「展示が破壊された」トリエンナーレで展示中止になった作家の思い

    あいちトリエンナーレ2019「表現の不自由展・その後」が中止になったことを受け、造形作品「群馬県朝鮮人強制連行追悼碑」を展示していたアーティスト・白川昌生さんに「表現の自由」に対する思いを聞いた。

    抗議の電話やテロ予告により中止されたあいちトリエンナーレの企画展「表現の不自由展・その後」。

    自らの作品展示が途中で取りやめとなった出展者は、どのような思いを抱えているのか。

    「いまの日本の政治、社会的な風潮の中では『表現の自由』は存在しないのかもしれません。戦前にそうであったような、思想統制、表現の禁止などが行われた状況に戻っていると思いました」

    そう語るのは、群馬県前橋市のアーティスト・白川昌生さんだ。

    白川さんが「表現の不自由展」に展示していたのは、造形作品「群馬県朝鮮人強制連行追悼碑」。

    2017年4月に、群馬県立近代美術館の企画展に展示されるはずだったが、開会当日の朝になって撤去された作品だ。

    県立公園「群馬の森」に実際にある、「記憶反省そして友好」と名づけられた朝鮮・韓国人の強制連行犠牲者の追悼碑をモチーフにしたもの。

    県が立ち退きを求め、設置者と裁判中だ。美術館側はこうした係争が起きていることを理由に、白川さんの作品が「中立ではない」と判断された。

    BuzzFeed Newsが撤去当時、白川さんに取材をした際には、「作品には、県の言うような『追悼碑の撤去に反対』というメッセージを込めているわけではありません。公共の彫刻が抱えている課題を伝えたかった」と話していた。

    「前例」をつくらないために

    白川さんによると、津田さんから出展を依頼するメールがあったのは、今年4月。「不自由展にとって必要な作品であるから出してほしいということだった」ために了承したという。

    中止になったことを知ったのは、8月4日の新聞記者から電話だった。さらにその翌日の深夜、展示中止の説明を記した津田さんのコメント付きのメールが、学芸員から届いたという。

    「このような状況を事前に想像していましたが、3日しか耐えられなかったということに失望しました。せめて1週間くらい頑張れるのではと思っていましたので。失望と同時に現場は、大変な状態に追い込まれているのだろうと思いました」

    白川さんはこうも語る。

    「津田さんの説明では、テロ予告などの妨害を防ぎきれなかったというものでした。ガソリンを巻くぞと言う脅しが、彼らに展示の断念を決めさせたということです。政治的な考えを持った人たちが、いろいろな手段で展示の破壊を実行したのだと思います」

    「展示は中止でも、津田さんの言っていた議論の場がこれからできてくるのではと思いました。それがなければ、完全に政治的なテロ予告に敗れて閉鎖したという前例、簡単に展覧会など潰せるという前例ができただけになってしまうのではないでしょうか」

    「戦いを続けて行く」

    8月6日、あいちトリエンナーレに出展するアーティスト83人が抗議声明を発表した。

    声明でアーティストたちは「作品を見守る関係者、そして観客の心身の安全が確保されることは絶対の条件になります。その上で『表現の不自由展・その後』の展示は継続されるべきであった」との強い姿勢を示した。

    また「一部の政治家による、展示や上映、公演への暴力的な介入、そして緊急対応としての閉鎖へと追い込んでいくような脅迫と恫喝に、私たちは強く反対し抗議します」とし、今後も議論を続けていく重要性を強調した。

    この署名にも名前を連ねている白川さん。その作品は、閉鎖された空間に閉ざされたままだ。

    「作家としては『表現の自由』を獲得していく戦いを続けて行くつもりです。戦い、と言っても持続してやるべき息の長い地味な活動なので、パフォーマンス的にやることばかりではないと思っています。 来年展覧会をやるときに、これらの問題につながる作品をつくることがあるかもしれません」

    今後は津田さんなどが議論の場などをつくっていくのか見届けるとともに、ほかの作家とも連携しながら動いていきたいという。