衆議院選挙が10月31日に控える中、選択的夫婦別姓と同性婚に賛成しない政治家を落選させる「ヤシノミ作戦」が展開されている。
ウェブサイトでは、それぞれに賛成しない候補者たちをリストアップ。「ヤシノミ候補」と名付けられたその候補者以外に投票するよう、有権者に呼びかける。
消極的な候補がヤシノミのように落ちれば、結果として国会に賛成議員が増える。そうやって、選択的夫婦別姓や同性婚を実現に近づけることを目指している。

ソフトウェア開発会社「サイボウズ」社長の青野慶久さんが個人活動として始めた。サイトにこう記している。
“夫婦同姓も素晴らしい。夫婦別姓も素晴らしい。異性婚も素晴らしい。同性婚も素晴らしい。ダメなのは、その選択肢を用意しようとしない政治家です”
青野さんは結婚する際、妻の姓を選んで婚姻届を提出。仕事では、旧姓の「青野」を通称として使っている。
青野さんはBuzzFeed Newsのインタビューに、こう語る。
「結婚した直後は、『俺が名前を変えてやったのに』と言ったこともありました。格好悪いですけどね。だって、姓を変える手続きのうっとおしさ、旧姓との使い分けの手間を考えると、愚痴を言いたくなりますよ」
「彼女にしても、別に僕の姓を変えさせたいわけじゃなかったんですよ。単に自分の姓を変えたくなかっただけなんです。自分の姓を変えないためには、相手を変えさせないといけない。妻も精神的なストレスがすごくありました」

選択的夫婦別姓が実現しないことは、姓を変えた人だけを苦しめるわけではない。姓を変えなかった人までも苦しめる可能性がある。そして、夫婦仲が悪くなる原因にもなり得る、と青野さんは言う。
「我が家は、姓の問題で夫婦仲が悪くなりました。離婚してしまう夫婦も何組か聞いています」
「母と父の不仲な様子を見る、間に挟まれた子どもの気持ちも考えると、早く実現しないといけないと思っています」
選択的夫婦別姓、国民の7割が賛成の結果に...

青野さんら4人は2018年、選択的夫婦別姓が選択できない戸籍法の規定は違憲だとして、国に損害賠償を求める訴訟を起こした。ところが、最高裁は2021年6月、青野さんら原告側の上告を退けた。
それによって、請求を棄却した一、二審判決が確定し、望まない結果となった。
しかし、青野さんは「メディアで取り上げられ、おかげさまで世論はだいぶ形成されてきた」と手応えを感じるという。
その自信の根拠の一つとなっているのが、早稲田大学の研究室と市民グループ「選択的夫婦別姓・全国陳情アクション」による2020年のアンケート結果だ。
アンケートは、全国の20〜50代の男女7千人を対象に選択的夫婦別姓制度について尋ねたもので、賛成が7割にのぼったという。
「国民の議論は十分熟してきました。反対理由に合理的なものがなく、懸念点が実はそんなに大したことじゃないこともわかってきました。だから、最後は立法だけなんですよね」
リストの大半は自民党、「岸田流の政治のために」

サイト上のリストを見ると、立憲民主党や日本維新の会などの候補者も載っているが、大半が自民党の候補者たちだ。
主要政党では、自民党だけが今回の衆院選で選択的夫婦別姓と同性婚の実現を公約に盛り込んでいない。
一方で、岸田文雄首相は自民党内の『選択的夫婦別氏制度を早期に実現する議員連盟』の呼びかけ人を務めた経験もある。
だからこそ、青野さんはヤシノミ作戦を「岸田流の政治のお手伝い」だと言う。
「自民党の議員たちと直接話をしていると、たいがい賛成になってきているのがわかります。野田聖子さんと河野太郎さんも明確に賛成していますし」
「岸田さんも実は賛成なのでしょうが、自民党の総裁になって、賛成するとはっきりと言いづらい状況になっているんだと思います。だから、岸田流の政治がやりやすいよう、環境を整えるお手伝いになればと思って、ヤシノミ作戦をやっているんです」

いずれも幸せなカップルを増やすのが目的なだけ
今回、なぜ同性婚もトピックとして挙げたのか。
「同性婚を加えたのは、近しいテーマだと思っているからです。結婚しようと思った時、名前を変えるか変えないか選べるようにしようというのと、異性が相手でもいいし、同性が相手でもいいよ、というのは似ています」
「結婚の選択肢を増やし、幸せなカップルを増やすのが目的なのですから」
「反対している議員がほぼ被っていることもわかったため、一緒に進めたほうがいいと判断しました」

候補者たちをリスト化したことで新たな気づきも得た。
2017年の衆院選の時には選択的夫婦別性に反対していたのに、今回、賛成に変わった候補者がいることがわかり、喜びを感じたそうだ。
「世論の動きを読んでいると思って、嬉しくなりました。少なくとも10人は賛成に変わったと認識しています」
「選択的夫婦別姓と同性婚は、理解が進めば、反対する理由がないとわかってくれると思うんですよ。選択的夫婦別姓の話を時間をかけてすると、『なんだそういうことか』と納得してくれる方を、僕はたくさん見てきたんです」
「あくまでも今ある形を残しながら、困ってる人のために選択肢を増やしましょうというだけなんですから。本当にもう一息だと思っています。時代は着実に変わってきました」