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子どものインフルエンザワクチン、受けた方がいいの?【前編】

子どものインフルエンザワクチンは受けた方がいいのでしょうか? 今年も間もなくインフルエンザのシーズンです。2回に分けて最新の情報をもとに考えていきましょう。

今年もインフルエンザの流行期に入ろうとしています。

Perkmeup / Getty Images

インフルエンザの季節を前に、子どもにワクチンをうつべきか悩んでいる親御さんは多いのではないでしょうか

今年11月16日に発表された東京都の2018-2019年シーズンにおけるインフルエンザ情報(東京都感染症情報センター)でも、感染者は右肩上がりで、おそらく来年2月頃にはピークを迎えるのではと予想されます。

東京都感染症情報センターホームページ / Via idsc.tokyo-eiken.go.jp

赤い線が今シーズン(2018〜2019年シーズン)の流行状況です。

インフルエンザは一般的な風邪(普通感冒といいます)より症状が強く、肺炎や中耳炎といった合併症が多く、さらにインフルエンザ脳炎といった重い合併症も起こることがあります。そのため私は、自分自身にはもちろん家族や患者さんにもおすすめしています。

インフルエンザワクチンの益が害を上回ると考えているからです。

一般小児科医である私にも、インフルエンザワクチンに関する多くのご質問を受けます。

「去年、ワクチンしたのにかかったし、効かないんじゃないの?」

「海外はワクチンを使わないって何かで読んだけど?」

「毎年型がかわるのに、ワクチンの意味があるの?」

「インフルエンザの新しい薬がでたみたいだし、ワクチンはいらないですよね?」

「集団接種も意味なかったんでしょ?」

そういったご質問です。

はたして、どこまで本当なのでしょうか。

そこで今回は2回にわたって、インフルエンザワクチンに関連した最近の研究結果をご紹介したいと思います。

第1回である今回は、インフルエンザそのもののリスクはどれくらいあるのか、そして、インフルエンザワクチンでそのリスクをどれくらい下げられるのかなどを考えていきます。

シーズン中、インフルエンザにかかる確率、合併症はどれくらいでしょうか?

あるシーズンにインフルエンザに罹る可能性は、どれくらいあるのでしょうか?

インフルエンザの患者さん13,329人(32論文)をまとめ信頼度の高い方法で検討した結果が報告されています(※1)

すると、予防接種をしていない場合は、あるシーズンに子どもの22.5%、大人の10.7%がインフルエンザに罹ると推定されています。

インフルエンザワクチン接種がなければ、子ども約5人に1人、大人で約10人に1人が毎年インフルエンザに感染していると予想できるということですね(図)。結構多いと思われませんか?

Kenta Horimukai for BuzzFeed

シーズン中、子どもの方が大人よりインフルエンザにかかりやすい

そして、英国で行われた141293人における検討では、インフルエンザに罹った時の肺炎・気管支炎・中耳炎といった合併症のリスクは3.4倍高く、特に小児でのリスクが高かったと報告されています。

さらにインフルエンザの流行期には、『インフルエンザ脳炎/脳症』に注意を払う必要性がでてきます。医学が進歩しても、経過が決して良くないからです。最近、オーストラリアにおいて、14歳以下の子どものインフルエンザ脳炎・脳症を3シーズンにわたり検討し報告されました。

すると、インフルエンザに関連した脳炎/脳症の年間発生率は、100万人中平均2.8人と推定されました。数は決して多くはないとはいえ、その半数は亡くなるか、もしくはけいれんや視力障害などの神経的な後遺症が残りました。

そして、統計的な有意差はなかったものの脳炎/脳症になった子どものなかにインフルエンザワクチンをしている例がゼロだったことは注目するべきと述べられています。

「世界ではインフルエンザワクチンを推奨していない」は本当でしょうか?

