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アレルギーは予防できますか?

秋冬生まれのお子さんは、アレルギーを発症しやすいことがわかっています。

私は乳児健診や診療で、乳児期の湿疹のお子さんを診療することが多い前線の小児科医のひとりです。

そして、特に1ヶ月健診では、「この湿疹はアトピー性皮膚炎につながりませんか?」という質問を良く受けます。

1ヶ月健診において、育児経験のあるお母さんの9.6%、はじめて育児を行うお母さんの13.6%が、「湿疹」を心配されていたという報告があります(※1)。保護者さんにとっての大きな関心事なのでしょう。

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秋冬生まれの子どもはアトピー性皮膚炎や食物アレルギーの発症が多くなります

さらに、秋冬生まれのお子さんにアトピー性皮膚炎食物アレルギーの発症が多いことが報告されています。

秋冬生まれの子どもにアレルギー疾患が多い理由は十分にはわかっていませんが、日照時間が短くなることからビタミンDを体内で作り出す量が少なくなったり、皮脂が少なくなる生後数ヶ月の時期に乾燥しやすい冬期を過ごしたりするために、アトピー性皮膚炎が発症しやすいことが考えられます。

ではなぜ、アトピー性皮膚炎の発症がふえると食物アレルギーのリスクもあがるのでしょうか?

そういった、これからの心配ごとや疑問を減らすためにも、現在わかっているアレルギーの発症予防に関して書いてみたいと思います。

「アトピーマーチ」ってなんですか?

1970年代に同愛記念病院の馬場実先生は、小児がかかるアレルギーに関連するはじめての病気のうち、アトピー性皮膚炎が72%だったとし、その後、他のアレルギー疾患がつぎつぎとマーチ(行進曲)のように発症してくる現象を報告しました(※2)。

このような、同じ子どもにアレルギー疾患が次々と連鎖して発症してくる様子を「アトピーマーチ」といいます。

このような現象は、各国の研究で同様の結果が示されており、乳児期のアトピー性皮膚炎や湿疹が、その後のアレルギー疾患のリスクになることがわかってきています。

アトピーマーチがアトピー性皮膚炎から始まる理由は、2008年に発表された二重抗原曝露仮説(にじゅうこうげんばくろかせつ)」で説明することができます。この二重抗原曝露仮説に関しては、以前バズフィードでもご紹介(「離乳食は、早く始める? 遅らせる?」)いたしました。

繰り返しになりますが、「二重抗原曝露仮説」とは、

  1. 湿疹のある皮膚に付着したたんぱく質はアレルギーを悪化させる「経皮感作」
  2. 消化管に入ってきたたんぱく質はアレルギーを改善させる「経口免疫寛容」


の2つのルートでアレルギーの悪化と改善をとらえます。

Kenta Horimukai for BuzzFeed

湿疹で荒れた皮膚から入ったたんぱく質はアレルギーを悪化させ、口から入ったたんぱく質はアレルギーを改善させる

そして、「皮膚そのもの」がアレルギーを悪化させるというより、「湿疹」がアレルギーを悪化させるということも証明されてきていることをやはり以前バズフィードでもご紹介いたしました。

ある経皮感作に関する報告をあげてみましょう。

英国はピーナッツアレルギーがとても多い地域です。そのため、その原因をさぐるための調査が行われました。

そうすると、ピーナッツアレルギーのお子さんの実に91%がピーナッツの含まれたスキンケア製品を使用していることが報告されました。経皮感作が注目されるきっかけになりました。

Kenta Horimukai for BuzzFeed

ピーナッツアレルギーになった子どもの91%が、生後6か月までにピーナッツの含まれたスキンケア製品を使用していた

さらにその後、その家庭のハウスダスト中にピーナッツのたんぱく質が多く含まれているほど、しかも重症のアトピー性皮膚炎を発症しているほど、その家庭の子どもはピーナッツアレルギーを発症するリスクが高いことが報告され、「経皮感作」が証明されることになったのです。

