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入院拒否に懲役刑「罰則を知事会から求められた」菅首相の発言は本当か?

新型コロナウイルスの入院拒否などをめぐる感染症法改正案。政府が明記していた「懲役刑」をめぐる質問と答弁は噛み合っておらず、誤解を招きかねないものだったと言える。

入院拒否をした新型コロナウイルス患者に対し、懲役刑や罰金を科すとする政府の感染症法の改正案。

差別や偏見、恐怖を助長しかねないと批判が広がるなか、1月25日の衆議院予算委員会では菅義偉首相は懲役刑について問われ、「罰則を求める知事会の緊急提言をいただいた」と答弁をした。

しかしこの答弁には、噛み合わない部分があった。知事会は「罰則」は求めているが、「懲役刑」などの刑事罰については言及していないためだ。改めて経緯を振り返った。

感染症法の政府改正案は、患者が入院に応じない場合や入院先から逃げた場合、「1年以下の懲役または100万円以下の罰金」の刑事罰を科すとしている。

これについて、ハンセン病などの歴史的経緯も踏まえ、患者に対する差別や偏見を煽りかねないとして、専門家らが強く反対。野党も削除や修正を求めていた。

1月25日の衆院予算委では、立憲民主党の小川淳也議員からこの「入院拒否に対する懲役刑」について問われ、田村憲久厚労相と菅首相がそれぞれ以下のように答弁した。

田村厚労相「立法事実として、いまも病院から逃げ出される方々がいる。それに対しては、知事会から要請があったということ」

菅首相「新型コロナの患者のなかには、医療機関から無断で抜け出したという事案もあります。全国知事会からも、罰則を求める緊急提言をいただいてます。こうしたことを踏まえ、感染拡大防止策の実効性を高めるために罰則を設けたい」

立憲民主党の今井雅人議員は、懲役刑などの刑事罰に関する点をさらに追及。「無断で抜け出した事案」を国として具体的に何件把握しているのか尋ねた。これに対し、田村厚労相は次のように答弁した。

「網羅的には確かに把握しておりませんけれども、それぞれ、都道府県のホームページなどで公開していたりしている。その中で知事会からこのような要望があがってきているわけなのです。知事会は罰則付きと言っているが、私権を制限することは極めて重い話。それに対しては審議会などでご意見をいただき、慎重にやらないといけない」

知事会は何を求めた?

どちらの問いも、主眼は「懲役刑」「刑事罰」を設けることにあったが、質問を受け、菅首相は「罰則を知事会が求めている」と、田村厚労相も「このような要望が知事会からあがっている」と答弁している。

こうしたやりとりに対して、ネット上では「知事会は懲役刑まで求めていないのでは」といった疑問や批判の声が上がっていた。

では、知事会は実際には何を求めていたのか。1月9日の緊急提言では、特措法における休業要請や営業時間短縮要請への遵守義務や違反した場合の罰則を要望しているほか、感染症法についても以下のように求めている。

感染拡大を防止するためには、保健所による積極的疫学調査や健康観察、入院勧告の遵守義務やこれらに対する罰則、民間検査で陽性となった本人による保健所への連絡の義務化、宿泊療養施設や自宅での療養の法的根拠及び実効性の確保、クラスター等複数の陽性者が発生した場合の知事の判断による施設の名称等の情報の公表等に関する感染症法の改正を行うこと。

つまり、「保健所による積極的疫学調査や健康観察、入院勧告の遵守義務」に対して違反した場合の「罰則」を求めている、ということだ。

菅首相や田村厚労相がいうように、知事会が緊急提言で「罰則」を求めていたことは事実であると言える。しかし、「懲役刑」や「刑事罰」については触れられていない。

全国知事会調査第二部は、BuzzFeed Newsの取材に「いろいろな対策をするなかで実効性を担保するようお願いした。『罰則』の中身をどうするかについては、立法は国会の権限になるため、知事会としては触れていません」と語った。

こうしたことから、懲役刑や刑事罰をめぐる質問と答弁は噛み合っておらず、誤解を招きかねないものだったと言える。

罰則はどうなるのか?

政府の感染症法改正案では、保健所の疫学調査を正当な理由なく拒否した場合や虚偽の申告をした場合も「50万円以下の罰金」を科すとしていた。

また、特措法改正案では、緊急事態宣⾔下で休業要請や営業時間短縮の命令に従わなかった場合、事業者には「50万円以下の過料」を科すと明記していた。

同じ罰則でも、「過料」は行政罰であり、「懲役、罰金」は刑事罰だ。後者では逮捕・勾留もあり得るほか、前科がつくことになる。

共同通信などによると、野党などから反対の声を受け、政府は感染症法改正案から懲役刑を削除する方針だという。また、罰金や過料も減額するよう検討している。

政府は2月初旬までの法改正を目指しているが、罰則を設けること自体に反対する声も大きく、国会での答弁が引き続き注目されている。



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