ジャーナリストの伊藤詩織さんが、元TBS記者の山口敬之さんから性行為を強要されたとして、慰謝料など1100万円の損害賠償を求めて東京地裁に起こした民事訴訟。その判決が12月18日にあり、山口さんの反訴を棄却し、彼に330万円の支払いを命じた。
伊藤さんが勝訴した形だ。では、裁判所は2人の主張をどう判断し、どういった根拠でこの判決を下したのか。主なポイントを箇条書きにした。
伊藤さんの主張に対して

伊藤さんは2017年9月、山口さんを相手取り、慰謝料など1100万円の損害賠償を求めて提訴した。主張は次のようなものだ。
2015年4月、当時、TBS・ワシントン支局長だった山口さんと就職相談のために会った。東京都内で食事をすると、2軒目の寿司屋で記憶を失い、痛みで目覚めた。
そして、山口さんが宿泊していたホテルのベッドで、避妊具をつけずに性行為をされていることに気づき、その後も体を押さえつけるなどして性行為を続けようとされたという。
そうした伊藤さんの主張に対し、裁判所は証拠や証言、供述などをもとに、こう判断した。
・伊藤さんは、2軒目の寿司屋を出た後、「強度の酩酊状態であったものと認められ」、ホテルの居室で目を覚ますまでの記憶がないとする供述内容とつじつまが合う。
・伊藤さんがシャワーを浴びず、1人でホテルを出て帰宅した行動は、性行為が合意のもとだったとすれば、「不自然に性急であり」「ホテルから一刻も早く立ち去ろうとするための行動であったと見るのが自然」
・伊藤さんが同日中にアフターピルの処方を受けた行為は、避妊をしなかったことが「(伊藤さんの)予期しないものであったことを裏付ける事情と言える」
・山口さんがTBSのワシントン支局長を解任される前に、伊藤さんが友人や警察に相談した事実は、性行為が「(伊藤さんの)意思に反して行われたものであることを裏付けるものと言え」、警察に申告した時点では就職のあっせんを期待できる立場にあったから「あえて虚偽の申告をする動機は見当たらない」
山口さんの主張に対して

一方、山口さんは、性行為を合意のもとと主張した。そして、伊藤さんが記者会見や手記などを通して被害を訴えたことで、自身の名誉を毀損されて信用が失われたほか、プライバシーを侵害されたとし、慰謝料1億3000万円や、謝罪広告の掲載を求めて反訴した。
裁判所は、山口さんの主張に対しては次のように判断した。
・山口さんが、伊藤さんをホテルに連れて行くと決めたのは、タクシーの車内で伊藤さんが嘔吐した時点で、乗車するまで酩酊の程度はわからなかったとした。ただし、寿司屋からその最寄り駅までわずか5分ほどの距離だったことを考えると、タクシーに同乗させた点に「合理的な理由は認めがたい」
・山口さんは、伊藤さんがホテルの居室で深夜に目覚めた際、「私は何でここにいるんでしょうか」と話し、就職活動について自分が不合格であるか何度も尋ね、酔っている様子は見られなかったと供述した。だが、伊藤さんの「私は何でここにいるんでしょうか」という発言自体が、居室に入ることを同意していない証だと言うべき。
・さらに、伊藤さんが寿司屋で強度の酩酊状態になり、ホテルの居室に到着した後も嘔吐し、山口さんの供述だと一人では服を脱ぐのもままならなかったとすることを考えれば、約2時間という短時間で、酔った様子が見られないまでに回復したとするのは、「疑念を抱かざるを得ない」
・山口さんの供述する事実の流れを見ると、伊藤さんがホテルの居室でシャワーを浴びず、早朝に1人でホテルを出たことと整合しない。
・ホテルでの件があった後、山口さんは伊藤さんへのメールで、伊藤さんから自分が寝ていた窓側のベッドに入ってきたと説明した。しかし、法廷での本人尋問では、山口さんは伊藤さんに呼ばれたので窓側のベッドから、伊藤さんが寝ている入口側のベッドに移動したと供述しており、話が矛盾する。
・山口さんは、性行為の直接の原因となった伊藤さんの直近の言動という「核心部分」で「不合理に」供述が変わり、「信用性には重大な疑念がある」
裁判所はどうまとめたか

裁判所は両者の供述をもとに、伊藤さんの供述は、山口さんの供述と比較しても「相対的に信用性が高い」としたうえで、こうまとめた。
・伊藤さんがホテルの居室に入ったのは、自らの「意思に基づくものではない」
・酩酊状態で意識のなかった伊藤さんに、山口さんが合意のないまま性行為をした事実が認められる。
・伊藤さんの意識が回復し、性行為を拒絶した後も体を押さえつけ、山口さんが性行為を継続しようとした事実が認められる。
・それらから、山口さんの行為は、伊藤さんへの「不法行為」で、損害賠償額は330万円だと言える。
山口さんの反訴には
そして、山口さんによる反訴については、こうまとめた。
〈名誉毀損について〉
・性犯罪の被害者を取り巻く法的・社会的状況の改善につながるとして、伊藤さんは自身の体験を明らかにしたと認められる。
・「公益を図る目的で表現」したと認めるのが相当で、明かした事実は「真実であると認められる」ことから考えれば、公表は名誉毀損には当たらない。
〈プライバシーの侵害について〉
・伊藤さんによる体験の公表は、「公益性」と「公益目的」があると認められる。
・さらに両者で主張が対立する中、合意のもとだったとする山口さんの主張に反論するために、伊藤さん自身の言い分を明らかにするためだったと認められる。それらを踏まえれば、山口さんへのプライバシーの侵害とは言えない。
・総合的に判断すると、山口さんは伊藤さんに330万円を支払うべき「理由がある」が、名誉毀損とプライバシーの侵害を訴えた山口さんに、伊藤さんが損害賠償する「理由がない」
これらが、裁判所が両者による民事訴訟で判断したものだ。
山口さんは、この判決を不服とし、記者会見で「私が述べたこと、私が目撃して証言したこと、私が説明した部分はことごとく否定されている」などと語った。そして、控訴審で争う意向を明らかにしている。
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