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「インスタを見るとうんざりする」コロナの現場で看護師が感じた限界

新型コロナウイルスの第三波で疲弊している医療現場。看護師などの医療従事者のストレスも限界に達しようとしている。三次救急の病院で重症者の対応にあたる看護師の訴えとは。

新型コロナウイルスの感染拡大が止まらない。

医療現場は逼迫し、現場からは崩壊寸前との強い危機感が示されている。一方で、その最前線に立つ医療従事者たちのストレスももはや、限界だ。

状況が深刻な大阪で日々重症患者の対応に当たる看護師は、「SNSを見るのがしんどい」と訴える。その思いを聞いた。

「インスタはホーム画面から、削除しました。楽しかったツールが、いまはものすごい苦痛に、しんどいものになってしまったから……」

そうBuzzFeed Newsの取材に吐露するのは、大阪で救命救急医療に携わる30代の樹里さん(仮名)だ。三次救急の病院に勤めており、多くの重症患者の対応に日々、当たっている。

BuzzFeedの公式LINE「バズおぴ」に心境を寄せた樹里さんは、現場の実態をこう語る。

「医療現場は、本当に本当に今がいちばん大変としか言いようがない。次から次へ呼吸器が必要な患者さんが運ばれてくる。人数が減らないんです。このままじゃ、助かる命も助からんくなると思っています」

「たとえば、私の働いているICU(集中治療室)は、ほとんどコロナの患者さんで埋まっています。ICUは去年も一昨年も、交通事故や手術の患者さんで埋まっていました」

「コロナで埋まったとしても、事故や手術でICUに入る必要がある患者さんが減るわけじゃない。つまり、受け入れられない患者さんが出ているということなんです。ほんとうに逼迫しています」

とうに人手は足りず、ほかの病棟からもスタッフをかき集めているのが実態で、現場は相当疲弊している。専門外の病気について必死で勉強しながら応援にあたる人や、家族感染を避けるためにホテル暮らしをしている人もいるという。

「医療従事者はだいぶ疲れてきています。常に感染の危険と隣り合わせというストレスもある。救急医療に慣れていないスタッフもいるから、事故も起こさないように常にピリピリもしています。本当であれば提供できる医療が提供できていないことにフラストレーションも感じます」

まだ若く、既往歴もないことから自身が重症化するリスクは低いと思っているが、「万が一自分が感染して、高齢な基礎疾患のある患者さんにうつしてしまうと思うと怖いので」と、病院と家を往復する日々が続いている。

疲れ切って、余裕もない

「そうして家に帰ってからSNSを見ると、うんざりしてしまうようになっちゃって……」

緊迫した現場から帰宅してInstagramを開けば、そこに並ぶのは、コロナがまるで終わったかのような、いや、コロナ以前のような、自分たちの日常とは隔絶された、別世界。

大人数の飲み会や旅行、テーマパークで楽しむ友人たちの投稿が並ぶタイムライン。一方で、感染者数は増加の一途をたどっている。そのギャップが、樹理さんの心を追い込むようになった。

「私、もともとは、普通の人よりも出歩くようなタイプだったんです。インスタもすごく活用していた。このお店いってみたいとか、これ買いに行きたいとか、友達の子どもが生まれたんだ、幸せそうでいいな、とか」

「私にとっての情報源でもあったし、視覚的情報を得て楽しめるツールでもあった。でも、いまは自分の見えている世界とのギャップとか、考え方の違いとかを目の当たりにしてしまうようになってしまった」

「友だちの子どもの成長や、産まれた報告、結婚報告、つくったご飯、可愛いペット……。見たい写真はたくさんあるけれど、今は見ない方が自分の心のためだと思い、しばらくインスタとは距離を置くことにしました」

Instagramだけではない。それまでは活発に使っていたというTwitterからも、やはり距離を置くようになった。

現場の医療従事者を差し置いて、さまざまなデマ、陰謀論、そして医学的に誤っている議論が横行しているからだ。そうした投稿に「いいね」が大量について、自らのタイムラインに流れてくることが、耐えられないと樹里さんはいう。

「もう、そういう段階じゃなくて、現実として病院にはコロナによる重症患者さんがあふれているんだよ、逼迫してるんだよって……。本当はサブ垢でもつくってそう訴えたいけれど、疲れ切って、そんな余裕もないんですよね」

「がんばらないと、ダメやし」

樹里さんは、春先の第一波のころから、ICUでコロナ患者対応の最前線に立っていた。

当初は「コロナよりもインフルのほうが死者が多いのでは」などとも思っていたが、実際に重症患者を受け持ち、その経過を看るようになってからは、「思っているよりも恐ろしい病気だということが、身に染みてわかった」という。

日々、現場で奔走しながら、友人たちに「いま病院がこんなことになってる」と発信したこともある。緊急事態宣言のころには、その思いは多く伝わった、という手応えもあった。

しかし今では、そうした医療従事者の叫びは届いていないように感じ、悶々とする日々が続く。樹里さんは、こういまの思いを吐露した。

「まだ、がんばろうとは思うし、がんばらないとダメやし……。この状況は大阪だけじゃなくて、日本だけじゃなくて、全世界のレベルじゃないですか。いま辛いと思ってるのは、私だけじゃないから、無理とか、しんどいとか言ってるレベルじゃないんだろうな、って」

「でも、今後も長期化するとそのあとどうなってくるんだろうと不安です。これ以上、どうしたらいいんだろうって。モチベーションもどこまで持つかわからない」

いま、人々に伝えられることがあるとしたら。そう聞くと、樹里さんは言葉に力を込め、こう言った。

「いま言葉を見つけるのがすごく難しいですけど、この状況下で、ほんとに大変な思いをして、我慢して、ずっと働いている人もいるということを忘れないでほしい。そして、自分がかからないから、いいやではなく、誰かの命を奪ってしまうことになるかもしれないんだよって、伝えたいです」

すべての日常生活をやめてほしい、とは思っていない。せめて、感染対策に気を使いながら過ごしてほしい。行政の訴える時短要請などの言葉には、応じてもらいたい。

そして、自分たちと関係ないとは思わずに、厳しい状況にいる医療従事者やエッセンシャルワーカーがいるということを忘れないでほしい。それが、樹里さんの願いだ。


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