アトピー性皮膚炎はとても多い皮膚の病気です。

アトピー性皮膚炎は、皮膚の炎症を起こす疾患では最もよくみられる病気です。我が国の小児におけるアトピー性皮膚炎の有症率は、生後4ヶ月で12.8%、1歳6ヶ月で9.8%とされています。

そのため、日常診療において「経皮感作」を通してアトピーマーチに発展するリスクが高い子どもを診療する機会は多いと考えられます。

どのようなアトピー性皮膚炎が、アトピーマーチに発展しやすいのでしょうか?

オーストラリアの乳児4453人に関し、アトピー性皮膚炎の重症度とその後の食物アレルギーの発症リスクを検討した研究があります。その結果、アトピー性皮膚炎が低年齢で発症し、重症の湿疹が持続すると食物アレルギーを発症するリスクが高くなるという結果が得られました。

Kenta Horimukai for BuzzFeed

幼くしてアトピー性皮膚炎を発症し、重症の湿疹を長引かせるほど他のアレルギーを発症するリスクが高まる

すなわち、アトピー性皮膚炎を低年齢で発症して症状が続いている子どもがアトピーマーチへ発展する可能性が高いと考えられます。特に経過に注意をはらう必要があるこどもといえるでしょう。

なお、「感作(かんさ)」とは、アレルギー反応を起こす抗体である「IgE抗体」がたくさん作られることと言い換えることが出来ます。つまり「感作」があるとはIgE抗体が増えてアレルゲン(アレルギーの原因となる物質)に対し過敏な状態になることと考えて下さい。

そのアレルギー体質を示すIgE抗体は、誰でも年齢が長じるにつれて高くなります。そして、IgE抗体量の増加は5歳から安定してきて10~13歳で増加しなくなってくるというパターンをとります。

しかし、アレルギー疾患を発症すると、正常のIgE抗体量の増加曲線のレールから大幅にはずれて上昇します。IgE抗体価の上昇パターンからアレルギー疾患が始まった時期を特定できるという報告もあり、どの年齢であっても、湿疹の発症がアレルギーを悪化させるスタート時点になり得るといえるでしょう。

皮膚の悪化がアトピーマーチを誘発する大きなルートである」という証拠(エビデンス)は増えているのです。

子どものアトピー性皮膚炎は自然に改善するから、経過をみるだけで良い?

一方で、小児期のアトピー性皮膚炎は自然に改善する可能性も十分にあります。

たとえば、台湾で生まれて2歳までにアトピー性皮膚炎を発症した子ども1404名が、その後いつ頃アトピー性皮膚炎が良くなったかを検討すると、10歳までに7割が改善していたそうです。アトピー性皮膚炎はもともと、自然に改善する可能性が十分あるのです。

では、「自然によくなるから、経過をみていてもよい」になるでしょうか?

最近、こんな結果が報告されました。

カナダで生まれた子ども2311人において、1歳時点での「感作」と「アトピー性皮膚炎」のどのような組み合わせが、3歳時でのアレルギー疾患の発症に関連するかが調査されました。

そうすると、1歳時点でのアトピー性皮膚炎は3歳でのアトピー性皮膚炎のリスクにはそれほど強い影響を及ぼしませんでしたが、1歳時点での「アトピー性皮膚炎」と「感作」が同時にある場合は、3歳時点でのぜんそくの発症リスクを5倍、食物アレルギーの発症リスクを15倍にしたという結果でした。

低年齢でのアトピー性皮膚炎の重症度や湿疹の期間を少なくすることは、経皮(経湿疹)感作のリスクを減らし、他のアレルギーの発症を低くするためにも重要だと私は考えています。

では、アトピー性皮膚炎を予防するには、どういった方法が有効でしょうか?

