カジノ法案審議中に突然の般若心経 自民議員の質問が意味不明すぎて非難の嵐

    専門家は「このままではお笑い法案に」と指摘。

    「カジノ解禁法案」が12月6日午後、衆議院本会議で成立する見通しだ。法案の審議に入ってからまだ一週間。法案の成立を推し進める自民党内や推進派からも「拙速すぎる」「審議が不十分だ」との意見が出ている。

    審議が始まった11月30日の衆議院内閣委員会では、自民党の谷川弥一議員(長崎3区選出)が余った時間を潰すために「般若心経」を唱えたり、地元への郷土愛を語り出したりした。

    専門家からは落胆、そして批判の声が聞こえている。

    炸裂した谷川節

    谷川議員は、第2次安倍内閣で文部科学副大臣を務めたことがある。この日の審議では、38分間の質問時間を用い、カジノ法案の意義などを聞いていた。

    質問開始から約30分、様子が変わる。

    「質問が終わったんですが、あまりにも時間が余っているんで、地元のことを一点」と発言。ここから「谷川節」が炸裂した。

    最初に、「私の地元長崎県は恥ずかしいことですが、5年間で約5万人、人口が減っている」などと発言。水産業や造船業が衰退している現状を交えながら、郷土愛と愚痴を淡々と語った。

    「私は口を酸っぱくして観光をやれと言っているんですが、なかなか思う通りやってくれません。私の経営感覚は人並み以上に優れていて、これをやれとあれをやれと言うんですが、ひとつも実行してくれない」

    さらに、そのためには観光に力を入れるべきという持論を述べ、「IR(カジノを含む統合型リゾート)はすごいなあと思っている。独り言ですが」などと、笑いを誘った。

    唱え始めた「般若心経」

    さらに谷川氏は、カジノ解禁法案の「負の部分」に言及した。

    「いちばん心配はやっぱりこの法律による負の部分ですね。私見ですが、人間の本能は苦しいことを避けて楽を求める。そうすると良い結果がでないんで、悪い結果を人のせいにして言い訳する。これを保守本能、美化本能と言う」

    これに対抗するために必要なこととして、「危機感」や「負けん気」、さらには「愛」「宗教」などをあげた。

    「宗教について日本の社会は触れません。憲法違反とか言って。私たちの先祖は1週間に1回くらいお寺や教会に行っていた。なんでやれないのかなと思っているんですが、現実的にやれない。たとえば私は禅宗なので、40歳の記念に禅の勉強を3年間やった」

    こう力説した谷川議員。般若心経を「観自在菩薩 行深般若波羅蜜多時 照見五蘊皆空度一切苦厄」と唱え、解説まで始めた。

    「般若というのですはね、知恵なんです。蜜多は、行く。波羅が彼岸、幸せになるための道っちゅうことなんです。どうしたら幸せになるのかというと、『無念無想で生き抜けと、言い訳するな』ということなんです」

    「こんなことを徹底してやっていかないと、解決できない部分が出てきますよ。やってほしい。宗教については見直せないのか、議員それぞれが考える時期にきている。これが、法案の負の部分に対する私の心構えなんです」

    夏目漱石の紹介も

    その後、今度は「気違いみたいに漱石が好きなんです」と話し続ける谷川議員。

    「私は猫と草枕については、全部、何ページの何行目に何が書いてあるかをずぅっと書いて持っている。全巻12回くらい読みました」

    「人の心を耕す仕事をもういっぺん我々は考えんといかん。それは文学であり、彫刻であり、陶芸であり、三味線であり、そして宗教なのです。そういうことを構えておかないと、法案の負の部分についての抜本的な解決することにはならない」

    この発言に対し、カジノ議員連盟会長で自民党総務会長の細田博之議員は、こう答弁した。

    「さまざまな公営競技等について、そのお金を使ってさまざまな振興をはかっていますが、伝統文化の振興と観光の振興をもっと深くやる仕組みを考えないといけない。また、お知恵を出していただきたい」

    「驕慢」との批判も

    この振る舞いには、識者や政治家などから批判が相次いだ。

    保坂展人・世田谷区長は自身のツイートで「おごりたかぶること」を意味する「驕慢」という言葉を使い、こう批判した。

    カジノ推進法案のレベルの低い「強行突破」の拙速審議のさなか、「質問時間が余った」として「般若心経」を唱えて解説、夏目漱石の紹介等をしていた自民党議員がいたと報道されている。こうした態度を「驕慢」と呼ぶ。国会が道を誤れば、世間に大きな迷惑をかけるという緊張感のかけらも感じられない。

    カジノ推進派でありながら、今回のスピード審議を批判し、BuzzFeed Newsの取材に「審議は十分ではなく、強行とも言える」と語っていた国際カジノ研究所の木曽崇所長。

    ブログではこうした審議のやりとりを「推進側にいる議員がことごとく意味のない質疑で延々と持ち時間を消費するという驚きの展開」と指摘し、こう述べた。

    いずれにせよこの調子のやり取りで採決に至るとするのならば、本法案は我が国の賭博史始まって以来の「お笑い法案」として末代まで語り継がれてゆくことは間違いありません。