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政府が非公開としていた外国人実習生の失踪調査→2870人分を野党が書き写してPDFで公開

7割が最低賃金以下で働いていたり、1割が過労死ラインの月80時間以上の残業を強いられたりしていた実態が明らかになったが……

法務省入国管理局が失踪した外国人技能実習生から状況などを聞き取りした「聴取票」2870人分の内容を、立憲民主党などの野党が12月6日までにPDFで公開した。

賃金の安さや労働環境の劣悪さなどが事細かに記されている。ただ、聴取票そのものは非公開のため、野党議員が手分けをして書き写す作業をしていた。

その内容からは、7割が最低賃金以下で働いていたり、1割が過労死ラインの月80時間以上の残業を強いられたりしていた実態が明らかになった。

まず、経緯を振り返る

外国人労働者の受け入れを拡大するために政府・与党が今国会での改正を目指す、入国管理法。山積する問題点ゆえに野党側はより慎重な議論を求めている。

なかでも注目されている「外国人技能実習制度」は、「途上国に技能を伝えるための実習」という建前がある。しかし実態としては、低賃金で働く労働者の供給源になっているという批判も多い。

2015~17年の3年間に実習生69人が死亡していたことも、毎日新聞の報道により発覚。それによると、うち12人が実習中の事故、6人が自殺、殺害された人が4人いたという。

そんな技能実習生を巡っては、すでに低賃金や虐待などが理由で職場から逃亡する例が相次いでおり、2017年に7000人を超えた。

こうした事態を受け、入国管理局は2017年、衆議院と参議院の法務委員会の附帯決議に基づいて失踪経験のある実習生2870人にヒアリングを実施。その結果を聴取票にまとめていた。

そもそも非公開だった聴取票の「閲覧」が認められるようになった経緯には、入国管理局側の不手際がある。

入国管理局は当初、失踪動機で最も多かったのは「より高い賃金を求めて」で87%だったなどと説明していた。

しかしその後、本当の最多は「低賃金」で67%を占めていたことが判明。調査のずさんさが浮き彫りとなり、野党側の要望を受ける形で、聴取票原本の「閲覧」が認められることになったのだ。

ただ、政府・与党がともに「閲覧」だけを認め、コピーを禁止しているのが現状で、野党議員が手分けして2870人分全てを「書き写す」作業に追われた。

野党側はコピーを認めるよう政府・与党に求めているが、応じてこなかった。

明らかになった実習生の実態

聴取票をもとにした野党側の早期の集計では、実習生は受け取っていた時給で最も多かったのは、500円台だったことが明らかになっている。

また、すべての票を書き写した後に行われた全体分析では、67%(1939人)が最低賃金以下で働いていたことや、10%(292人)が過労死ラインである月80時間を超える残業をしていたことがわかった

失踪の原因は▽指導が厳しい(181人)▽暴力(139人)▽強制帰国(81人)▽いじめ(12人)などの理由だったという。

「低賃金(最低賃金以下)を失踪理由にしたのは全体の0.8%の22人」などとしていたこれまでの政府の説明と乖離している点があり、野党は追及姿勢を強めている。しかし、政府・与党は、12月7日にも同法の改正案を成立させる構えを崩していない。

そんな中、立憲民主党国民民主党は、書き写された聴取票の内容をサイト上でPDFとして公表した。その理由について、こう記している。

「国民の代表である国会の要請によって実施された調査結果は、国民に開示すべきと判断した」

入国管理局は「信用できない」

技能実習生が置かれている実態を知るために重要な聴取票は、なぜ公表されていなかったのか。

入国管理局の技能実習担当者は、BuzzFeed Newsの以前の取材にこう語っている。

「聴取票は、入国管理局として実習先から失踪する原因について、検討するために取り始めているもの。行政の側からそのものを公開するという予定は現時点ではありません。プライバシーの観点からも、フルオープンにはできません」

そのうえで、議員による書き写しや、その内容の公開への「懸念」も示した。

「聴取票は、技能実習生の方から任意でボランティアベースで聞き取ったもの。使い方についても伝えていないため、公開されてしまうと、今後別の実習生が聞き取りに応じてくれなくなる可能性があります」

さらに「見る人が誤解してしまうかもしれない」ともいう。担当者はこう語った。

「聴取票は、どういう理由で失踪するのか、という参考資料です。情報の端緒にすぎません。本人が言いっ放しの資料で、本当にそうなのかという裏どりをしているわけでもない。そのままのことがどこまで信用できるかもわからず、内容的にも積極的に公開するには当たりません」