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あなたは、この点字ブロックの“異変“に、気がつけますか? 目が見えないから「見える」景色がある

ある日、「多発性硬化症」により突然失明し、視覚障害者となった男性が投稿した1枚の写真。そこに込められた本当の思いとは。

目が見える人には「見えない」景色があるーー。視覚障害者の男性がTwitter上にアップした「点字ブロック」の写真が話題を呼んでいます。

6年前に突如としてほとんどの視力を失ったという男性。「立場が変われば、見えるものも変わる」と語ります。

いったい、どのような思いで写真を投稿したのか。お話を伺いました。

《人口35万人の地方自治体の市役所前にあった点字ブロック。「点字ブロックが無くなったね」と僕が言うと一緒に歩いていた友人は「あるよ!」と言う。よくよく確認してみると、点字ブロック風の絵が描いてあるだけだった。トリックアートかっ! これもまたブラインドジョークだなぁ》

そのような言葉とともに、この写真をアップしたのは、石井健介さん(43)。

もともとアパレル関係の仕事をしていましたが、6年前のある朝を境に、「多発性硬化症」という脳の神経が炎症を起こす病気で、突如として、視力のほとんどを失った男性です。

今回石井さんがアップした写真は、ある市役所の前で撮影したもの。「トリックアート」と言われている通り、「点字ブロック」の凹凸が途中からなくなり、黄色い「絵」のようになってしまっていることがわかります。

「僕は弱視なので点字ブロックがうっすらわかるんですが、白杖で触るとなかった。急に点字ブロックがなくなったね、と思って一緒にいた知人にいたら『描いてあるよ』と言われて……。本当にトリックアートみたいでした」

「思わず笑ってしまって、ブラインドジョークという言葉を使って投稿しました。視覚障害者にしかわからないある種シニカルな笑いを、風刺に近い方法で伝えてみたんです。『これ面白くない?』の先に問題の本質が見えるかなって」

石井さんは知人といたからこそ、「笑い話」で済んだともいいますが、「当事者でも状況が違えばジョークでは済まないことにもなってしまう」と語ります。道に迷ったり、道路に飛び出してしまったりする危険もあるからです。

なぜ、こんなことが?

この投稿は、Twitter上で1万6000以上のいいねを集めるなど、大きな反響を集めました。なかには「これは酷い」「自治体の名前を出すべき」「もはや狂気」などという反応もありました。

「少しいじわるな言い方をしてみれば、怒ってる人は普段からそんなに点字ブロックのこと、見てくれているのかな、と思ったりもして(笑)僕自身も、目が見えていたころはまったく意識ができていませんでしたから……」

「どこの町かを特定しようとする人もいました。でも、ここはとっても視覚障害者に優しいところで、この一部分をとって否定してもらいたくないなと思っていたんです。なので、投稿ではあえて特定されないように誤魔化しています」

「おかしいじゃないか、と糾弾したいわけではなく、今回のツイートをきっかけに、多くの人が問題に気づいてくれて、おかしいねって思ってくれていることが大きな前進だと思っているんです」

とはいえ、なぜ、このようなことが起きてしまったのでしょうか。BuzzFeed Newsが当該自治体に取材をしたところ、もともと、熱で溶ける樹脂を固めて作る「溶融式」というタイプだった点字ブロックの凹凸が、経年劣化で削れてしまった状況であることがわかりました。

周辺部分だけ先に貼り替えられていたため、この部分だけが「絵」のようになっていたといいます。石井さんの知人を通して市にも状況が伝わり、近いうちに全体を貼り替えることになりました。

本当に伝えたかったこと

石井さんは、視覚障害者にとって、こういった出来事は日常茶飯事だとも語ります。弱視の人には見えにくい色になっていたり、辿っていた点字ブロックが全く違う場所につながっていたり……。

そのほかにも放置自転車や、砂などの汚れ、そして最近多い歩きスマホの人たち。ブロックの貼りかただけではない、さまざまな問題に直面します。

都内に出れば、誰かとぶつからない日はありません。手を差し伸べてくれる人もたくさんいる一方で、ぶつかって何も言わずに立ち去る人がほとんど、とも。

こうした景色は、点字ブロックと同じように、見える人にはなかなか「見えない」ものです。反響を集めたのち、石井さんはこのように改めてツイートしました。

《白杖を使って街を歩くと見えている人が見落としてしまいがちな景色が見えてくるんだよ!ということをお伝えできたら嬉しいです。そして普段歩く街の足元に視線を落としてもらえたらいいな》

もともと自らも「目が見える」側に生まれ、暮らしていたからこそ。「違い」に気が付くことの大切さを、こう言葉にしてくれました。

「いつも歩いているところでも、立場が変われば、いままでと違ったふうに見えることもあるし、気づくこともあると思うんです。それを少しでも伝えることができればいいなって。窮屈になりすぎず、笑いなんかの余白もあるなかで、少しずつ。最初のステップって、気づくだけでいいはずだから」