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離乳食は、早く始める? 遅らせる?

食物アレルギー予防の観点から専門医が解説します。

離乳食、いつから開始していますか?

私は前線で働く小児科医です。アレルギー専門医でもあるためか、私の外来にはアレルギーに悩む患者さんが連日受診されます。特に、食物アレルギーを心配されて受診される方が多くなっています。

アレルギー疾患に関する3歳児全都調査(2014年度)報告書によると、東京都における乳児の食物アレルギーのお子さんは右肩上がりに増えてきているという調査結果があり、そのことを反映しているのでしょう(図1) 。

そして、生後半年以降の赤ちゃんと受診された保護者さんに、「いつから離乳食を開始しましたか?」とお尋ねすると、「まだ全然はじめていません」という反応が少なからずあります。2015年の厚労省の調査では、年々離乳食の開始時期が遅くなっていると報告されており(図2) 、納得できる反応でしょう。

日本の離乳食開始時期は早い?遅い?

さて、「海外では離乳食の開始時期は遅くなっていて日本では早い」という話をネットで見かけます。海外では離乳食導入が遅くなっているというのは確かなのでしょうか?

オーストラリアで行われた、生まれた赤ちゃんを登録して長期間経過を追っていくという研究(出生コホート研究といいます)で、2007~2009年に参加した赤ちゃんと、2009~2011年に参加した赤ちゃんで離乳食開始時期を比較した報告があります。

すると、生後4か月からの離乳食導入は増えてきており、生後6か月での離乳食導入は減っていたそうです。離乳食開始はむしろ早くなってきている地域もあると言えるでしょう。

この理由として、2000年に米国小児科学会で提案されていた「アレルギー予防のために離乳食を遅らせる」という方針が2008年に撤回されたからとされており、本邦での離乳食時期が遅くなったのは、離乳食の開始時期の記載が「生後5ヶ月になったころ」から「生後5、6ヶ月ころ」に変更されたことが理由だろうとされています。

離乳食の開始時期に関し、保護者だけでなく医療者にも混乱があるように見えます。そこで、アレルギー予防の視点からみた、離乳食の開始時期に関してお話ししたいと思います。

食物アレルギーの悪化・改善を説明する重要な仮説

食物アレルギーの発症/悪化もしくは予防/改善に対し、2008年に有力な仮説が提唱され、教科書的な事実になっています。

二重抗原曝露仮説(にじゅうこうげんばくろかせつ)という考え方です。

この仮説では、ふたつのルートでアレルギーを捉えています。

皮膚に付着したたんぱく質に対してアレルギーを獲得するという「経皮感作

皮膚からたんぱく質が体内に入ることでアレルギーが悪化するという「経皮感作」が脚光をあびるようになったのは、ピーナッツオイルを塗っている赤ちゃんが高率にピーナッツアレルギーを発症しているという疫学的な研究結果が英国のグループから発表されてからです。

さらに、ハウスダスト内のピーナッツたんぱく質量が多いほど、湿疹の重症度が高いほど、その家庭のお子さんはピーナッツアレルギーになりやすいことが発表され、経皮感作という考え方が実証されたのです。

こういうお話をすると、「いやいや、卵を食べても全然床には落としてないよ、ウチはきれいだよ。ホントかなあ」と疑問を呈する方もいます。

しかし、実際に家庭で卵を食べると48時間後には家庭内の他の部屋でも、ハウスダスト内の卵たんぱく質量が大きく増えるが証明されていますし、他のたんぱく質に関しても、魚46%、ピーナッツ41%、牛乳39%がハウスダスト内から検出された報告もあります。

そして、湿疹が早く発症して重症度が高いほど、その後の食物アレルギーを発症しやすくなるということもわかってきていて、最近では、湿疹があるからこそアレルギーが悪化するという「経湿疹感作(けいしっしんかんさ)」が提唱されてきています。

事件(湿疹)のおこっている場所にいるたんぱく質を悪いやつだと免疫が認識しやすいというとわかりやすいでしょうか。

なお、新生児期から保湿剤を定期的に使用するとアトピー性皮膚炎皮膚のトラブルが減ることはすでに明らかになってきています。

ただし保湿剤のみで食物アレルギーまで予防できるかどうかはまだはっきりしていないのが現状で、今後、現在進行中の大規模研究の結果で明らかになるのではないかと期待されています。

消化管から入ってきたたんぱく質を受け入れる方に働く「経口免疫寛容

たんぱく質が口から入って消化管に達するとアレルギーが改善されるという「経口免疫寛容」に関しても、疫学的な研究から始まりました。

イスラエル在住の児童より、英国在住の児童のピーナッツアレルギーが10倍多いことがわかり、その理由として、英国と比較するとイスラエルではピーナッツの離乳食への導入が早いからと推定されました。

そして、実際に、生後4~10ヶ月でピーナッツを離乳食に導入する「リープスタディ」という研究は、5歳時点でのピーナッツアレルギーを予防することを明らかにし、経口免疫寛容が実際に起こりうることを証明したのです。

早く卵を開始して、危険はないでしょうか?