アトピー性皮膚炎のある子どもが食物アレルギーやダニなどの環境中のアレルゲンに感作されていることが多いこと、そして、一部のアトピー性皮膚炎に対し、食物除去やダニなどの環境整備が効果がある可能性が示されています。

しかし一方で、「予防として」妊娠中や授乳中に除去食をしたり、環境整備したりしてもアトピー性皮膚炎の予防には効果がないことが証明され、別のアプローチが必要になってきていました。

そんな中、2014年に日本から、新生児期から保湿剤をしっかり使用するとアトピー性皮膚炎の発症が大きく下がることが報告されました。

この研究はお父さんお母さんもしくはきょうだいに1人以上のアトピー性皮膚炎の方がいるハイリスクの赤ちゃん118人に対しておこなわれました。そして、保湿剤をしっかり塗るお子さんと、乾燥しているところのみワセリンを塗るというお子さんの二群に分け、生後32週(=約8ヶ月)まで観察し、アトピー性皮膚炎の発症リスクを比べたのです。

すると、保湿剤をしっかり塗ったお子さんの方がアトピー性皮膚炎の発症リスクが約3割低下したという結果が得られました。

Kenta Horimukai for BuzzFeed

保湿剤をしっかり塗った子どもの方がアトピー性皮膚炎を発症するリスクが低くなった

同様の検討は英米の合同チームでも実施され、やはり新生児期から保湿剤をしっかり使うとアトピー性皮膚炎の発症リスクを約半分にすると報告されました。

さらに最近、ハイリスクでない新生児に関しても日本から研究結果が報告され、保湿剤を定期的に使用すると生後3か月での皮膚トラブルやおむつ皮膚炎が減るという結果が得られています。

これらの研究結果から、新生児期から保湿剤を使用するというアトピー性皮膚炎や皮膚トラブルを減らす方法が普及してきています。

新生児期からスキンケアを指導している医療施設の医師からは、「最近、小児の重症のアトピー性皮膚炎を診る機会が減ってきている」という声もお聞きするようになりました。

新生児期から保湿剤をぬると、アトピーマーチも予防できますか?

最近オーストラリアから発表された、新生児期から80人の子どもに保湿剤を使用した研究では、1日2回、1回約6gの保湿剤を週5日以上きちんと使用した赤ちゃんのみ、感作を予防したと報告されています。

Kenta Horimukai for BuzzFeed

新生児期から保湿剤を塗ると、感作を予防できる

ただ今のところ、スキンケアのみでアトピーマーチのリスクである感作を減らし、さらに喘息や食物アレルギーを減らすかどうかは十分に明らかになっているとは言えません。

この原稿を書いている段階(2018年9月)では、現在進行中の大規模研究の結果を待っている状況です。おそらく、今後数年でそれらの研究結果が発表され、アトピーマーチの予防の方策も見えてくるのではないかと期待しています。

まず、できることを。

新生児期から保湿剤をしっかり使うと、アトピー性皮膚炎の発症や皮膚のトラブルを減らすことは間違いなさそうです。

ただし、その他のアレルギー疾患を予防する、すなわちアトピーマーチも直接予防できるかどうかまでは明らかではないともお話ししました。

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新生児の時から保湿剤をしっかり使うことがアレルギー予防の第一歩

しかし、保湿剤を塗ること自体は害も少ないと考えられますし、私はひろく推奨できる方法と考えています。

そこで、まず新生児期から保湿剤を使用するスキンケアをはじめ、それでも乳児期に湿疹を発症した場合は、スキンケア指導をきちんとされ慎重に経過を観察してくださる医師に診察していただくのが良いと私は考えています。

早めに湿疹を改善させることができれば、「改善して良かった」ですむでしょう。そして長く続きそうでも、よりよいタイミングで治療に介入できることになります。

そして、生後6ヶ月までに湿疹を改善させることができて安定したら、「鶏卵アレルギー予防に関する提言」に従うことで、卵アレルギー発症のリスクも減らせることが期待できます。

