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「ワクチン接種した子どもの死亡率は未接種者の52倍」はミスリード。英政府データを根拠と拡散、専門家は否定

イギリスの国家統計局「ONS」のデータに基づき、10〜14歳の「10万人ごとの死亡率」をワクチン接種の状況に計算しまとめたとする内容だが、比較の方法が「極めてミスリーディング」(専門家)であるため、注意が必要だ。

コロナワクチンの子どもへの接種をめぐり、「2回接種の子供の死亡率は未接種の子に比べて52倍の死亡率」などとするツイートが拡散した。

イギリス政府の発表から導き出したとするものだが、当初からワクチン接種の対象となっていた重い基礎疾患を持つ子どもが多く含まれるデータを比較に用いており、「ミスリード」であると言える。

BuzzFeed Newsは日米の専門家によるプロジェクト「こびナビ」とともにファクトチェックを実施した。

拡散したのは、「これは陰謀論でも推論でもない。我が子に打つ前に知って下さい」などとする2月15日のツイート。5000いいねを集めるなど、広がりを見せていた。

投稿では、イギリスの国家統計局「ONS」のデータに基づき、10〜14歳の「10万人ごとの死亡率」をワクチン接種の状況に計算し、まとめたとする別のツイートを引用。

「未接種者 4.58人 一回接種 45.12人 二回接種 238.37人」というデータを示し、「二回接種の子供の死亡率は未接種の子供に比べてなんと52倍の死亡率である」などと言及している。

実際に公表されている2021年1月1日から10月31日までのONSのデータを見てみると、10〜14歳のワクチン未接種者は総数209万4711人で、この間の死亡者数が96人だった。

一方、1回接種から21日以上経過した子の総数は6648人、死亡者は3人。2回接種の場合は総数1678人に対し、死亡者4人となる。

これらを計算すると、拡散している通りの数値にはなる。しかし、そもそもこのデータを比較すること自体が「ミスリード」であることに留意する必要がある。

なお、同じ言説は海外でも拡散し、すでに「誤り」であるとファクトチェックの対象となっている(米PolitiFactなど)。

専門家「極めてミスリーディング」

日米の専門家によるプロジェクト「こびナビ」の専門家は、BuzzFeed Newsの取材に対し、「このデータからは2回接種の子どもの死亡率が未接種の子どもに比べて高いとは言えません」と明言する。

なぜか。当初、イギリス政府はワクチン接種の対象として、重篤な神経疾患などの基礎疾患を持つハイリスクの子どもに限定していた。対象を16歳以上の全ての子どもに広げる方針が示されたのは2021年8月、12〜15歳では9月だ。

拡散していたツイートで引用されていたONSのデータは1〜10月分。つまり、この時点で接種をしている子どもたちの多くは、重篤な基礎疾患を持っていることになる。こびナビの専門家は、こう語る。

「(ONSの)研究の観察期間の大部分において、ワクチン接種をした子どもは、接種しなかった(できなかった)子どもと比べ、重い基礎疾患があった子どもが多かったのです。そもそも、健康な子どもが突然なくなることはほとんどありませんが、もともと病気のある子どもはそうではありません」

「実際に2018年のイギリスの10代の死因の2位は小児がん、4位は神経疾患、5位は循環器疾患です。(当該期間の)ワクチン接種者は基本的に基礎疾患がある子どもであったため、未接種で健康な子どもに比べて、他の病気で亡くなるリスクが圧倒的に高かったと言えます」

そのうえで、ワクチン接種者の子どもの方が、未接種の子どもより死亡率が高いという言説について、「新型コロナワクチンが原因で亡くなっていることを意味しません。このことから、ワクチン接種により死亡が増えるかのような言説は極めてミスリーディングです」と強調。こうも述べた。

「イギリス政府は死亡診断書に新型コロナワクチン接種が原因と判断された症例を公開しています。これによると、2022年2月時点で35歳未満で新型コロナワクチンが原因と記載された死亡はありません」

「つまり、ワクチン接種が原因で死亡が増えているという根拠はなく、死亡率の違いはワクチンを接種した子どもたちと未接種の子どもたちの属性が大きく異なることによるものと考えられます」

