新型コロナウイルスやワクチンなどをめぐり、根拠に基づかない「陰謀論」が問題視されている。
ネット上だけにとどまらず、実社会でそうした主張を叫ぶ人たちも少なくない。私たちは「陰謀論」とどう向き合うべきなのか?
連載の前編では、そうした主張を繰り広げる人たちの実態に迫る。

5月中旬。汗ばむ陽気となった、土曜日の東京。
思わずマスクを外したくなるような暑さのなか、渋谷駅周辺には「ノーマスク」の人たちによるデモが開かれていた。
「ワクチンは危険だ!」「テレビは嘘だらけだ!」「新型コロナは科学的根拠なし!」
大きな声をあげ、拳を突き上げる参加者たち。BuzzFeed Newsが目視で数えたところ、300人近くが集まっていた。
未成年と思しき少女たちから、家族連れまで。ベビーカーを押して参加する女性の姿もある。
行列は長く、交通規制の影響もあって、スクランブル交差点などが一時的に「密」になることも。
「意外に“普通”の人たちだね」「これって本当なの?」「迷惑なんだけど……」。通りがかった人たちからは、困惑気味の声も聞こえてきた。
同様のデモは東京だけでなく、札幌や名古屋、京都などでも開催。「世界同時開催」と銘打ち、アメリカやカナダ、イギリス、フランス、オーストラリアなどでも開かれた。
「ワクチンは大量破壊兵器」とうたうビラも

東京のデモは「日本と子どもの未来を考える」ことをうたう団体が主催。サイトによると、「過度な自粛」や「新生活様式」に反対し、昨年12月に結成されたという。
代表者は子育て中だという女性。サイト上のインタビューによれば、左派政治家のもとでボランティア経験があり、昨年の都議選でも「コロナは風邪」と主張する別の候補者のボランティアをしていたという。
デモの共通項は「自由と人権を守る」というメッセージだ。しかし、そこで発信されている内容は多岐にわたる。
新型コロナウイルスそのものを否定する言説、ワクチンを否定する言説、マスクが有害であると主張する言説、緊急事態宣言などの政府の強権的な政策を批判する言説……。
プラカードには、「コロナは詐欺」「マスクを外そう」「ワクチンで死者続出」「無症状から感染しません」といった言葉が躍る。配られていたビラにも、「コロナの嘘」「ワクチンは大量破壊兵器」などと綴られていた。
これらはいずれも誤りだ。新型コロナウイルスは確かに存在しているし、ワクチンの高い効果や安全性は治験などで実証されている。
無症状者にも感染性があること、マスクが感染予防に有効であることは、科学的に確認されている。
デモに参加した看護師

デモ参加者は、どんな思いで集まったのか。7歳の娘とともに「マスクはいらない!」と叫んでいた女性(40代)が、BuzzFeed Newsの取材に応じた。
女性は、都内の介護福祉施設に勤務する看護師だという。
「PCRで陽性になった無症状の高齢者が病院に隔離されるのを見て、おかしいと思うようになった」と語った。
もともと、政治に対する関心は一切なかった。「あまり大声で何かを訴えるのは好きじゃない」。このようなデモに参加したのも、今回が初めてだ。
「コロナの致死率はインチキ。PCRもマスクも意味がない。こんな狂ってる世の中で声をあげる人がいるとFacebookで知って、デモに参加したんです」
コロナを機に「自分でインターネットで調べていくうちに、おかしいことがたくさんわかってきた。私は英語もできるので、海外の情報もくまなくチェックしています」と話す。
情報源はSNSや海外サイト、そしてYouTube。医師らが発信しているものも多いという。
「陰謀論」と指摘されて

ワクチンにも、まったく信頼を置いていない。
「死者や後遺症の情報も多く見ました。『コロナ脳』の同僚に、看護師としての責任があるといわれているけれど、うつつもりはありません」
「娘には予防接種を受けさせてきたけれど、後悔しています。これからはやめようかなと思っています。自然療法などを試していきたい。食事もできるかぎり、オーガニックなものに切り替えています」
女性はコロナに関する話題を調べるうちに「バイデン氏の不正」を知った、と主張する。
「トランプ大統領が言う通りのことが起きているって、わかったんです。彼らの言っていることは嘘じゃない。メディアの報道と現実が違うのを目の当たりにした」
こうした意見が「陰謀論」と指摘されることには、反発を抱いているという。
「新聞やテレビのせいで、世の中の人に正しい情報が伝わっていない。“彼ら”は言論弾圧をしようとしているんです。私はSNSや近所の人にも積極的に伝えているんですが、『悪い団体や宗教に洗脳されたのでは』と心配されるようになった。コロナを信じている方が多いですから、現実は厳しくて、切ないですよね」
もし、身近な人が…

身近な人たちが、誤情報を信じてしまった場合はどうすれば良いのだろうか?
新型コロナをめぐる誤情報の拡散に警鐘を鳴らしてきた、日本医科大学武蔵小杉病院腫瘍内科教授の勝俣範之医師は、BuzzFeed Newsの取材にこう語る。
「そうした情報を信じてしまう人は、怖いし不安。まず安心感を与えていく必要があると思います。ですから、その人がなぜそういうふうに思ってしまうのかということを、ちゃんと聞くことが大切でしょう」
「がん医療でもある事例ですが、よくやってしまいがちな過ちは、最初から上から目線で『教えてあげる』ということです。そうではなく、お互いの信頼関係を保つために、すぐに相手を否定せず、まず話を聞いていく、ということがすごく大事だと思います」
では、自分自身がワクチンをめぐる不安な情報に触れてしまったときは、どう捉えれば良いのだろうか。
「また、ワクチンに対する有害事象(*)をきちんと拾っていくことは大事ですが、因果関係がないことが多いので、少数例をセンセーショナルに伝えている情報には気をつけて、すぐにワクチンのせいと思わないようにしたほうが良いでしょう」
「世界的にもワクチンの安全性は大規模に検証しており、安全性のエビデンスは積み上げられています。ワクチンによって死亡率が増えたというデータはひとつもありません。心配される方の多い妊娠への影響についても安全であると示されています。安心してうっていいということがわかっているからこそ、我々医療者も積極的に接種していると知ってもらえたら」
「陰謀論」をめぐる専門家の見方を紹介した連載後編【ワクチンめぐり広がる「陰謀論」専門家が「これからが正念場」と警鐘を鳴らす理由】はこちらから。