食料を直接手渡す「こども宅食」は、「7人に1人が貧困」の子どもたちを救うのか

    果たして、新たな支援の切り口となるのか。

    貧困世帯の子どもたちの家庭に食料を直接届ける「こども宅食」の取り組みが、2017年10月から東京都文京区で始まる。

    これまで「子ども食堂」などの取り組みは各地に広がっていたが、直接食料を届ける仕組みづくりは全国でも珍しい。

    2017年6月に厚生労働省が発表した日本の子どもの貧困率は13.9%。実に7人に1人と、状況は深刻だ。文京区でも約1千世帯が貧困状態にあるというが、このような支援の仕組みがどう効果を発揮するのだろうか。

    こども宅食とは何なのか

    今回始まる「こども宅食」とはその名の通り、低所得世帯(児童扶養手当、就学援助受給世帯)にいる子どもたちの家に直接、無料で食料を届ける仕組みだ。

    この取り組みを始めるのは、認定NPO法人フローレンスやNPO法人キッズドア、村上財団などの6団体。コンソーシアム(共同事業体)としてプロジェクトをスタートさせる。企業やフードバンクなどの協力団体も10あるという。

    届ける食料はダンボール1箱分(約10キロ)。協力団体から提供された飲料や米、レトルト食品、お菓子などが詰められている。高齢者住宅に宅食をしている協力団体のネットワークを生かし、月1回(2017年度は2ヶ月に1回)、直接配送をするという。

    文京区もコンソーシアムに参加しており、児童扶養手当と就学援助を受給している世帯に向けて手紙を配布して、周知をはかる。

    それを受け取った保護者が、LINEを通じて「誰にも知られずに」登録できるようにする。これは、継続的な連絡手段にもなりうるという。

    初年度は抽選(150世帯)の予定だが、2019年度までには全1千世帯に配布できるようにすることを目指す。仕組みが整っていけば、食料の内容も「栄養バランスを考えたものや、生鮮食品も入れていきたい」(広報担当者)という。

    なぜ、宅食なのか

    「ひとり親支援の過程でぶつかったのが子どもの貧困という問題だった。子ども食堂をやってみたとしても、日本の子どもの貧困は見えにくい現状があり、効果的な支援ができていなかった」

    7月20日に厚生労働省で開かれたキックオフ会見でそう話したのは、フローレンス代表の駒崎弘樹さんだ。同団体は、2015年に都内で子ども食堂を運営していたが、「見えない貧困」が課題になっていたという。

    貧困状態にある子どもは、そもそも周りに現状を知られたくないがために「子ども食堂」にはやってこない、ということだ。本当に届けるべき子どもたちに支援が届いていなかったこの時の状況を、コンソーシアムの広報担当者は「暗闇の中で支援をしているような状態」と表現する。

    これを解決するための手段が「宅食」だった。

    人が訪問をして食料を「手渡す」ことができれば、子どもたちや保護者と直接コミュニケーションが取れる。そうすることで、それぞれの家庭が抱える状況を「見える化」することができると考えたのだ。

    「見えない子どもたち」を守る

    低所得世帯を把握している行政が参加しているため、支援が届きやすいのも特徴だ。駒崎さんが声をかけ、コンソーシアムに参加することになった文京区の成沢廣修区長は会見でこう語った。

    「文京区は生活保護率は高いほうではなく、それなりの資産や所得を得ている人が多い。そういう自治体だからこそ、『見えない』という可能性が高いと考えている」

    文京区では、就学援助を受給している世帯が全体の10.9%(世帯数は非公開)、児童数で言えば1066人。児童扶養手当を受給している世帯は681世帯、児童数は906人になる。成澤区長は言う。

    「貧困世帯に暮らす子どもたちは、一目見て分かるわけではない。直接食料を届けることは、そうした子どもたちを守ることにもつながる。非常に有効な仕組みだと思う」

    プロジェクトの開始に至っては、対象になりうる世帯にヒアリングを実施。トラックに「こども宅食」などというロゴを載せず一般的なものにし、配送先が「貧困世帯」であることがわからないようにするなどの工夫を加えたという。

    貧困を「見える化」することの意義

    子ども宅食のゴールは、「食料を届ける」ことだけではない。「つながり」ができることに意義があると、駒崎さんは強調する。

    貧困状態にある子どもたちは、栄養不足だけではなく、必要な医療を受けられていなかったり、教育のために必要な文房具などを購入できなかったりするなどの問題に直面しがちだ。保護者から虐待を受けたり、同世代の子どもたちとの関係が希薄になったりしてしまうケースもある。

    だからこそ、「こども宅食」で作られたつながりを生かしたいという。

    最終的には、「見えない貧困」に置かれている子どもたちや家庭のニーズに応じ、食に限らない様々な支援を提供することを目指す。学習支援や居場所作り、LINEなどを通じた相談や情報提供など、できうることは多様だ。

    駒崎さんはいう。

    「こども宅食は、ある種のセーフティーネットづくりとも言えると考えています。ソーシャルワークにつなげることが肝になる」

    ただ、貧困家庭にはひとり親世帯が多い(全国ひとり親世帯の貧困率は50.8%、厚労省)という現実もある。保護者が仕事などで不在の際はどうするのか、などの課題も残る。

    その場合はどうするのか。広報担当者によると、原則手渡しにしているが、不在時は止むを得ず段ボールなどに入れて置いておくのだという。

    配送後は、コンソーシアムに参加するNPO法人キッズドアが、対象世帯に宅配が届いているかどうか電話などで確認する、という体制も整えている。

    運営資金は「ふるさと納税」で担う方針だ。同様の仕組みを各地に拡大できるよう、それぞれの地域に根ざした支援団体などにノウハウを積極的に共有していきたい、としている。


    BuzzFeed Newsでは、子どもの貧困について【NHK「貧困女子高生」報道へのバッシングは、問題の恐るべき本質を覆い隠した】という記事も掲載しています。