ネットで時々、「WHO(世界保健機関)ではインフルエンザワクチンを推奨していない」といった論調をみかけることがあります。しかし、それらの記載にはまず、出典が示されていません。

事実としては、WHOは、インフルエンザワクチンをはっきりと推奨しており、そのページの冒頭でこのように述べています。

「Vaccination is the most effective way to prevent infection and severe outcomes caused by influenza viruses (予防接種は、インフルエンザウイルスに起因する感染症や重大な転帰を防ぐ最も効果的な方法です)」

インフルエンザワクチンは、インフルエンザの重症化を防ぐ方法として、世界的なスタンダードといえるでしょう。

子どもにインフルエンザワクチンは有効でしょうか?

16歳未満に対するインフルエンザワクチンの効果をみた研究結果を集め20万人以上の子どものデータをまとめて統計をおこなった、質の高い検討結果が発表されています(※3)。

すると、インフルエンザワクチン接種をしたグループは、プラセボ(見た目ではわからないようにしたワクチン成分の入っていない薬剤のことで、偽薬といいます)グループもしくはワクチン接種をしないグループと比較して、インフルエンザのリスクを30%から11%に明らかに低下させたという結果でした。

インフルエンザワクチンは発症をゼロにするというワクチンではありません。また、シーズンにより有効性に差があるという問題がありますが、効果は間違いなくあるといえます。

乳児へのインフルエンザワクチンは有効でしょうか?

乳児へのインフルエンザワクチンの有効性を疑問視される方もいらっしゃいますが、最近、信頼度の高い研究手法である研究結果が報告されています。

バングラデシュの生後6ヶ月~2歳未満の乳児に対し、インフルエンザワクチンと不活化ポリオワクチンにランダムに分けて有効性を大規模に評価されました(ランダム化比較試験といいます)。

その結果、インフルエンザワクチンの有効性は、31%と推定され、明らかな効果があったとされています。2歳以降と比べ2歳未満での有効性はやや効果は低いのですが、効果が明らかといえましょう(図)。

Kenta Horimukai for BuzzFeed

2歳未満の乳児にもインフルエンザワクチンは有効という研究報告がある

一方で、生後6ヶ月未満の赤ちゃんに対しては予防接種ができません。この場合の予防策として、いくつかの研究結果があります。

例えば、一緒に住んでいる祖父母に予防接種をすると、生後6ヶ月未満の赤ちゃんの入院リスクが約5分の1(0.22倍)に減ったという報告がありますし、妊娠中のお母さんにインフルエンザワクチンを行うと、生まれてきたお子さんのインフルエンザのリスクが減るという報告があります。

家族からの感染を減らすことは、ワクチンが出来ない生後6ヶ月未満のお子さんのリスクを減らす方法になると考えることができます。周囲の予防接種により、その中の免疫が弱いひとを守るという考え方はコクーン(カイコの繭の意味)戦略と呼ばれています(図)。

Kenta Horimukai for BuzzFeed

ワクチンがうてない生後半年未満の赤ちゃんは、周囲が予防接種をすることで感染から守る戦略が勧められる

第2回で「集団免疫」に関してお話ししますが、それにも関係してきますので覚えていただければと思います。

インフルエンザワクチンは、子どもの入院や亡くなるリスクを減らすか?

「インフルエンザワクチンが重症化を減らす」とは、ネット上でもよく見かけますが、重症化と一言でいっても、目標とする結果も色々あるでしょう。

そこで、入院リスクと亡くなるリスクを減らすのかを検討した報告をそれぞれご紹介します。

カナダのオンタリオ州で、2010~11年から2013~14年にわたり、3回のインフルエンザシーズンにおける子どものインフルエンザによる入院リスクを検討した報告があります。インフルエンザ検査陽性1280人に対し、陰性8702人という大規模な報告です。

すると、生後6ヶ月~6歳未満のお子さんにおいてインフルエンザによる入院リスクは、きちんとインフルエンザワクチン接種をしたグループでは60低くなったと推定されています。

また、米国における3つの大規模な集団(コホートといいます)をまとめて、インフルエンザワクチンが小児のインフルエンザによる死亡リスクを減らすかという検討をした報告があります。

その結果、インフルエンザワクチンによって亡くなるお子さんのリスクは、65%低下すると推定されています。

「インフルエンザワクチンがインフルエンザの重症化を減らす」ということは、入院リスクからも、亡くなるリスクからも、効果が明らかであるといえるでしょう。

前年にインフルエンザワクチンを2回接種していれば今年は1回接種でよいでしょうか?

