『写ルンです』を買ってみる、という流れが生まれているかもしれません」

「魔法使い」は、現れるのか

そうして魔法にかけられてか、それとも自ら「エモさ」を求めてか。

いずれにせよ、「写ルンです」を手に取る女子たちが増えたいま、新たに「魔法をかけられる写真家」は生まれるのだろうか。

「ずっと見ているけれど、そういうスターは何万人に一人という世界。もしかしたら一斉に出てくるかもしれないし、まだ隠れているかも。ただ、スターはその時代、その時代に欲しいもの。そろそろ、出てきてくれるといいですね」

そう話した飯沢さんは、こうも期待を寄せた。

「いまの『写ルンです』の流行は、まだ『ブームの芽』。けれども、彼女たちは、写真の本質を体現することに気がついている。これがさらに流行したら、面白いことが起きるかもしれません」

誰かが、その手元にあるカメラで「いまの時代」を切り取ることができれば。それはきっと、新たな「魔法使い」の誕生につながっていくはずだ。


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