以前バズフィードでお話しした通り、その卵アレルギー予防には、条件があることがわかってきています。その条件の一つが「皮膚が安定していること」です。

「鶏卵アレルギー予防に関する提言」では、生後半年まで湿疹を発症していなければ、「授乳・離乳の支援ガイド」に従って卵を開始して良いとしていますので、湿疹を発症しなければ心配事も減らせるでしょう。

また最近、アレルギーの原因物質を少量ずつ口にすることで体を慣れさせていく舌下免疫療法が小児でも保険適応となり、すでに感作されている子どもに対しても、根治を目指せる可能性もでてきました。

アレルギー性鼻炎を発症している子どもに対し、舌下免疫療法を行ってぜんそく発症を予防しようとした試みは、今のところまだ不十分な結果ではあるものの、卵アレルギーの予防と同様、「条件」が見つかっていないだけかもしれません。

そしてさらに、さまざまな方面から、アレルギーを予防しようとする試みが始まっています。すでにアトピーマーチ予防に対する扉は開かれてきているといえるかもしれません。

さて、アレルギーの予防に関し、最近わかってきていることを、経皮感作とアレルギーマーチの視点からまとめてみました。

今、発症してもできることがあります。

ただ、最後に付け加えさせて下さい。

この内容を患者さんにお話しすると、「最初から知っていれば、スキンケアしていたのに。アトピーにさせてしまった」と後悔をされる方がいらっしゃいます。実は、今回の話は、そういうテーマではありません。

お子さんのアトピー性皮膚炎の治療のお手伝いをしてお子さんがよくなられたとき。

保護者さんに、「よくなりました。ありがとうございます。先生のお陰です」と言われることがあります。

その時に私は、「いえ、頑張ったのはご家族です。毎日、毎日、スキンケアを御願いして大変でしたね。私はいつもうるさかったと思います。

でも、それを実行されたのはご家族のお力です。ありがとうございます。お子さんが大人になったとき、胸を張って、お子さんにおっしゃって下さい。

”あなたを良くしたのは私だよ!”って。それが事実なんですから。

今、発症していても、皆さんにできることがあります。是非、信頼できる医師と協力して立ち向かって頂ければと思います。

この記事が、皆さんの参考になり、アレルギーに苦しむお子さんがひとりでも減ることを願っています。

まとめ

  • アトピーマーチは、おなじ子どもにアレルギー疾患が次々と連鎖して発症してくる様子を行進曲(マーチ)に例えている。
  • 乳児期のアトピー性皮膚炎は、早期に発症するほど、重症であるほど、症状が持続するほど、アトピーマーチにつながる可能性が高い。
  • 新生児期からの保湿剤の使用がアトピー性皮膚炎の発症リスクを低下させることが報告されているが、アトピーマーチを直接予防できるかどうかは証明されていない。
  • 一方、皮膚を早期に改善させ、早期に離乳食を開始することで食物アレルギーを予防できる可能性が示唆されており、積極的なアトピーマーチの阻止が研究されている。

※1)日本小児心身医学会雑誌 21(2): 240 -245 2012

※2) 馬場 実. アレルギー・免疫 2004; 11:736-43.

【堀向健太(ほりむかい・けんた)】東京慈恵会医科大学葛飾医療センター小児科助教

1998年、鳥取大学医学部医学科卒業。鳥取大学医学部附属病院および関連病院での勤務を経て、2007年、国立成育医療センター(現国立成育医療研究センター)アレルギー科、2012年から現職。

日本小児科学会専門医。日本アレルギー学会専門医・指導医。

2014年、米国アレルギー臨床免疫学会雑誌に、世界初の保湿剤によるアトピー性皮膚炎発症予防に関する介入研究を発表。

2016年、ブログ「小児アレルギー科医の備忘録」を開設し出典の明らかな医学情報の発信を続けている。