危険性を煽る言説に注意

さらにこびナビの専門家は、イギリス以外の各国政府や保健機関の公的な発表データにおいても、「子どもの死亡率がワクチン接種により高くなる」という報告はないと指摘。こう語った。

12〜15歳やそれ以下の年齢(5〜11歳)においても、成人と同様に新型コロナワクチンの効果が確認されており、ワクチンを接種することで新型コロナウイルス感染症による重症化、死亡、後遺症を防ぐ効果があると考えられます」

実際、5〜11歳のワクチンの有効性について、オミクロン以前のデータではあるものの、米国の臨床試験では高い発症予防効果が示されている。

また、副反応についても、ファイザー社の臨床試験では注射した部分の痛みや腫れ、発熱や倦怠感などの副反応は見られるものの、重い副反応や心筋炎は見られていない。

米国の接種後の健康調査(V-safe)でも、12〜15歳よりも副反応の頻度は少なく、「VAERS(予防接種安全性監視システム)」でも5〜11歳の男子の心筋炎は12〜15歳、16〜17歳の男子よりも報告率が低いことが示されている。

この心筋炎について、こびナビの専門家も「16〜19歳の男性でも10万人あたり10.69人と非常に稀で、しかもその98%が軽症・中等症であることが報告されています」と指摘。

「万が一接種後1週間以内に胸が痛い、息が苦しいなどの症状が出た場合は、運動は控え速やかに医療機関を受診するようにしてください」としながら、ワクチンをめぐり拡散する後遺症などの「危険性」を煽る言説に対し、こう注意を呼びかけた。

「2022年2月時点で、mRNAワクチンは全世界で少なくとも10億回以上接種されており、副反応が疑われる死亡や重篤な後遺症が多く起きているということは報告されていません。mRNAワクチンの安全性は十分高いことが示されています」

「少なくともワクチン接種により死亡が増えているという根拠はありません。不妊などの中長期的な影響についても全く根拠がなく、米国CDC、WHO、厚生労働省も明確に否定しています」

なお、国内においては5〜11歳のワクチン接種について、厚生労働省の審議会で接種を勧奨するとされたため、無料でうつことができる。「努力義務」はかけられていないが、特に重症化リスクのある子どもへの接種が奨められている。

コロナワクチンをめぐっては、不安を煽ったり、その有効性を否定したり、副反応ばかりを強調したりする報道や、ネット上の陰謀論などが相次いで拡散されてきた。公的な発信や専門家による発信を頼るなど、情報の取り扱いには、十分な注意が必要だ。


監修:こびナビ(木下喬弘、岡田玲緒奈)


BuzzFeed JapanはNPO法人「ファクトチェック・イニシアティブ」(FIJ)のメディアパートナーとして、2019年7月からそのガイドラインに基づき、対象言説のレーティング(以下の通り)を実施しています。

ファクトチェック記事には、以下のレーティングを必ず記載します。ガイドラインはこちらからご覧ください。

また、新型コロナウイルス感染症やワクチンに関する正確な情報を提供する日米の専門家によるプロジェクト「こびナビ」とも連携し、新型コロナ感染症とワクチンに関する誤った情報、不正確な情報についてファクトチェックしています。

  • 正確 事実の誤りはなく、重要な要素が欠けていない。
  • ほぼ正確 一部は不正確だが、主要な部分・根幹に誤りはない。
  • ミスリード 一見事実と異なることは言っていないが、釣り見出しや重要な事実の欠落などにより、誤解の余地が大きい。
  • 不正確 正確な部分と不正確な部分が混じっていて、全体として正確性が欠如している。
  • 根拠不明 誤りと証明できないが、証拠・根拠がないか非常に乏しい。
  • 誤り 全て、もしくは根幹部分に事実の誤りがある。
  • 虚偽 全て、もしくは根幹部分に事実の誤りがあり、事実でないと知りながら伝えた疑いが濃厚である。
  • 判定留保 真偽を証明することが困難。誤りの可能性が強くはないが、否定もできない。
  • 検証対象外 意見や主観的な認識・評価に関することであり、真偽を証明・解明できる事柄ではない。