そうはいっても、アレルギーになりやすい食物を乳児期にはじめることを心配される方も多いでしょう。

そこで、乳児で最も多い卵アレルギーの予防に関し、2017年に日本小児アレルギー学会から「鶏卵アレルギー発症予防に関する提言」が、提唱されました。

この提言は、日本で実施された「プチスタディ」という研究が元になっています。

プチスタディは、生後6ヶ月から微量の加熱された全卵粉末を食べ続けると、1歳時点での卵アレルギーの発症リスクが5分の1になると報告しています。しかも、最初卵を食べた時の症状は、カボチャ粉末を食べはじめる場合と差がなく、安全であることも示されました。

では、これは無条件に受け入れられる方法でしょうか?

実は、2013年以降に、卵を同じような時期に開始するという研究結果はいくつか海外からも報告されていて、多くが失敗に終わりました。

特に2013年に行われた「スタースタディ」では、高率にアレルギー症状を起こしたために試験中止となっており、このことからも、早期に卵を開始するのはリスクもあることがわかります。卵を早期に開始するためには条件を整える必要があるのです。

そこで、「鶏卵アレルギー発症予防に関する提言」では、いくつかの条件が示されています。

まず、アトピー性皮膚炎がある場合は、スキンケアやステロイド外用薬を用いて皮膚を生後6か月になるまでに安定させます。

そして、最初に食べる卵は、加熱卵を0.2g(ゆで卵白として大豆1個程度の大きさ)相当で始めます。そして、現実的な摂取方法として、以下のような方法が紹介されています。

現実的には、摂取開始時には「固ゆで卵黄」や「できる限りよく加熱したいり卵」を使い、「ごはん粒の 10 分の1程度の大きさ」などと表現する程度が目安と考えられます。

「鶏卵アレルギー発症予防に関する提言」の解説“から引用。

すなわち、

  1. できる限り皮膚をよくしてから開始すること。
  2. 十分に加熱された微量の卵で開始すること。


この2点が安全に開始するために重要になるということです。もちろん、場合によっては医師の指導が必要になるでしょう。

なお、ステロイド外用薬の使用や、プロアクティブ治療に関しては、上岡なぎさ先生の「アトピー治療 ステロイドって怖くないの?皮膚科の常識・非常識」を参考いただき、医師の指導を受けることをお勧めします。

この、卵の離乳食への早期導入に関しての提言は、世界に先駆けての画期的なものといえます。

一方、ピーナッツに関してはすでに、日本も含む各国から共同声明が発表されており、早期開始が推奨されています。

ただし、粒のピーナッツを乳児期に摂取することは気管支に入ってしまった場合にとても危険ですので、ピーナッツバターなどを離乳食に混ぜるなどがよいとしています。

早く始めるほど良いのでしょうか?

「WHO(世界保健機関)は、アレルギー予防のために生後6ヶ月以降の離乳食開始を推奨している」というお話を患者さんからお聞きしたことがあります。

しかし、実際に原文を紐解いてみると、WHOは、「遅くとも」生後6ヶ月までの離乳食開始を推奨しているのであって、しかも清潔な水を入手しにくい発展途上国における感染への配慮にための推奨であり、食物アレルギーの懸念からではないと読むことができます。

さて、「離乳食の”早期”開始」といっても、いくつかのパターンが考えられます。例えば、生後3ヶ月にはじめるのか、生後5~6ヶ月にはじめるのかでもイメージはかなり異なります。

この点に関しては、生後4ヶ月未満から肥満のリスクが高くなるという研究結果が報告されていますし、先にお話したリープスタディでは、生後4ヶ月から開始するより、それ以降から開始したほうがピーナッツアレルギー予防効果が高いとされており、現在のところ、離乳食は生後5~6ヶ月に開始するのが適切とまとめられるでしょう。

早くはじめると、他の食物アレルギーも予防できますか?