日本でのインフルエンザワクチンは、13歳未満の子どもには2回接種になっています。

一方、米国では9歳以上は毎年1回、生後6ヶ月~8歳までは2回接種ではあるものの前年に2回接種している場合には1回接種でよいとしています。多くの国は米国と同様の方針をとっていますが、どちらがより正しい方法なのでしょうか?

少し難しい話になりますのでご了承ください。

インフルエンザ株が3種類はいっているインフルエンザ3価ワクチン(例えばA型2種類、B型1種類)の報告では、前シーズンワクチンをしても、今シーズンのワクチン接種後のインフルエンザB型のへ感染を防ぐ免疫の力である「抗体」の上がり方は少ないという報告があります。

ただ、現在使用されているのは4価ワクチン(現在日本で使用されているのも4価です)です。そして、4価ワクチンの効果が最近報告されました。

まず、チェコ共和国、ポーランド、スペイン、英国におけるあるシーズンで、生後17ヶ月〜4歳以下の子どもに対して、インフルエンザ4価ワクチンを接種するグループと接種しないグループをランダムにわけてインフルエンザ4価ワクチンの効果を検討しました。

そして、翌シーズンに、各グループにおけるワクチン接種後の抗体がどれくらい上がるかを比較したのです。

すると、前シーズンに4価ワクチン2回接種をしておいたグループでは、免疫の記憶が残っており、今シーズンで1回接種だけでも抗体は良く上昇したと報告されています。

ただし、この結果は、あくまで抗体の上昇程度をみているだけなので、実際のワクチンの効果はまた別途検討する必要があります。

日本の方法と海外の方法と、どちらが本当に正しいのかどうかは、この研究結果からは導くことはできません。すなわち、現状では日本の推奨通りでも、海外での方法でも、どちらが正しいとは言えないようだと考えられます。

さて、第1回は、インフルエンザにどれくらい罹る可能性があるか、子どもに対しても乳児に対してもワクチンは効果があること、入院や亡くなるリスクを減らすことなどをお話ししました。

インフルエンザワクチンの有効性に関し、効果は結構あるなあと思う方もいらっしゃれば、そうでもないなと感じる方もいらっしゃるでしょう。これらの知識を持つことで皆さんの選択の参考になれば嬉しく思います。

私は、現在のところ、インフルエンザワクチンは発症予防効果は、やや不満足ながら重症化を防ぐという事は確かだろうと、これらの検討結果から考えています。そのため、インフルエンザワクチンを推奨する立場です。

さらに次回は、卵アレルギーがある場合の考え方、過去行われていた集団接種の話題、鼻から使う生ワクチンなどのお話をしたいと思っています。

※1. 東京都の2018〜2019年シーズンにおけるインフルエンザ情報

※2.複数の研究結果をまとめてデータの偏りを限りなく除き質の高い研究データを分析する調査手法をシステマティックレビューといいます。

※3.システマティックレビューと同様に、複数の研究結果を検討し、データをまとめて統計解析を行う研究手法をメタアナリシスといいます。

子どものインフルエンザワクチン、受けた方がいいの?【後編】


【堀向健太(ほりむかい・けんた)】東京慈恵会医科大学葛飾医療センター小児科助教

1998年、鳥取大学医学部医学科卒業。鳥取大学医学部附属病院および関連病院での勤務を経て、2007年、国立成育医療センター(現国立成育医療研究センター)アレルギー科、2012年から現職。

日本小児科学会専門医。日本アレルギー学会専門医・指導医。

2014年、米国アレルギー臨床免疫学会雑誌に、世界初の保湿剤によるアトピー性皮膚炎発症予防に関する介入研究を発表。

2016年、ブログ「小児アレルギー科医の備忘録」を開設し出典の明らかな医学情報の発信を続けている。