最近、リープスタディに関する報告から、ピーナッツを離乳食に早期導入してもピーナッツアレルギー以外の予防には影響しないということが示されています。

面倒なことですが、それぞれの食物に関して個別に考えていく必要があるようです。

そして、これまでの研究結果で、早めに離乳食に導入してアレルギーを予防できると証明されたのは卵とピーナッツに限られています。

例えば、卵の次に多い牛乳に関しては、少し状況が異なります。牛乳アレルギーは、むしろ生後4~6ヶ月前後に発症することが多く、生後14日以内に人工栄養を開始すると牛乳アレルギーが少ないという報告があります。

最近、離乳食の導入のバリエーションを早めに多くしたほうが食物アレルギーのリスクは低くなるという報告も見られるようになってきています。今後、他の食品に関しても徐々に明らかになってくることでしょう。

なお、低アレルゲンミルク(加水分解乳)がその後のアレルギー疾患発症のリスクを減らすという報告が過去ありましたがあまり証拠レベルが高い研究ではありませんでした。最近の報告では発症前から予防的に低アレルゲンミルクを飲んでもその後のアレルギー疾患を減らさないのではと結論づけられています。

どちらにせよ、できれば生まれてから早めにスキンケアを始めて皮膚の炎症があるならば早めに改善させ、場合によっては専門医に離乳食の相談をしていくのが良いと思います。自己判断にはリスクがあることはこれまでの経緯でご理解いただけたかと思います。

離乳食開始を遅らせたのは、間違いだったのでしょうか?

さて、こういったお話をすると、保護者さんが「良かれと思って除去をして、かえって食物アレルギーにしてしまったのではないか」と思われるかもしれないという危惧を私は持っています。そこで、別の研究結果もご紹介させてください。

カナダのコホート試験に参加したお母さんとお子さんに関し、お母さんが授乳中にピーナッツを食べているかどうか、お子さんが1歳までにピーナッツを開始しているかどうかで4つのグループに分け、どのグループが最もピーナッツアレルギーを発症したかを比較した研究です。

まず、お子さんが一番ピーナッツアレルギーを発症しなかったのは、授乳中にお母さんがピーナッツを食べていて、お子さんも1歳までにピーナッツを食べていたグループでした。

ここまではピーナッツの早期開始を示したリープスタディの結果と一致します。

では、2番目に少なかったのはどのグループだったでしょう?

それは、お母さんが授乳中にピーナッツを食べず、お子さんも1歳までピーナッツを食べないグループだったのです。

この研究は、皮膚に関しては特別な介入を指示していません。すなわち、皮膚からアレルギーが悪化するという経皮感作の概念が不十分だった時代は、授乳中の除去や離乳食開始を遅らせることも次善の策だったのかもしれないのです。

「早期離乳食開始による食物アレルギーの予防」は、経皮感作と経口免疫寛容の両輪が明らかになってきたからこそ提唱できるようになった方法と言えるでしょう。すなわち、皮膚からアレルギーが悪化するという情報がないと、食べるだけでは片輪走行になって危険と考えられます。

最後に

最後に、「食物アレルギー診療ガイドライン2016」の「予知と予防」の項から、現在標準的と考えられる食物アレルギー予防の考え方のまとめをご紹介して、この原稿を終わりにしたいと思います。

1,食物アレルギーの発症リスクに影響する因子として、家族歴、遺伝的素因、皮膚バリア機能、出生季節などが検討されているが、中でもアトピー性皮膚炎の存在が重要である。

2,食物アレルギーの発症予防のため、妊娠中や授乳中に母親が特定の食物を除去することは、効果が否定されている上に母親の栄養状態に対して有害であり、推奨されない。

3,ハイリスク乳児に対して特定の食物の摂取開始時期を遅らせることは、発症リスクを低下させることにはつながらず、推奨されない。

4,完全母乳栄養がアレルギー疾患の予防という点において優れているという十分なエビデンスはない。

5,ハイリスク乳児への新生児期からの保湿スキンケアがアトピー性皮膚炎発症を予防する可能性が報告されたが、食物アレルギーの発症予防効果は証明されていない。


【堀向健太(ほりむかい・けんた)】東京慈恵会医科大学葛飾医療センター小児科助教

1998年、鳥取大学医学部医学科卒業。鳥取大学医学部附属病院および関連病院での勤務を経て、2007年、国立成育医療センター(現国立成育医療研究センター)アレルギー科、2012年から現職。

日本小児科学会専門医。日本アレルギー学会専門医・指導医。

2014年、米国アレルギー臨床免疫学会雑誌に、世界初の保湿剤によるアトピー性皮膚炎発症予防に関する介入研究を発表。

2016年、ブログ「小児アレルギー科医の備忘録」を開設し出典の明らかな医学情報の発信を続けている。